第四十七話:罪悪感の所在
「あ、あの。いっちゃんさんは、どうして……あ、いや、すみません」
七海が飲み物を買ってくると、近くのコンビニに入っていった。その間、俺は外で待ってると伝える。すると、どういうわけか綾香ちゃんも一緒に残った。
「一樹でもいいよ」
綾香ちゃんなりに距離を縮めようとしてくれたのか。慣れない呼び方が可笑しくて、俺は少し笑ってそう言った。
「俺、昔は鍋とか作ったら直箸で食べて、残ったらラップして常温に置いてたりしたんだよね」
「そんで後日、温め直してまた食べて、また残ったらその繰り返し」
そう伝えると、綾香ちゃんは信じられないという顔で、全力で目をそらした。
「やばいでしょ?」
俺は、閉まっていた罪悪感を少しずつ口に出す。罪悪感――あるいは、その罪さえも話して、少し楽になりたかった。
「でも今は、それがやばいことだって分かるし、絶対にやらない。やってるやつがいたら幻滅するくらいには嫌悪する」
俺の言葉に、人間そんなに変われるものなのかと不思議そうな目で、綾香ちゃんがまた俺を見た。素直な子だと、少し羨ましくも思った。
「それが普通じゃないことを教えてくれたのは七海で、俺の今までの異常行動や言葉の数々を――間違ってはいないけど、私は嫌だって教えてくれたのも七海だったんだよ」
七海に出会って七年だ。七年かけて、七海が俺という人間を正してくれた。
その行動や言葉、かけた歳月。思い出す日々は衝突の連続だったし、理不尽なことも言ってきた。
「だから、綾香ちゃんがもしこの二日で俺に好印象を持てたのなら、それは七海が自分の青春全部かけて育て上げた俺を見てるからだと思うよ」
「俺自身、そんな大層なものじゃないけどね」
そう言うと、自分の中の違和感に納得できたのか、綾香ちゃんの表情がやわらかくなった。
「七海の口から語られる俺って、今聞くとヤバいやつだってよく分かるんだよ。でも、昔はそれが分からなかった」
もし時間が戻せたなら。七海にかけた理不尽な言葉の数々も、七海にさせてきた無理も全部――なかったことにして、ただ俺が七海を幸せにできる未来がほしかった。
「綾香ちゃん、七海が嫌いなタイプ知ってる?」
俺がそう問うと、「七海さんって、嫌いなタイプとかあるんですか?」と綾香ちゃんは驚いた。そりゃ、表向きは誰でもウェルカムな性格に見えるから、驚かれもする。
「ネガティブな言葉しか口に出せない人間。それから、努力のできない人間かな」
そう言った途端、綾香ちゃんの背筋がすっと伸びた。綾香ちゃんにだって、多分一つくらいは当てはまるものがあったのだろう。
「たとえ根がネガティブでも、嘘でもポジティブな言葉を使うと士気が上がるし、なにより同じ空気感や考えの人が集まってくるらしい。朱に交われば赤くなるっていうように、いつか自然と自分もネガティブ卒業できるようになるんだって」
だから、ネガティブってもったいないらしい。まあ、それでも俺はネガティブでいいってタイプの人とは、さらさら合わないんだろうから――七海は嫌いなんだろうな。
「努力できない人間ってのも、そのままだね。ほら、七海って努力の化身でしょ。努力できない人間の側はモチベ下がるから嫌なんだってさ。ちなみに七海は運がないから、努力しなくても運でカバーするタイプとは相容れない」
だからこそ、仕事人間に見えてしまうのは仕方ないことなんだろう。七海の性格上、昔は勉強に向いていた努力のベクトルが、今はすべて仕事に向いてる。学業でもいろんな功績を収めてきた七海だ。きっと仕事でも躍進していくんだろう。
「まあ、だからこそ……余計、俺の側にいてくれる理由が分からないんだよね。俺、七海の嫌いなタイプ、ドストライクだから」
なんで側にいてくれるのか。愛とか恋とか、そんなこと言うような七海じゃない。
もし仮に、愛とか恋とかっていう盲目的なもので側にいてくれているのなら……その夢が解けないでいてほしい。そう思う俺を、また俺は嫌悪した。




