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青藍のストライダー ~星々を駆ける冒険者たち~  作者: Omega Blue
第2話 帰還と旅立ち

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第2話 帰還と旅立ち 8

 2人が開館したばかりの総合センターを訪れると、すでに大勢の冒険者が詰めかけていた。

 銀河系の各地から寄せられる依頼は日毎に更新されるため、少しでも報酬の良い依頼を求めて、冒険者達は朝早くから待ち構えているのだ。

 人混みをかき分けながら2人の担当官が並ぶカウンターへ向かうと、アティグウは疲労困憊で机に突っ伏しており、隣ではスルシャが呆れるような顔で見つめていた。

「スルシャさん、おはようございます」

「あら、2人とも今日は早いじゃないの」

「任務を引き受けに来たんだがこいつはどうかしたのか?」

「貴方達が[アルファーニア]に行くかもって他の職員に口を滑らせてね。それで以前の借りを返す形で、ほかの職員が抱えていた案件まで見事に押しつけられたのよ。そのせいで徹夜だったみたい」

 スルシャがそう説明するとレヴァリスもまた呆れるように溜息を吐く。

 これはつまるところギルドの輸送任務以外にも何かしらの仕事が増えたということでもあった。

「ほら、さっさと起きなさい。2人が来たわよ」

「お、おう……」

 スルシャに頭を軽く叩かれ、アティグウは緩慢な動きで机から顔を上げる。単眼を覆う瞼は半ば閉じ、いかにも寝不足といった様子だった。

「昨日言っていた輸送任務を引き受けようと思う」

「そ、そうか。引き受けてくれるんだな」

 レヴァリスがそう言うと、アティグウは疲れた笑みを浮かべながら机上の端末を操作し、2人の携帯端末へ航路データと更新された貨物目録を転送した。

「昨日聞いていたよりも随分と積荷が多いな?」

 貨物目録に目を通したレヴァリスは昨日聞いた話よりも明らかに増えている積荷の数を訝しんだ。

「実はあれから、ほかの職員が担当していた[アルファーニア]宛ての輸送依頼まで回されちまってな。どうせお前の宇宙船ならこの量ぐらいは運べるだろ?」

「運送屋じゃないんだがな。まあいいさ、報酬がその分増えるならな」

「助かるぜ。依頼品はずいぶん前から溜まっていて、向こうへ行く船を待っていたのさ」

 アティグウはそう言うとすぐに机上の端末を操作し、近くを歩いていた別の職員を呼び止めた。

 そして追加分の依頼品を<ペイルライダー>へ積み込むよう指示を出した。

 普段はだらしないが、ひとたび仕事となれば有能な男だ。10年以上付き合ってきたレヴァリスも、担当官としての手腕には信頼を置いていた。

「よし、それじゃあ今回の任務と目的地について説明するぞ」

 アティグウが端末を操作すると、2人の携帯端末に目的地である“フロンティア・ナリス”の街並みを映した詳細な映像が表示された。

「今回の任務の行き先は惑星[アルファーニア]のフロンティア・ナリスだ。戦争難民を対象とした移住計画により、2年前に第一次開拓団が築いた街だ」

 およそ5000人が暮らす開拓地は小さな街程度の規模を有していた。

 映像には街の各所で忙しなく働く人々の姿が映り、現在も拡張工事が続いていることがうかがえた。

「思っていたよりもかなり活気がありそうだな」

 戦争難民が築いた開拓地と聞き、レヴァリスは大規模な難民キャンプのような場所を想像していた。

 だが、映像の人々はすでに難民というより開拓者の顔をしており、街の規模も活気も予想を上回っていた。

「この開拓地の中心にある特徴的な建物は何でしょうか? 宇宙船の一部みたいです」

「ああ、それは開拓者達を乗せてきた植民船の艦橋部分だな。確か、今は役場として使われている」

「植民船で来たのならこれだけ早い発展も納得できるな」

 植民船は大型の宇宙船の一種で船体と内部構造そのものが資材となるように設計されている。

 惑星への降下後、船体の大部分は開拓資材として解体されたが、艦橋部分はそのまま役場に転用された。

「それで実はもうひとつ頼みがある。この場所に向かう“星間商人”の護衛も頼みたいんだ」

「商人の護衛? ギルドからその手の依頼が来るとは珍しい」

 星間商人とは惑星から惑星へ旅しながら商いをする行商人達だ。

 大抵は軽貨物船を所有する個人商人であり、銀河社会における流通網の毛細血管としての役割を果たしている。

 特に僻地や辺境の居住地では彼らの存在は大きい。彼らがいなければ外界へ品物を売ることも、必要な物を買うこともできないからだ。

「普通なら護衛は宇宙港の酒場でフリーランスのパイロットに頼むものだからな」

 商品を積んだ商船は宇宙海賊などに狙われやすく、護衛を雇うのが常である。

 しかし、多くの商人は酒場でパイロットと直接契約するため、ギルドを介した依頼は珍しかった。

「依頼主は新米の商人でな。だが、目利きは確かなようでフロンティア・ナリスとも積極的に取引をしてくれている」

「御用商人ってやつか」

「まあ、そんなところだな。新米とはいえまだ発展途上の開拓地にとっては貴重な存在だ。そういうわけで、お前に護衛を頼みたいんだ」

「こっちの方が責任重大じゃないか?」

「おいおい、ギルドの依頼も重要だってことを忘れないでくれよ。で、こっちも引き受けてくれるか?」

 レヴァリスは少し考えたものの、行き先が同じなら引き受けても問題はないと判断した。

 商船護衛は危険を伴うが、実入りはいい。これまでも路銀稼ぎとして何度も引き受けてきた仕事だった。

