第五十二話:昼食のマック
「お腹空いてる?」
車に戻って、綾香ちゃんと七海に声をかける。
「私めっちゃすいてるー」
助手席からそんな声が返ってくるが、ルームミラーを覗けば綾香ちゃんは首を横に振っていた。俺もそこまで腹は減っていない。
「えー、じゃあマックかなんか寄ろ。ドライブスルー」
乗り気じゃない俺たちを見て、七海はプクッと膨れてみせる。それを見て「はいはい」と頷き、車を発進させた。
「てりやきのLセットと、パイ、ナゲット別でほしー」
横でウキウキしながら、えげつない量の食べ物をモバイルオーダーしている。
「パイと……飲み物ほしいです」
あまりの量に遠慮が少し解けたのか、綾香ちゃんも頼んでいる。
「俺も飲み物とポテトL」
小腹は空きそうだし、俺も便乗して頼む。
「はーい」
返事をした七海に、ふと嫌な記憶が蘇った。
「七海、最近病院行った?」
その言葉に七海が驚いたように目を丸くする。
「行ってないよ?なに?」
「いや、大丈夫。なんでも……」
なんでもない。その言葉が喉でつまる。
最近、七海がひどく疲れているように見える。それも相まって、この過食が何かの予兆みたいに感じてしまったのだ。
「近々、行ってみて」
悪い予感なんて、何もなければ考えもしない。俺が何かを危惧したということは、何か引っかかることがあるのだと、素直に自分を信じた。
「んー?何もないと思うけど」
何もない。そう言う七海が、病院を嫌がっているように見えた。元々、病院は人一倍嫌いだ。けど、そうじゃない。何か自分にも思い当たる節があるみたいで、自分にも嘘をついているように見えたんだ。
「あと五分くらい。注文できる?」
信号で止まったとき、チラッと七海の顔を見る。
「七海?」
何かを考えているのか、あるいはボーッとしているのかは分からない。でも七海はスマホを見たまま固まっていた。
「ん?」
俺の声じゃなく、視線に気づいたのか返事をする。「注文した?」と聞けば、「今する」と平気な顔で返ってきた。
「いつもありがとう。お疲れ様」
疲れてるんだろう。そう思ってポツリと呟く。そういえば最近、帰ってくる時間も寝る時間も違ったし、こんなふうに一緒に行動したり話したりしなくなってた。だから、感謝の言葉を伝えたのはいつぶりだろうか。
「ん? 疲れてないけどね。いっちゃんのほうが疲れてるでしょ。ありがと。お疲れ様」
相変わらず「疲れてない」と俺に気を使う。そんな姿は昔から変わらないけど、どこか心配になった。




