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青藍のストライダー ~星々を駆ける冒険者たち~  作者: Omega Blue
第1話 10年目の縁

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第1話 10年目の縁 10

 レヴァリスが救助任務でサレナを救出してから1週間が経過した。

 彼女の意識が戻るまでレヴァリスは他の上級冒険者2名と共に、再び地下に隠されていた研究施設の調査を行った。

 6日間に渡って行われた調査の末、残っていた白い棺の中は全て空であり他のヴェンジ・シーカーの存在は確認されなかった。

 やはりあの2体が最後に残っていた機体だったらしく、他に存在していた機体は既に出荷されたか、経年劣化で失われてしまったようだ。

 技術資料や当時の記録データ、未使用のオートロイド部品を回収し、3人の上級冒険者は降下艇で宇宙ステーションへ帰還した。

 降下艇から降りると、ヴァリネクの補佐官である女性がレヴァリスに近づいてきた。

「レヴァリス様、サレナさんの意識が回復しました。集中治療室から一般病室に移されましたが、面会なさいますか?」

「そうか、それなら会いに行こうか」

 補佐官からの報告にレヴァリスは内心喜びながら、静かにサレナと面会する旨を伝えた。

「今すぐ会いに行ってあげなよ」

「支部長への調査報告はこちらでしておきます」

 2人の上級冒険者に促され、レヴァリスは補佐官に伴われて宇宙ステーションの左翼棟にある病室へ向かった。

 個室に入ると、ベッドに横たわっていたサレナが驚いた顔でレヴァリスを見つめた。

「レヴァリスさん!」

「おっと、まだ起きない方がいいぞ」

 サレナはベッドから起き上がろうとしたが、レヴァリスはそれを制した。

「まだ意識が戻ったばかりなので、面会は手短にお願いしますね」

 補佐官はそう言うと一礼してから部屋を後にし、その場には2人だけが残された。

「だいぶ身体は良くなったようだな」

「はい、エリクシアルタンクに初めて入ったのですが、身体中の傷や両足の骨折も治ってました」

 彼女の顔色は昏睡状態に陥る前よりもだいぶ良くなり、立ち上がろうとしたことから両足の骨折も既に治っているようだ。

 “エリクシアル”と呼ばれる液体は現代における非常に強力な医療用薬液であり、専用のタンクに身体ごと浸かれば数日で重度の骨折や外傷を完全に治せるほどだ。

 またサレナからはエリクシアル特有の淡い花の香りが漂っていた。

「意識が無かったのはある意味で幸いだったかもしれん。骨や皮膚が再生する感覚はだいぶ不快だからな」

「レヴァリスさんも使ったことがあるんですか?」

「ああ、もう3度は使ったことがある。1度目は右足、2度目は右腕、3度目は肋骨と左腕と右足だ」

「そ、そんなに……」

「10年も冒険者をやってればそれぐらいにもなる」

 意識のあるまま骨や皮膚が再生していく感覚は、思い出すだけでも身震いするほど不快なものだった。

「えっと、あの力のことは隠していてすみません。担当官の方からアナザーセンスの発現者であることはなるべく隠すように言われていて……」

「それは仕方のないことだ。下級冒険者は特にあの力をあまり大っぴらにするものじゃないしな」

 アナザーセンスは強力だが、扱いをひとつ間違えれば自身の破滅を招きかねない。

 しかも、その存在は銀河社会に広く認知されておらず、迷信やインチキの類とみなす者も多かった。

 発現者だと知られれば疑念や迫害を招き、冒険者同士ではその力を巡るトラブルにもなりかねないのだ。

 そのため、まだ未熟な下級冒険者には、担当官が力を伏せるよう命じるのが通例だった。

「だが、その力に俺は助けられた。礼を言う」

「そ、そんな、一番助けられたのは私の方なのに」

「実際あれは際どかったからな。サレナがいてくれて本当に助かった」

 感謝の言葉にサレナは頬を赤らめると、照れくさそうに微笑んだ。

 イレギュラーなヴェンジ・シーカーとの遭遇は初めての経験であり、もしも背中にサレナがいなければ命を落としていたことは確実であった。

「あの、看護師さん達が話していたんですけどヴァリネクさんは支部長を辞めてしまったんですか?」

「ギルド本部から通達があって後任が決まるまでは残るが、それでも数週間もすれば引退だろうな」

「そうですか……やっぱり私達のせいでしょうか?」

「いや、調査隊が壊滅した件はお咎めなしだ。勇退とは少し違うが、あの人は引き際を心得ていたのさ」

 ヴァリネクは事件の翌日には冒険者ギルドの本部に対し、調査隊を壊滅させた責任を取って辞職を願い出た。

 本部としては慰留したかったようだが引退の決意はやはり固かったらしく、結局は後任が決まるまで残るという形になったようだ。

 宇宙ステーションにいる職員や滞在している他の冒険者達の間では、ヴァリネクが支部長を引退する話題で持ちきりであった。

「さて、無事も確認できたことだし、俺はそろそろここを発つつもりだ」

「行ってしまうのですか?」

「支部長に頼まれていた追加の調査任務も終わったし、そろそろ帰らないと俺の担当官がうるさそうだからな」

 当初の予定では救助任務の要請がなければ、冒険者ギルドの本拠地である惑星[クロムネムシャ]への帰路に就くはずだった。

 [カダーディアⅢ]へと向かう直前に担当官へ予定の変更は伝えていたが、何か依頼したいことがあるらしくなるべく早めに戻るよう言われていたのである。

「そういうわけだ。また機会があれば会えるだろう」

「は、はい……レヴァリスさんもお元気で」

「ああ」

 レヴァリスは病室を後にしようと、扉へ手をかけた。

「ま……待って!」

 背後から聞こえた必死な声に、思わず手を止めて振り返った。

 サレナは胸元のシーツを握りしめ、縋るような眼差しを向けていた。

「お、お願い……ひとりぼっちにしないで」

 その言葉を聞いた瞬間、レヴァリスは動けなくなった。

 自分に向けられたはずの言葉が、まるでレヴァリス自身の胸の内を代弁しているように響いた。

 上級冒険者となってから誰かを失うことを恐れ、独りでいることを選んできた。

 だからこそ、その願いは強く心を揺さぶった。

「仕方のないやつだ」

 レヴァリスはベッドの傍らへ戻ると、安心させるように小さく頷いた。

 サレナは一瞬目を見開き、それから嬉しそうに笑った。

 冒険者となって10年の節目に、遥か地下深くで巡り合った縁が、長く止まっていたレヴァリスの時間をようやく動かし始めていた。

ようやく第1話完結です。

まだまだレヴァリスとサレナの物語は続くので、是非楽しみにしていてください


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