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青藍のストライダー ~星々を駆ける冒険者たち~  作者: Omega Blue
第2話 帰還と旅立ち

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第2話 帰還と旅立ち 2

 クロムシティの中央区は冒険者ギルドの巨大なドーム型の本部施設を中心とし、その周囲には様々な部署の関連施設などが立ち並んでいる。

 また地下には冒険者達が集めた膨大な情報の保管と管理を担い、迷宮の如く拡張を続ける情報記録室《ストライダーライブラリ》が存在していた。

 現在の冒険者ギルドには現役でおよそ1000万人もの冒険者がいるとされており、冒険者の増加に合わせて中央区もここ数千年にわたって発展を続けてきた。

 レヴァリスとサレナはまず自分達の担当官がいる“総合センター”と呼ばれる場所に向かった。

「相変わらずこの場所は混んでいるな」

「いつ来てもすごい数の冒険者ですね……!」

 総合センターはドーム型本部施設の1階部分にあたる広大な空間に設けられており、冒険者達が各種手続きや依頼探し、パーティメンバーの勧誘などのために集まっている。

 銀河各地の惑星や組織から寄せられた依頼が大型のホログラム掲示板に表示され、その前には人だかりができていた。

 冒険者の大半は銀河系各地で活動しているが、それでも総合センターを訪れる者は1日で数十万人にもなる。

「サレナ!」

 担当官用カウンターの方から名を呼ばれ、サレナは急いで人混みをかき分けた。

 レヴァリスがその後を追うと、近人間種“レラスティアン”の女性担当官がサレナを抱き締め、再会を喜んでいた。

 亜熱帯のジャングルが広がる[レラスⅤ]を母星とするこの種族は、環境に適応するため遺伝子改造を施した人類の末裔であった。

 薄緑色の肌は鱗のような性質を持ち、手足には木々を素早く移動するための長い爪が生えていた。

「生きていて本当に良かったわ。[カダーディアⅢ]で調査隊の生存者リストを最初に見た時、貴方の名前がなかったから……」

「心配かけてごめんなさい、スルシャさん」

 サレナは自身の担当官である“スルシャ・イミー”に心配をかけた事を謝り、スルシャは彼女が無事だったことに安堵してその頭を撫でた。

 それからスルシャは近くにいたレヴァリスの存在にすぐに気づいた。

「レヴァリス? そう、貴方がサレナを助けてくれたのね」

「まさかサレナの担当官だったとはな」

「意外と縁があるものね。何にせよ、あの子を助けてくれて感謝するわ。さて……」

 スルシャはレヴァリスに礼を言うと、自身の携帯端末を両手で握りしめて隣のカウンターに向かう。

 そしてカウンターに突っ伏して寝ている担当官の頭に容赦なく携帯端末を叩きつけた。

「さっさと起きなさい駄目親父、レヴァリスが帰ってきたわ」

「うへぇ、もうちょっと優しく起こしてくれ!」

「そもそも仕事中に寝てるんじゃないの」

 スルシャは呆れながらそう言うと両手の長い爪でがっちりと頭を掴み、問答無用とばかりに寝ていた担当官を引きずり起こした。

 レヴァリスは担当官に会うたびに似たような光景を目にしているため、いつものことかと平然と眺めていた。

「いでで……全く容赦がないんだからなあもう。ってレヴァリス、やっと帰ってきたのか!」

「相変わらずだな、アティグウ」

 スルシャに叩き起こされた担当官である“アティグウ・ラ・ズソ”は単眼をパチパチと瞬かせながら、ようやく帰ってきたレヴァリスを見て驚愕した。

 彼は砂漠の惑星[ベザナントⅡ]出身の“ヴァイカシャル”という種族で、砂漠に適応した身体と水分を溜め込む性質を持つ大きな単眼を特徴としている。

 アティグウはレヴァリスが冒険者となった頃から担当を務めており、付き合いは10年以上にもなる。

