第3話 星路に潜む影 4
宇宙海賊との戦闘の後、3隻の宇宙船は予定より遅れたものの、ようやく[アルファーニア]の軌道上へと辿り着いた。
ヴェオルは客室に戻り、操縦室に残ったのは、レヴァリスとサレナの2人だけだった。
「ここが目的地の惑星なんですね。自然豊かで住みやすそうなところです」
「そうだな。入植するには適した惑星だ」
[アルファーニア]は宇宙から見ると緑豊かな惑星であり、地表には2つの大陸が存在しており、その間には隙間を埋めるように大洋が広がっている。
まだ惑星の大部分が未開拓領域ではあるが、それだけに様々な可能性を秘めているともいえた。
『レヴァリス、すまないけどそっちの計器に異常は見られないかい?』
「どうした急に? 今すぐ確認する」
エレフィエルからの連絡を受けてレヴァリスはすぐに計器を確認する。
すると先ほどまでは正常だったはずの計器に、ノイズのようなものが見られていた。
通信にも少し雑音が入っており、機器を調整しても直らなかった。
『ああ、それならしばらくすれば収まるはずや。どうもこの惑星には局所的に磁場の強いところがあるんや』
「こちらに悪影響はあるのか?」
『いや全然。しばらくすれば直るから気にしとらんかったわ』
『それは知らなかったな。まあ確かに計器にちょっとノイズが走ったり、通信に雑音が入る程度ではあるね』
何度か[アルファーニア]を訪れているエルメティから、2人はこの現象についての説明を受ける。
実際、ノイズはごく短時間で収まり、計器の数値にも異常はなかった。複数の計器に同時に起きた点は気になったものの、航行に支障を及ぼすほどではない。
「気にするほどではないか」
そう言ってレヴァリスはこの現象に対する警戒心を解くと、大気圏への降下に備えて操縦桿を握り直した。
やがて3隻は大気圏へ降下し、大陸のひとつである“ナリオール大陸”の上空に入った。
上空から見た大陸は連なる山脈や大河、黄金色の草原地帯など様々な景色を見せていた。
編隊を維持しながら徐々に高度を落としていくと、やがてフロンティア・ナリスの管制から通信が入った。
『こちらはフロンティア・ナリス管制塔。接近中の船団に告ぐ、直ちに所属と目的を名乗れ』
「こちら上級冒険者レヴァリス。商人のエルメティの護衛で来た。今から識別コードを送る。3隻分の着陸許可を求める」
『上級冒険者……? 識別コードを確認します。少々お待ちください』
どうやら管制官は上級冒険者の来訪に驚いたようだ。
しばらくすると管制官は再びレヴァリスに通信を入れる。
『失礼いたしました。こちら側の誘導信号に従い着陸場へ向かってください。ようこそフロンティア・ナリスへ』
管制官は先程とは打って変わって、うやうやしくレヴァリスに接してきた。
『なんや、うちの時よりもえらい丁寧な対応やな』
通信を聞いていたエルメティは管制官の明らかな態度の変化に、少し不服そうな声を漏らした。
管制塔側からはすぐにそれぞれの宇宙船へ誘導信号が届き、3隻はそれぞれの案内に従って進路を変更する。
やがて黄金色の草原地帯を越えた先にフロンティア・ナリスの街並みが見えてきた。
草原を最低限整地しただけの簡素な発着場が見えてくる。そして各宇宙船はそれぞれに割り当てられた区画へと着陸を開始した。
レヴァリスは地上の誘導員の指示に従って着陸脚を展開し、<ペイルライダー>をゆっくりと接地させた。
機体が安定したのを確認してメインエンジンを停止すると、プレハブ小屋から検疫作業員が現れた。
「外に大勢の人達が集まってますね」
「開拓地への商人の到着はちょっとしたイベントだからな」
簡易検疫を終える頃には、発着場を囲む柵の向こうに大勢の開拓者達が集まっていた。
『僕は少し準備してから下りるよ。先に行って良いよ』
「分かった、また後でなエレフィエル」
エレフィエルからの通信を切るとレヴァリスは通信機を手に取る。
「フロンティア・ナリスに到着した。乗客は荷物を忘れないように。ビープは船外に出て損傷箇所の修理を。それからリフトロイド達は貨物の荷下ろしの準備を始めろ」
各員への指示を通達すると機体前面の乗降用ランプを下ろし、2人は下級冒険者達と共に外へと降り立った。
外に出ると開拓者達のざわめきが大きく聞こえてくる。
よほど商人の到着を心待ちにしていたのか、誘導員達が止めなければ今にもこちらに押し寄せてきそうな勢いだ。
