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青藍のストライダー ~星々を駆ける冒険者たち~  作者: Omega Blue
第2話 帰還と旅立ち

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第2話 帰還と旅立ち 4

 その後、2人は冒険者街で必要なものを買い揃えているうちに、気づけば日が傾き始めていた。

 通りの店舗では徐々に店じまいが始まっており、閉店前の最後の追い込みで店員達がより一層声を張り上げていた。

「最後に買うのは武器で良いのか?」

「はい、後は武器ですね。あ、もうお店が閉まっちゃったような……」

「それなら俺の行きつけの店に行くとしよう」

「レヴァリスさんの行きつけのお店ですか? 分かりました」

 それまではサレナに案内されて店を回っていたが、最後はレヴァリス馴染みの武器商店へ向かうことにした。

 2人は裏通りにある年季の入った建物を訪れた。古びた看板には“アボジャ武器商店”という店名が掠れた文字で書かれていた。

 中に入ると店内には膨大な量の武器が山積みにされており、店の中央にはカウンターと、ひときわ大きな水槽が置かれていた。

 閉店間際ということもあり、店内にほかの客の姿はなかった。

 水槽の中には“ルクレモファー”という、棘のような触手に覆われた丸い身体を持つ種族がおり、2人に気づくと大きな黒い単眼を開いた。

「おんや、レヴァリスかね?」

「久しぶりだな婆さん」

「お前が若い子を連れてくるとは珍しいこともあるもんだ」

 店主である“アボジャ”は水槽の底から上にゆっくりと浮上して顔を出した。

 ルクレモファーは極寒の海洋惑星[ルクレⅥ]出身の知覚種族で、先祖は棘皮動物だったとされている。

 水中で生活するルクレモファーは、無数の触手による身振りと、身体の下部にある口から発する微細な振動によって会話する。

 そのため他種族との会話には専用の音声変換装置が使われており、年季の入った機械からはノイズ混じりのしわがれた声が発せられた。

「悪いが用件があるのは俺じゃなくてサレナの方だ」

「は、はじめまして。サレナといいます」

「ほほう。嬢ちゃんや、もうちょっとだけ顔を近づけておくれ?」

 底なしの穴を思わせる単眼を前に、サレナはわずかに身を引いた。それでもレヴァリスへ一度目を向けると、意を決したようにアボジャへ顔を近づけた。

 しばらくじっとサレナを見据えていたアボジャは、やがて顔を離した。

「なるほど、この子はアナザーセンス持ちだね?」

 その言葉を聞くやサレナは驚いて目を見開いた。

 本来であればアナザーセンスの力を直接その目で見ない限り、そう簡単には発現者であることは分からないものだ。

「分かるものなのか?」

「あたしゃ伊達に長生きしちゃいねえよ。この子の瞳の奥には星が見えるのさ」

 レヴァリスの問いにアボジャは自信たっぷりに答えた。

 ルクレモファーは400年近くの寿命を持つ長命の知覚種族である。

 武器商店の店主であるアボジャは今年で397歳にもなり、長年に渡って大勢の冒険者を見てきただけにその観察眼は確かなものであった。

「それで嬢ちゃん、あんたの使っている武器はなにかね?」

「私が使っているのは“ツインゼイヴァ”という武器なのですが」

「随分と古風な武器を使う子だね。“オムグ”、4274番と4278番、あと4289番だ!」

 サレナの求める武器を知ったアボジャは、天井に向かって声を張り上げた。

 天井裏からばたばたと走り回る音が聞こえ、やがて武器の入った箱を抱えた“ゴフォン”の店員が、カウンター裏の階段を下りてきた。

「ウー……グッ」

「よしよし、カウンターに置いておくれ」

 唸り声を上げながらオムグと呼ばれていたゴフォンの店員は指示通りに持ってきた武器の箱をカウンターに置いた。

 ゴフォンはサバンナが広がる惑星[ベスタドゥム]出身の種族で、極端な猫背が目を引いた。

 分厚い灰色の皮膚と、口から突き出した2本の鋭い牙を特徴とし、銀河社会では愚鈍な種族として見られていた。

 ところがこの店員であるオムグは愚鈍とは思えないほど俊敏に動いていた。

「ムッ……ウー」

 オムグは2人に挨拶するような唸り声を上げてから、ゆっくりと天井裏へ戻っていった。

「そいじゃ試しに好きな武器を持ってみな」

「は、はい。えーっと……」

 サレナはまず4274番の箱を開け、1本目のツインゼイヴァを取り出して構えた。

 ツインゼイヴァは両端に刃を持つ長柄武器であり、サレナの出身である惑星[クリムナⅣ]の伝統的な武器種であった。

 レヴァリスには扱いが難しそうに思えたが、サレナはそれを慣れた手つきで舞うように動かしていた。

「しっくりこなかったかい」

「うーん、ちょっと手に馴染まないですね。次のを試してみます」

 1本目を元の箱へ戻すと、次に4278番の箱を開けて2本目を取り出した。

 2本目は1本目よりも刃がかなり薄く、代わりに柄が太めに作られていた。

 同じように武器を振りながら身体に馴染むかどうかを確かめた。

「あっ……!」

 力加減を誤ったのか、ツインゼイヴァがサレナの手を離れて舞い上がり、片方の刃が音を立てて天井へ突き刺さった。