「なーんで早く帰ってこなかったんだ。お前に任せたい依頼が多くて代わりを探すのが大変だったんだぞ!」

「しょうがないだろ、救助任務やら追加の調査任務で忙しかったんだ。というか俺以外にも頼める冒険者は多いだろうに」

「だって一番確実に依頼をこなすのがお前なんだもの。そもそも今回頼みたいのは——ん?」

 アティグウは何かを言おうとしたところ、レヴァリスの近くにいたサレナがふと目に留まった。

 じっと単眼で凝視しているとサレナはその視線に気づき、何かを感じたのか一歩だけ後ずさる。

「スルシャが言っていたのはこの子か。なるほど、もう手(・)は(・)出(・)し(・)た(・)の(・)か(・)?」

 その言葉が終わると同時にレヴァリスの右手の2本指が勢いよく単眼を突き、悶絶したアティグウは床に倒れ込んだ。

 この一連のやり取りも、これまで何度となく繰り返されてきたものだった。

「うちの子の前でなんてこと言うのこのスケベ親父!」

 さらに追い打ちをかけるようにスルシャが怒鳴りながら、怒り心頭の様子で何度も蹴りを入れる。

 サレナはあまりの光景にただ困惑しながらそれを見ていることしかできなかった。

 そしてレヴァリスもまた呆れるように大きな溜息を吐いた。

「悪いな、こんな担当官で」

「は、はぁ……」

 「手を出す」の意味が分からないらしく、サレナは困惑した顔で一同を見比べていた。

 性的な冗談に疎い彼女にも、あまり良い意味ではないことだけは伝わったようだ。

「まったく冗談も程々にしろよ」

「ちょっとした冗談なのに、俺の瞳は割とデリケートなんだぞ」

 立ち上がったアティグウの身体はスルシャの靴跡と爪痕だらけになっていた。

 隣ではサレナとスルシャが話し込んでおり、レヴァリスはそろそろ彼から本題を聞くことにした。

「それで俺に依頼したい仕事ってのは何だ?」

「実はギルドの上層部から新しい支部施設に必要な重要機器の輸送と、その護衛を任せられる上級冒険者を探すよう言われていた」

「新しい支部施設に送る重要機器? 例えばストライダーカード用のあの機械とかか?」

「ああ、正解だ。ストライダーカードの発行や情報更新に使う重要機器の輸送には、必ず上級冒険者の護衛を付ける。そういう規定だからな」

 アティグウは真面目に依頼の内容を説明し、レヴァリスもわざわざ呼び出した理由について納得した。

「本来なら1ヶ月前には届いているはずの機材なんだが、外縁領域まで運べる上級冒険者の手配がつかなくてな」

 ギルドの上層部からの依頼は、担当官を通じて原則として上級冒険者のみが引き受ける。

 冒険者ギルドの運営に用いられている機器は機密情報と秘匿技術の塊であり、輸送中に強奪される事態だけは避ける必要があった。

 もしストライダーカードの機器を盗まれて悪用されれば、冒険者制度そのものやギルドの信用が失墜しかねないのである。

「で、その新しい支部ってのはどこにできたんだ?」

「外縁領域の“アルカナリス星域”。そこの惑星[アルファーニア]に今から2年前、戦争難民達によって開拓地が築かれた。その将来有望な場所に支部が作られたってわけよ」

 アティグウはそう言うと自分の携帯端末を操作し、目的地である惑星と居住地に関する情報をレヴァリスに提示する。

 [アルファーニア]は四季が存在する温暖な気候をした星であり、多くの種族にとって居住に適した環境であった。

 既に冒険者ギルドが支部を建設し、さらに約5000人に達する開拓民の規模から見ても、将来的な発展は十分に見込めるだろう。

「2年前にできた開拓地にもう支部ができるなら、ギルドもそれだけの価値を見込んでるってことか」

「今は開拓地を手伝う下級冒険者しか現地にはいない。おまけに開拓地の周辺はほとんど未調査ときている。そこでだレヴァリス、輸送が終わったらひとつ探索をしてくれねえか」