「いいだろう、そっちも引き受けてやる。それで出発日は?」

「今その商人はフロンティア・ナリスの行政から注文された品を市場で仕入れている。予定では明日には出発だが、それまでに支度だけは整えて——ん、どうした?」

 アティグウが説明している途中、別のギルド職員が慌ただしく現れ、彼に耳打ちした。

「なにっ、またなのか? すまんレヴァリス、急な仕事が舞い込んだ。詳しいことは後でこちらから連絡する」

「ああ、それじゃあな」

 アティグウは軽く手を振ると、その職員と共に小走りで去っていった。

 ベテランのギルド職員ともなれば常に複数の案件を抱えている。また急な仕事も舞い込むため極めて多忙である。

 隣のスルシャのカウンターを見るといつの間にか長い行列ができており、彼女はそれが日常だとばかりに業務をこなしていた。

「昨日はお前の装備を整えたが今日は[アルファーニア]に向かう支度をするとしよう」

「はい、それじゃあ冒険者街に行きましょうか」

 サレナはスルシャに一声かけると、レヴァリスと共に冒険者街へ向かった。


 2人は携帯端末の補給リストを確認しながら、必要な物資を扱う店を順番に回っていった。

 レヴァリスが補給の難しい外縁領域で過ごしていたこともあり、リストには不足品がずらりと並んでいた。

「リストを見るとかなり物資が足りていませんね。レヴァリスさんはどれぐらい外縁領域にいたんですか?」

「ざっと2ヶ月といったところだな。お前を助ける任務を受ける直前は商船の護衛をしていた」

「長い間、外縁領域で活動していたんですね」

「まあな。本当はもう少し早く[クロムネムシャ]に戻る気だったんだが、何事も予定通りとはいかないものだ」

 その言葉に、レヴァリスはふと思い至った。

 もし予定通りに帰っていれば[カダーディアⅢ]を訪れることもなく、サレナとこうして一緒にいることもなかったのだろう。

 予定が狂ったのも今回は悪いことばかりではなかった。そう思えたのは初めてかもしれない。

 だが、そんな考えを口に出す気にはなれなかった。

「どうかしましたかレヴァリスさん?」

「いや、少し考え事をしていただけだ。次は交易品店にでも行くとするか」

「交易品店にですか?」

「馴染みの店がある。案内しよう」

 補給リストにない店へ向かうと聞き、サレナは不思議そうに首を傾げた。

 レヴァリスがよく利用する交易品店“レクトム商会”へとサレナを連れて行った。

 広々とした店舗内には様々な品が整然と並び、その多くを酒や煙草といった嗜好品が占めていた。

 齧歯類を思わせる小柄な種族である“デクグ”の店員達が、商品棚の間を忙しなく行き交っている。

 店の奥では店主である初老の人間男性“レクトム”がパイプをくゆらせながら携帯端末をしげしげと見つめていた。

 来店を知らせるベルが鳴ると、レクトムはレヴァリスに気づき、パイプを掲げて軽く挨拶した。

「あの、ここでは何を買うんですか? 私、こういう店で何を買うのか分からなくて」

「ここでは煙草とか酒とかの嗜好品を買う。俺が使うものじゃない。贈り物や物々交換のためのものだ」

「贈り物はともかく、物々交換というのは?」

「外縁領域では通貨の“リイル”そのものが使えないこともある。例えば辺境の開拓地では相手がそもそも金を持っていないこともあるし、現地の独自通貨しか使えない場合もある」

 銀河社会で広く流通するリイルは電子通貨で、決済は主に携帯端末を通じて行われる。

 通貨情報を記録した物理チップも存在するが、外縁領域にはそれさえ通用しない土地もある。

 そうした場合に備え、冒険者達は嗜好品を携え、物資調達や交渉に用いることがある。

「嗜好品を選ぶのには理由があるんですか?」

「単純に扱いやすいからだ。辺境では酒や煙草は高級品でもあるからな。娯楽に飢えている連中も多く、渡せば交渉がうまくいくこともある」

「なるほど……そんな使い方があるとは知りませんでした」

「需要もあるし、必要なら現地で売って路銀にしてしまってもいい。星間商人の真似事も時には必要なのさ」

 レヴァリスはそう言うと近くにいたデクグの店員を呼び止めた。

「このアスメロン酒とソクラソス煙草を5ケースずつ、それからマヌカ肉の缶詰を20個だ」

「かしこまりました! お届け先はどちらでしょうか?」

「格納庫にある俺の船に届けてくれ。船名は<ペイルライダー>だ」

「はい、直ちにお届けします!」

 レヴァリスが携帯端末で支払いを済ませると、店員はほかの店員達に声をかけた。

 集まってきた店員達は商品を反重力式のリパルサーカートへ載せ、配送の準備をするため店の奥へと運んでいった。

「それにしてもあの量はちょっと多くありませんか?」

「余れば売るか、誰かに分ければいい。保存も利くから残っても次の機会に回せる」

「だから煙草やお酒、缶詰のような長持ちするものを選んだのですね」

「ただし、注意しろ。惑星によっては、こうした品が禁制品に指定されている。今回は問題ないと確認してあるが、行き先によっては持ち込めば没収どころか逮捕されるからな。密輸業者になりたくないなら確認は怠るなよ」

「は、はい。気をつけます」

 買い物を終えて店を出る頃には正午を少し回っていた。街路ではできたての料理を売る屋台に人々が集まり始めていた。

「もう正午を過ぎたか。この時間はどこの店も混みだす。宿舎に戻って昼食を取るとしよう」

「はい、では戻りましょうか」

 2人は人波を縫うようにして宿舎へと歩き始めた。

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