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青藍のストライダー ~星々を駆ける冒険者たち~  作者: Omega Blue
第3話 星路に潜む影

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第3話 星路に潜む影 1

 超光速航法(ハイパーダイブ)によって超空間に突入した<ペイルライダー>は、銀色に輝く空間内を突き進んでいた。

「さて、7時間は超空間の中だ。しばらくは自由に過ごせるがどうする?」

「そうですね……皆さんの様子を見に行ってはどうでしょうか? 交流することも大事ですよね」

「コルマリア以外とはまだあまり話してはいないからな。それも良いだろう」

 新しく乗り込んだ4人に対し、レヴァリスも興味を抱いていた。

「エレジャー、しばらく操縦室を離れる。何かあれば連絡しろ」

 レヴァリスは通信機でエンジンルームにいるエレジャーに対して、操縦席をしばらく離れる旨を伝えた。

 向こうからは了解を示す電子音がすぐに返ってきた。

 超空間内は航法装置による自動航行であるため、何も起きなければこの時間は自由に過ごすことができた。

 操縦席から立ち上がると、2人はまず誰かがいそうな客室へと赴くことにした。

 

 <ペイルライダー>の客室は操縦室の後方に2部屋あり、それぞれ3人が寝泊まりできるようになっている。

 片方の部屋にはアルディマンティスの冒険者がいて、そこで自身の狙撃銃の手入れをしていた。

 彼は2人がやってくると、顔を上げてつぶらな黒い複眼を向ける。

 全体的に身体は華奢で四肢は木の枝のように細い。横に平たい頭や胴体は甲殻で覆われていた。

「ギギ……初めマシテ、レルカ=ダンだ。ヨロ……ヨーロしく?」

 彼は狙撃銃の手入れを一旦止めて、2人に対してだいぶぎこちない標準語で挨拶をした。

 アルディマンティスは肉食生物が跋扈する惑星[ディマンティア]出身の昆虫種族であり、本来は女王を頂点とした真社会性の生活を営んでいる。

 この種族は自我が集合意識に隷属しており、巣(ハイヴ)と呼ばれる頑丈な防壁で囲まれた都市でただ淡々と与えられた己の役割をこなすだけであった。ところが、稀にそこから独立した自我に目覚める個体が現れる。