「いやあ、今回もすごい盛況やな」
先に下りていたエルメティが端末を片手に、集まってきた開拓者達を眺めながら言った。
「エルメティ、護衛の仕事は完了した。悪いが契約完了のサインをくれ」
「おお、そうやったな。ご苦労さんやで」
レヴァリスは自身の携帯端末を取り出し、それから互いに自らの電子サインを書くことで護衛契約を完了する。
この電子サインを冒険者ギルドの施設で提示すれば、護衛任務の報酬を受け取ることができる。
「ところでこの後に積み下ろしがあるんやけど、おたくのオートロイドを貸してくれへん?」
「そいつは無理だな。俺も冒険者ギルドの支部に貨物を運ばねばならん」
「あちゃーそっか。そりゃそっちの方が大事やな」
「人手が必要ならば、あいつらに聞いてみればいい」
レヴァリスはそう言うと後ろにいた下級冒険者4人組の方に首を向ける。
4人は急に話を振られたこともあり戸惑っているようだ。
「えっと、いきなりそう言われても困るんっすけど……」
「おお、そういえばおったな。なーに、そんな難しい仕事じゃないから」
「いや、先に自分達の荷物とかを——」
「そんなん、あとあと。手間賃もちゃんと用意するから……」
結局エルメティはヴェオル達を言いくるめ、積み下ろしの人員として確保してしまった。
「みんな連れて行かれちゃいましたね」
「下級のうちは仕事にありつけるだけありがたいものだ。それも経験だろう。さて、俺達も支部に行かないとな」
サレナに対してそう言うと、2人は発着場からひとまず冒険者ギルドの支部施設へ移動することにした。
フロンティア・ナリスの街は人々の活気に満ち溢れていた。
あちこちで建設作業の音が響き、開拓者達は様々な業務を熱心にこなしている。
治安も悪くないようで子供達が元気に街路で遊んでいたり、所々では民兵と思しき者達が立って警備を行っていた。
また街の中央には、事前資料で見た植民船の艦橋が周囲の建物よりひときわ高くそびえている。
どうやら街は植民船が着陸したこの場所を中心に発展してきたようだ。
発着場は街の南側にあり、2人は北西にある冒険者ギルドの支部へと真っ直ぐ向かった。
冒険者ギルドの支部は周囲の建物とは随分と毛色が違っていた。
4階建ての建物は分厚い防壁に取り囲まれていた。さらに敷地には2基の防衛用砲塔まで据えられており、まるで小規模な軍事基地のようだった。
「随分と物々しい感じですね」
「いざという時は住人達の避難場所にもなるからな。支部施設は大抵の場合は頑丈にできている」
説明しながら建物に足を踏み入れると、そこにいた職員達が一斉に2人へ視線を向けた。
そして奥のカウンターで作業をしていた人間女性がおもむろに近づいてきた。
「もしや上級冒険者の方ですか?」
「上級冒険者のレヴァリスだ。本部から施設に必要な機材一式を輸送してきた」
用件を聞いた彼女は、待ちわびていたかのように笑みを浮かべた。
「やっと頼んでいた機材一式が届いたんですね。お届けありがとうございます。機材はどちらに?」
「まだ発着場にある宇宙船の中だ。そっちの搬入の準備ができてるなら、いつでも俺のリフトロイド達が運び込むぞ」
「こちらはすぐに貨物の受け入れが可能です。おっと、失礼しました。私は“アリエカ・レクリテ”、アルファーニア支部の支部長を務めています」
どうやら話しかけてきた彼女はこの施設の支部長だったようだ。
アリエカは40代半ばといった小柄な人間女性で、背中にはサードアームを取り付けていた。
サードアームは第三の腕として機能する拡張義肢の一種で、特にメカニックなどの技術者が好んで使用する義肢であった。
「速やかに倉庫の搬入口を開けてちょうだい。それとカウンターに機材をすぐ設置できるよう、準備を進めておいて」
彼女は他の職員達に貨物受け入れ態勢を取るように指示を飛ばす。
職員達はきびきびと動きだし、彼女は再びレヴァリスの方を向いた。
「こちらはいつでも搬入が可能です」
「そうか。それならあいつらを動かすとしよう」
携帯端末で<ペイルライダー>に待機しているリフトロイド達に、機材の入ったコンテナを運び込むように指示を下す。
画面越しのリフトロイド達は、それを聞くや待ってましたと言わんばかりに甲高い機械音声を鳴らし、指定されたコンテナを持ち上げると移動を開始した。
「じきに貨物が運ばれてくる。悪いが連中の誘導は任せた」