「ご、ごめんなさい!」

「今度はちょっと軽すぎたかしらねえ。レヴァリス、突き刺さったのを取りな」

「ああ」

 アボジャに言われてレヴァリスは天井に突き刺さったツインゼイヴァを引き抜き、元の箱へ戻した。

 最後に4289番の箱を開け、3本目のツインゼイヴァを取り出した。

 3本目は刃が厚く柄も太めで、さらに刃を柄の内部へ収納できる構造になっていた。

 試しに振るとすぐに身体へ馴染んだらしく、サレナはそれまでよりも素早く武器を回し、続けて鋭く振るった。

「手に馴染んだかい?」

「はい、前に使っていたものよりも馴染みます。これを選んで良いですか?」

「もちろんだ。あとはブラスターピストルも必要かね。うーむ……オムグ、1210番だ!」

 アボジャが再び天井に向かって声を張り上げると、オムグはすぐに指示されたブラスターピストルの入ったケースを持って現れた。

 サレナがケースを開けると、中には銀色のメッキが施されたブラスターピストルが収められていた。

「そいつは“ナルディオン・ファイアーアームズ”の“BP120”だ。あたしが設計に携わったものでね」

「設計に? おばあさんは昔そこで働いていたんですか?」

「そうだよ、あたしゃそこの筆頭ガンスミスだったのさ。そいつはもうだいぶ古いモデルだが、嬢ちゃんならうまく使えるだろう」

 サレナが銀色のブラスターピストルを構えた途端、その表情が明るくなった。

「初めて手に持ったのに、不思議なくらい手に馴染みます」

 ナルディオン・ファイアーアームズ社は大手武器製造企業であり、高価ではあるが高品質な武器を製造することで知られている。

 ルクレモファーは手先が器用で、職人気質な者の多い種族だった。アボジャもかつては優れた武器職人として腕を振るっていた。

 レヴァリスのブラスターライフル“QAS781”も同社の製品であり、着用している装甲服も同社系列の子会社が製造したものだった。

「そのピストルはかなり癖が強いものじゃなかったか?」

「こいつはアナザーセンスの発現者向けに作ったものさ。どうもあの力を持っている奴は、どいつもこいつも武器をぶっ壊すのが早くてねえ」

「となると、耐久性重視で選んだわけか」

「そういうことさ。どうせこの嬢ちゃんも、そのうち常識外れな使い方をするだろうし、頑丈なのが一番さね」

 レヴァリスの問いにアボジャが自身の経験からきっぱりと言い切ると、サレナは困惑した表情で手にした武器へ視線を落とした。

 一方でレヴァリスはその言葉の意味がどういうものなのかをすぐに理解していた。

 おそらくアナザーセンスの発現者は能力の成長が早く、それに伴って武器が使い手についていけなくなるのだ。

「それじゃあ金は払ってもらおうか。もちろんあんたが払うんだろうね」

「ああ、俺が払う。装備に金を惜しむのは命取りだしな」

 レヴァリスはアボジャにそう言うと携帯端末を通じて2つの武器の代金を支払った。

 下級冒険者の装備としては高い出費だったが、アボジャの見る目は確かである。少なくともそれだけの価値があると、レヴァリスは確信していた。

「ところでお前さんの武器もついでに見ておくか?」

「そうだな、頼む」

 レヴァリスは腰に下げていたフォトンブレードを取り出し、アボジャへ差し出した。

 この武器商店では馴染み客への武器の点検も行っており、レヴァリスは訪れるたび、少なくともフォトンブレードだけは診てもらっていた。

 アボジャは水面から無数の触手を伸ばして柄を受け取ると、各部を入念に調べていった。それから白い光刃を展開し、その輝きを凝視した。

「いつ見ても美しい光だ。悔しいがあたしには作れん輝きだね」

 やがて光刃を収めると柄の一部を押し込んだ。すると中から動力源であるフォトンクリスタルが現れた。

 宝石とも鉱石とも異なるフォトンクリスタルの神秘的な輝きに、隣で見ていたサレナは目を奪われた。

「ふうむ、やはり内蔵されているフォトンクリスタルに傷が付いておる」

「前にも言っていたな、劣化が進んでいるのか?」

「何せ5万年も昔の代物だ。あまり高出力で使わんようにすればまだ使えるさ。ただ、壊れてもこればっかりはあたしでも直せん」

 そう言うと、アボジャはフォトンクリスタルを柄の内部へ戻し、フォトンブレードをレヴァリスに返した。

 それから水面に力なく浮かび、音声変換装置から大きな溜息を漏らした。

「さて、そろそろ店じまいの時間だ。また何かあればうちに来な」

「世話になった婆さん」

「はい、お世話になりました」

 2人がアボジャに礼を言って店を出ると、街はすっかり夕暮れの色に染まっていた。

 通りを行き交う冒険者達の多くは、目的の買い物を済ませた者か、アルバイトを終えて帰路に就く者だった。

「俺は少し用事があるんだが、サレナは先に宿舎の方に帰るか?」

「私もご一緒していいでしょうか」

「ああ、別に構わん。それじゃあ南区に行くとしようか」

 レヴァリスとサレナは夕暮れの通りを歩きながら、次はクロムシティの南区へと足を進めた。

感想、レビュー、ブクマ、評価をお待ちしてます( ・3・)b

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