 そうした個体は、外界で巣に利益をもたらすという建前で、銀河社会へ放逐されてしまう。

 ぎこちない標準語を聞く限り、彼が故郷から放逐されてまだ日が浅いのだろうと、レヴァリスは考えた。

「お前は狙撃銃を持っているが、斥候や狙撃が得意なのか?」

「レルカは巣ノ守リ手だった。コレは初めテ買った武器。良イ武器は一撃で仕留めるモノ。近付カレて反撃サレルノは死に直結スル」

「なるほどな。一理ある」

 レルカ=ダンから返ってきた答えを聞いてレヴァリスは頷く。

 巣の守り手という言葉から元は防衛を担う兵士種だったようだ。

 アルディマンティスの華奢な身体では、一撃を受けただけでも致命傷になりかねない。

 そのため遠距離から敵を仕留められる狙撃銃を得物に選んだようだ。

「トコロで、照準器ノ架台と銃床ヲ調整シタイ。工作道具かナニカヲ貸してモラエナイか?」

「隣の部屋が工作室だ。必要ならそこを使っても構わない」

「それはアリガたい。レルカは細カイ作業がシタかった。巣(ハイヴ)の工場ノ連中ほどジャナイガ、細カイ作業はデキる」

 そう言うとレルカ=ダンはぎこちなく一礼し、隣接する工作室へと向かって行った。

「あの人の故郷はどんなところなのでしょうか?」

「アルディマンティスの故郷か? 星外から来た者の半数が、到着から1時間もしないで命を落とすと言われるほどには危険だ」

「い、1時間ももたないんですか?」

「動物だけでなく、植物まで肉食だというからな。まあ、ハンター達には楽園と呼ばれていて人気らしいが」

 植物すら襲いかかってくる[ディマンティア]は、死の惑星(デスワールド)に分類されている。

 この星ではハンター達も等しく狩人であり、獲物でもあった。その過酷さが腕試しを望む者達を惹きつけていた。

「そんなに危険な星の出身だったんですね」

「少なくとも、危険を避けて先手を取るという生存感覚は身に付いているようだ。武器を見た限り手入れも行き届いているし、危険な惑星出身の奴はタフなのさ」

 レルカ=ダンはまだ下級冒険者だが、おそらく故郷では多くの死線を潜り抜けてきたのだろう。

 そういったところを生き抜いた者は冒険者としての資質が高いといえた。

 2人は彼が工作室に行ってしまったので他の下級冒険者を探すことにした。


 工作室の向かいにある医療室では、アウロランの冒険者が医療設備を眺めていた。

「どうもレヴァリスさん、それからサレナさんも。私は“セレリーン・イグナル”と申します」

 丁寧な所作でセレリーンは2人に挨拶する。

 彼女は清潔感があり、知的で整った顔立ちをしていた。

 白髪はボブカットに整えられており、艶のある黒い肌に右目の下の白いほくろがよく映えていた。

 彼女の故郷である[アウロラⅤ]は自転と公転が同期しており、常に恒星へ同じ面を向けている。

 そのため昼側は灼熱、夜側は極寒となり、アウロランは両者の境界にある“黄昏の領域”で暮らしていた。

 また医療従事者が中心の社会を築いており、銀河社会でも医者や看護師、薬剤師といった医療関係の職に就く者が多かった。

「この部屋にいるということは、どこか調子が悪いんですか?」

「いえ、その……消毒液の匂いがするところの方が落ち着くものでして。通っていた医療学校と実家と同じ匂いと言えばよいでしょうか」

 サレナの質問にセレリーンは少し恥ずかしそうに答える。

「それにしてもこんなに立派な設備をお持ちなのですね」

「元々この宇宙船に備え付けられたものだ。俺は応急処置ぐらいしかできなくてな。まともにこの設備を使っていたのは、4ヶ月前に乗せた境界なき医師団の連中だけだ」

 境界なき医師団の名を聞いた途端、前日の講座を思い出したのか、サレナの頬がわずかに引きつった。

「なるほど、境界なき医師団の方々とも面識があるのですね」

 と、セレリーンが応じた。

「医療室どころかこの船そのものを野戦病院にされたがな。金は払ってくれたが、後始末と物資の補充だけで大赤字だった……」

 そう言うとレヴァリスは深く溜息を吐いた。

 サレナとセレリーンもその溜息の意味を察したのか、それ以上は尋ねなかった。

「私はもうしばらくこの部屋にいるつもりです」

 それからセレリーンとは医療室で別れ、2人は次に隣の多目的室へ移動することにした。


 船内の2階中央部分にある多目的室は、元々は指揮所としての機能を持った部屋であったが、レヴァリスによって改造されて現在は生活感のある空間となっている。

 作戦会議や映像鑑賞に使えるホロテーブルを中心にソファが並び、壁際には調理設備や“プラネリウム”という植物栽培装置が設置されていた。

 ちょうどこの部屋にいたのはヴェオルであり、プラネリウムの中で育つ白く幻想的な植物群を見つめていた。

「そいつは[エムナーレ]という惑星で採取した植物だ」

 レヴァリスが背後から声をかけると、ヴェオルは体毛をぴんと逆立てて振り向いた。

「あっ、レヴァリスさん、それにサレナさんもお疲れ様です。あの、質問なんですが何で宇宙船で植物を育ててるんですか?」

「船内ってのは意外と殺風景だからな。植物でも置いておけば多少は彩りというか、目の保養になるものさ」

「はぁ、なるほど。いわゆる——そう、居住性ってやつですかね」

「まあそんなところだ。俺も昔は居住性というのは軽視してたんだが、色々あって考えを改めた。高くはついたが効果は十分ある」

 その説明にヴェオルだけでなく、サレナもまた感心したように頷いた。

 長旅の多い冒険者にとって、居住性は心身の状態を左右する重要な要素だった。

 自分一人なら不便にも耐えられるが、時には客人や同行者を乗せることもある。

 そのためレヴァリスは費用を惜しまず、多目的室に娯楽設備や観賞植物などを揃えていた。

「ところでこちらからも質問なんだが、アヴィゼルというのはどういう種族なんだ? 実は見たことがなくてな」

「俺っちの種族は外縁領域の[アヴィゼーン]ってところが故郷っす。今から大体150年前に発見されたばっかりで、銀河社会じゃまだまだ新参者ですかね」

「150年か、確かに新参者だな」

「それで村長をしている父が村の皆と相談して資金を集めて、俺っちを銀河社会へ送り出してくれたんす。将来は故郷に戻って、経験と知識を伝えるのが役割って感じっすね」

「冒険者になったのは見聞を広めるためだったんだな」

「はい、そんな感じっす。冒険者になってあちこち行きましたけど、俺っちの種族は正直言って、原始時代同然の暮らしをしているのだと痛感しましたよ。まだまだ慣れないっすね」

