第五十四話:苦労が見える瞬間
家に帰ってきたら、すぐに風呂の準備に夕飯の準備。順番に風呂に入り、夕食を食べ終える頃にはとっくに二十一時近かった。
その後、俺は洗い物とぽんずの風呂を終えたら二十二時。布団に入ったらすぐに爆睡。その速度は、いつもすぐ寝るぽんずよりも早かったことだ。
「あ、おはようございます。すみません、勝手に洗濯機使ってしまって」
昨日の爆睡もあって、翌朝は七時頃に起きた。寝過ぎた感じは否めないが、仕事が再開したらそういうわけにもいかない。今のうちに寝ておこう。
「いや、良いんだよ。綾香ちゃんの服どうしよって思ってたし」
さすがに年頃の女の子の服と、俺の服なんて混ぜられないだろ。俺の仕事着は汚れやすいし、匂いが移ったりしても嫌だから、普段は七海の服とは別で回してたくらいだ。たとえ綾香ちゃんが気にしなかったとしても、俺が気にする。
「え、あ。ん?」
洗面所に入り、洗濯機の前のカゴを見る。よく見れば俺の服も七海の服も、綾香ちゃんの服もごちゃ混ぜで、洗い終わったような。事後だった……。
「あ、洗濯ネットはお借りしました!いまネットから出しただけで、色物とか分けて洗ったので心配はいらないと思います」
若い子でそこまでできれば、上出来どころかすげーよ。オジサン引いちゃった……。俺、二十三の時に七海に教えてもらって、最近やっと忘れずにできるようになったっていうのに。
……というか、俺の心配はそこじゃない。
「あ、いや。そうじゃなくて。ほら、知らないオジサンとオバ……七海と一緒に服洗うの、嫌かなって思ってたから」
見た感じ、下着とかも俺や七海のと混ぜて洗ってるだろうし、干すとき俺が綾香ちゃんの物を目にしてしまう可能性がある。
俺には姉ちゃんがいたが……姉ちゃんの反抗期は壮絶だった。洗濯物取り込んでくれと母親に言われて取り込んだだけで「私の下着見たでしょ」と決めつけられて、一週間口をきいてくれなかった。父親も同じような理由で口をきいてもらえない姿を見てきた俺からしたら、超絶怖い地雷原だ。
ましてや、まだしばらくいる子と険悪にはなりたくない。七海にも呆れられそうだし。
「いえ、家ではお父さんのと一緒に洗ってたので」
お父さん。白井のことを、初めて「お父さん」と呼んでいるのを聞いたかもしれない。皮肉なことに、白井は綾香ちゃんを他人の子としか見れてないのに、綾香ちゃんの口から「お父さん」という言葉が出るとは。
どっちも間違ってない。だからこそ、俺は胸が張り裂けそうになった。
「お父さんのと一緒に洗うの、嫌じゃなかったの?」
あまり踏み込んではいけないと思いながらも、頭に浮かんだ疑問をつい口に出す。
「分けて洗うの、時間かかりますし。それに、もったいないじゃないですか。電気代とか」
俺の給料は、新卒の子たちと同じか、下手したら手取りはもうちょい低いかもしれない。そう考えれば白井も似たようなもんなのだろう。人一人暮らすのもやっとな額。二人で暮らすには当然、綾香ちゃんもいろいろなことを気にしなければいけないんだろう。
綾香ちゃんの苦労が見えた瞬間だった。




