第五十五話:隠したいモノ
洗濯物をヒヤヒヤしながら二人で干し終えると、朝食の準備をした。今日は綾香ちゃんのおかげで洗濯もすぐ終わったし、奮発した珈琲豆を挽くところから始めよう。
実は昨日、七海の爆買いの横で、俺も七海が好きそうな珈琲豆を選んでいた。
どれがいいかなんて俺には分からないが、七海は酸味が少なくてコクが強いコーヒーが好きだ。……まあ、どれがどれなんて結局分からないので、高かったスタバの珈琲豆。多分間違いない。若い子はみんな飲むんだ。
「スターバックスの、珈琲ですか?」
綾香ちゃんはトースターでパンが焼けるのを待ちながら、珈琲のいい香りに気づいたのか、チラッとこっちを見て言った。
「綾香ちゃん、珈琲にしてみる?」
多分紅茶派なんだろうなと昨日も紅茶を出した。案の定、美味しそうに飲んでいたし。
「スタバの珈琲、高くて飲んだことないんです。飲んでみたい……」
目をキラキラさせながら言う。分かるよ、その気持ち。俺もスタバ……というより外で珈琲とか飲めない。俺みたいな味の違いの分からないやつには、さすがにもったいない金額だから……。
「牛乳……ねぇわ……豆乳……」
綾香ちゃんが飲むなら、と思って冷蔵庫を開ける。牛乳を入れるだろうと探すが、ない。そりゃそうだ。七海サンは牛乳じゃなくて豆乳派だ。加熱するとまろやかで美味いらしい。知らんけど。
「……ぶ、ブラックで飲んでみます」
ゴクリと生唾を飲む音がした。俺もそんなにブラック好きじゃないし、ましてやJKにブラックはちと早くないか……?
「別で紅茶も用意しとくね」
フッと笑って言うと、綾香ちゃんはどこか安心したような表情を浮かべていた。残ったら、多分七海が飲むだろ。
「七海、遅いな。仕事大丈夫なんか」
普段は土日も副業のイラスト関係の打ち合わせをやってるから、やけに遅い目覚めも、まる一日外出するような日もあると心配になる。
「七海さん、日曜日もお仕事があるんですか?」
ギョッとしたように言う綾香ちゃんに、頬を掻きながら頷く。
「副業っていっても、仲間うちで仕事回してるみたいだよ。VTuber事務所やってる友達とか、弁護士事務所やってる友達とかと、ポスターとかYouTube編集とか、そういうの仕事にして依頼し合ってるんだって」
「案外こっちの方が楽しそうだよ」
そう言うと、綾香ちゃんも目を輝かせていた。今、現実を見せるのは酷だが、そんな働き方ができる人が世の中にどれだけいるかなんて、大人になれば分かるだろう。
「貸していただいた部屋に飾ってある、可愛い女の子のポスターとかって……七海さんが描いたやつですか?」
どのポスターを言っているのかは分からないけど、たしか一部に仕事でもらったグッズとか飾ってたなと思い、頷く。
「七海さん、すごいですね……。あの白い髪の……ツインテールの女の子……可愛くて好きです」
思い出しながら言うだけで分かるくらいテンションの上がっている綾香ちゃん。そんな姿を見て、俺もなんだか誇らしい気持ちに――
「え、白い髪のツインテール?」
それ、俺が描いたやつじゃん。そんなこと言えるわけもなく。
「七海も、そういうキャラ好きなんだなー」
誤魔化したのであった。動揺しすぎて、沸かす前のケトルに入った水を、ミルで砕く前の豆にかけたのはナイショだ。