「俺にか?」

「あの子が新しい連れだってんなら一緒に連れて行けばいい。何だったら他の冒険者も同行させて良いし、お前にとっても悪くない話だろ」

 アティグウから依頼後の探索を提案され、レヴァリスは考え込む。

 開拓地の発展のためには周辺の調査は必要なことである。一方で話を聞く限りでは現地の開拓者や冒険者には探索に費やすだけの余裕がない。

 しばらく銀河帝国の遺跡ばかり探索していたこともあり、未調査地域を探索することにも興味が湧いた。

 何よりサレナを連れて経験を積ませるにはちょうど良い機会でもあり、そう考えるとこの提案は中々に魅力的なものだと思い始めた。

「俺が何か見つければ他の冒険者達が訪れる呼び水にもなる。また随分と冴えているな?」

「お前が褒めてくれるとは珍しいもんだ。そういうわけで是非とも任務を引き受けてほしい」

 だらしない男ではあるが、アティグウは担当官としての能力は高く、意外にもギルド職員としての評価も悪くなかった。

 レヴァリスも担当官としての能力は認めており、少なくとも冒険者に関する提案や助言が的外れだったことはない。

「検討はしておくがまず時間をくれるか。サレナの装備を整えてやりたいし、先に済ませておきたいことがある」

「確かに帰ってきたばかりだしな。いいだろう、なるべく早く返事をくれ。期待してるぜ」

 アティグウに返答までの猶予を貰い、レヴァリスは先にやるべきことを済ませることにした。

 隣を見ると、ちょうどサレナがスルシャとの会話を終えたところだった。

「レヴァリス、ちょっとだけいいかしら?」

 すると、スルシャが足早に近づいてきた。

「サレナと一緒に行動するなら、彼女のことをよろしく頼むわね」

「ああ、任せておけ」

 どうやらパートナーとして同行することを聞いたようで、サレナのことを頼むと伝えたかったようだ。

「貴方ならあの子ともうまくやれそうだと思うし、だから……」

 そう口にした途端、スルシャの目つきが変わった。

『宇宙船でうっかりあの子の着替えを見たことは、今回だけは不問にしてあげるわ』

 頭の中にスルシャの冷たい声が響き渡ると、それを聞いたレヴァリスは思わずたじろいだ。

 上級冒険者になるまで彼も知らなかったが、実はスルシャもアナザーセンスの発現者である。

 担当官のほかに観察官としての役割も担っており、必要に応じて発現者としての力を用い、冒険者の違反行為や虚偽申告を調査していた。

 アナザーセンスを持つサレナの担当に選ばれたのも、力の扱いを指導・監督するためなのだろう。

『いや、あれは悪かった。つい声もかけずに部屋へ入ってしまったんだ』

『ふーん……その割には着痩せするタイプとか、胸(・)が(・)結(・)構(・)あ(・)る(・)な(・)とか思っていたみたいね』

『おいおい、勘弁してくれ』

 スルシャと頭の中で言葉を交わしながら、レヴァリスは冷や汗をかいていた。

 アナザーセンスの発現者には、他人の記憶を読む者も珍しくない。だが、相手に気づかれず一方的に読み取るには高度な技量が必要とされる。

 それだけにいつの間にか記憶を読み取られていたことに、レヴァリスは肝を冷やしていた。

 彼女はニッコリと笑顔こそ浮かべていたが、その縦長の瞳にはまるで笑みがなかった。

 明らかに彼に対する警告であり、その瞳の奥には殺意すら感じさせる。

『まあ男だからそう考えるのは仕方ないことね。そういうわけだから、以後気をつけるように』

『あ、ああ……』

 スルシャに釘を刺されたレヴァリスはただ素直に答えるしかなかった。

 もっとも、本気で疑われているわけではないとレヴァリスにも分かっていた。サレナを任せる以上、担当官として念を押しておきたいだけなのだろう。

 サレナはその光景を不思議そうに見ており、一方でアティグウは同様の経験があったのか目を逸らしていた。

「さて、それじゃあ買い物にでも行くとしよう」

「買い物ですか? 分かりました」

 気を取り直したレヴァリスはサレナに買い物へ向かうことを伝えると、彼女は頷き、2人は総合センターを後にした。

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