「ええ、こちらとしても運んでくれるのは助かります。すいませんが封印とコンテナの状態を確認するまで、少しだけ待ってもらえますか?」
「それは構わない。ああ、それと——」
そう言うとレヴァリスはふと宇宙海賊との遭遇を思い出した。
冒険者ギルドでは宇宙海賊の討伐には報奨金が出されており、戦闘記録を提出することでその成果に合った額を貰うことができた。
何よりもあれだけの規模の宇宙海賊が星系内にいたことを、ギルド側に報告しないわけにもいかなかった。
「実はここに来るまでに、この星系内で宇宙海賊と遭遇した」
「何ですって? この星系で?」
「ああ、ジャンクファイターが24機。空母に改造された中型貨物船が1隻だ。遭遇した連中は全て始末したがな」
それを聞くとアリエカはほっと息を吐く。少なくとも全滅させたことには安堵したようだ。
「輸送任務どころか海賊の討伐までしてくださるとは。貴方には頭が上がりませんね」
「戦闘記録は後で提出でいいか?」
「もちろんですとも。色々あって疲れたでしょう、お部屋でも用意しますか?」
「いや、大丈夫だ」
レヴァリスとサレナはリフトロイド達が来るまで支部施設の館内で待機した。
まだ真新しい支部施設は必要な機材一式が揃っておらず、一部の重要業務を行えないまま仮運用が続いていた。
宿泊施設など既に利用可能な設備だけが先行して機能している状態だった。
こんな状態でも冒険者達は訪れるため、職員達は限られた設備で対応に当たっているようだ。
「1ヶ月も機材が来ないせいで、今いる冒険者達のストライダーカードを更新できないんです。上級冒険者の手配をあの馬鹿——失礼、あの男に任せたのは間違いでした」
彼女は腕を組みながらそう話すが、背中のサードアームはしきりに手首を回転させている。冷静に見えて苛立ちを隠しきれていなかった。
上級冒険者の手配に手間取り、頭を抱えていたであろうアティグウの姿を想像したレヴァリスは大きく溜息を吐いた。
やがて3体のリフトロイド達が5基のコンテナを支部施設に運んできた。
その小さな身体よりも遥かに大きいコンテナを浮かせて運ぶ姿に、施設の職員達は思わず圧倒されていた。
「黒いコンテナはそちらの区画に、青いコンテナは向こうの区画にお願いします」
アリエカによって倉庫に誘導された3体は指定された位置にコンテナを配置する。
黒い4基のコンテナは職員達によって封印が解除され、内部の機材の確認作業が始まった。一方、青いコンテナは配送担当へと引き渡される。
役目を終えた3体のリフトロイド達は、縦隊を組んで<ペイルライダー>へと戻って行った。
そして全てのチェックが完了すると、黒いコンテナから取り出された機材は職員達によって施設の各所へ運び込まれていった。
「レヴァリスさん、お待たせしました。コンテナの中身に損傷がないことを確認しました。では、こちらにサインを」
アリエカの携帯端末にレヴァリスは電子サインを記し、これでギルドから頼まれた任務も完了した。
続けてエルメティの電子サインも提示し、商船護衛の完了手続きを済ませた。輸送と護衛の報酬は、2人の口座へまとめて振り込まれた。
「あの、こんなに貰って良いんですか? 見たことのない金額なんですが……」
サレナは振り込まれた75000リイルというあまりの大金を見て目を点にしていた。
「ん? 商船護衛とギルドの任務を合わせればそんなものだろう。それにお前は4機も撃墜したから、まだ討伐報奨金も貰えるぞ」
「ええっ、こんなにお金を一気に貰っても使い道が思いつきません」
「それを考えるのも経験のうちだ。どう自分に投資するかはよく考えるんだな」
サレナはレヴァリスの言葉を聞くと俯いて悩み始める。
今回の収入は下級冒険者の平均年収の倍近い額だ。さらにまだ宇宙海賊の討伐報奨金まである。
レヴァリスはこの報酬を彼女がどう自分の成長に役立てるのか、見定めるつもりだった。
「それでは私は機材の設置作業に戻ります。施設の機能が整い次第またご連絡をします」
丁寧に2人に挨拶をするとアリエカは施設の作業へと戻って行った。
「しばらくはこっちも準備に時間がかかるだろう。俺達は街にでも繰り出すか」
「そうですね、せっかく来たのですから街を見に行きましょう」
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