「だが、お前の父親は先見の明があるようだな。銀河社会を知るために送り出したんだろう?」

「ありがとうございます。村の中には結構反対する人も多くて、父の考えを理解してくれるのは嬉しいっすね」

 父の考えを肯定されたことが嬉しいのか、ヴェオルの長い尻尾が小さく揺れていた。

「自分はもう少し船内を見学させてもらいます。いつかこんな立派な宇宙船に乗って故郷に戻りたいっすね」

「はい、わかりました。ところでマリアちゃんは何処にいるか知ってます?」

「コルマリア? 確かオートロイド達と貨物区画に行きましたね。何をしてるのやら」

 ヴェオルにコルマリアの居場所を聞いた2人は、1階部分の貨物区画へ赴くことにした。


 <ペイルライダー>の1階部分はおおまかにエンジンルームと貨物区画に分かれている。

 貨物区画には探索や日常生活に必要な物資が整然とまとめられており、今回はギルドからの依頼品であるコンテナも積まれていた。

 封印コンテナから離れた貨物スペースではコルマリアが、ビープや3体のリフトロイドと共にボードゲームで遊んでいた。

「はい、私の勝ち!」

「グヌヌ、マタ裏ヲカカレタ! 悔シイ!」

 どうやら今回の勝負はコルマリアが勝利し、ビープが負けたようだ。

 リフトロイド達は甲高い声をあげながら囃し立てるようにランプを激しく点滅させており、ビープはそんな彼らに怒ったようにガーガーと電子音を発した。

 貨物区画へ入った2人は、目の前の光景に揃って足を止めた。

「会ったばかりのオートロイドとボードゲームで遊ぶとは、お前の友人は中々の大物だな?」

「そ、そう思います……」

 レヴァリスのその言葉にサレナも戸惑い気味に同意した。

「あっ、レヴァリスさん、こんにちは! ここにいるのは面白い子達だね」

「お前はあまりオートロイドに抵抗感や忌避感はないんだな。下級冒険者のうちは苦手意識があるものだが」

「んー、あんまりないかなー。だってあんまり機械っぽくないし」

 コルマリアはビープの頭部に手をぽんぽんと当てながらレヴァリスにそう答えた。

 人工知能の反乱以来、銀河社会にはオートロイドへの根深い忌避感が残っている。

 技術者や研究者だけでなく、オートロイドを連れる冒険者まで不審視されることがあった。

「すごいなぁ、私はまだちょっと苦手意識があります」

 サレナは楽しそうに明滅するビープ達を見つめたが、その表情がほんの一瞬だけ強張った。

 [カダーディアⅢ]での経験がまだ尾を引いているのだろうと、レヴァリスは察した。

「そういえばこの子達って銀河帝国製?」

「ああ、その通りだコルマリア。半年前に探索した遺跡から発掘したんだ」

「私もいつか見つけたいなあ。こう、デカくて強そうなやつとか」

「流石に軍事用オートロイドの所有は下級冒険者には無理だな。そもそも軍事用を保有できるのは上級冒険者になってからだ」

 冒険者ギルドの規定では軍事用オートロイドの保有は上級冒険者のみとなっていた。

 特に銀河帝国製のオートロイドは強力なものが多く、その扱いには慎重さが求められているからだ。

 またオートロイドの保有は個人の責任が大きく問われるため、下手な運用をすれば没収どころか冒険者資格の剥奪や追放処分が下る。

「コルマリア、モウ一度勝負ダ!」

「おっ、やる気だなー。次も負けないもんね」

 ビープは腕をぶんぶんと振り回しながら、コルマリアにもう一度ボードゲームでの勝負を挑んできた。

 3体のリフトロイドもその周囲をぐるぐる回り、2人の勝負を囃し立てている。

「真剣勝負だ、邪魔はしないでおこう」

「はい、それじゃあ頑張ってねマリアちゃん」

「2人ともまたねー」

 レヴァリスとサレナは勝負を邪魔しないようにその場を去った。


 貨物区画を後にしながら、サレナは小さく息を吐いた。

「今回同行される方々は随分と個性的ですね。マリアちゃんも相変わらずでしたし」

「冒険者なんてものは大抵そんなものさ。だが、話してみれば何ができるかは見えてくる」

「この後はどうしましょうか?」

「そうだな、とりあえずお前にはやってもらいたいことがある。まずは操縦席に戻るか」

「私にですか? はい、分かりました」

 首をかしげるサレナを伴い、レヴァリスは操縦室へ向かった。

ここから3話となります。

宇宙戦などもありますのでお楽しみに。


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