第四十六話:忘れたい過去と冷や汗
だいぶ長旅だった。朝早くに出たと思ったのに、柏駅のそばにあるパーキングに止めた頃には、スマホの画面が十二時を表示していた。
「お腹空いたねー」
七海はそんなことを言いながら車を降りる。俺と綾香ちゃんは車内で顔を合わせて、首を横に振った。この場で腹が減っているのは七海だけらしい。
「ま、とりあえず買い物済ませちゃおー」
特に急ぐほど腹が空いていたわけでもないらしい。七海を先頭に、俺たちは歩き出した。
「七海さん、土地勘あるんですか?」
滅多に来ないと言っていたのに、マップの一つも見ずに進む七海の背中へ、綾香ちゃんが疑問を投げかけた。
「大学時代はよく遊びに来てたからね。柏駅の周りだけは覚えてるんだよね」
俺も初耳で驚いた。俺と出会った頃から、七海は化粧や買い物に興味ないタイプだと思っていた。今は金があるからストレス発散的に浪費家になっただけだと思っていたのだ。
「飯屋とか?」
となると、うまい飯屋でも回っていたのか――そんな好奇心で聞けば、七海に笑われた。
「化粧関係とか買いに来てたんだよ。さすがに百貨店には行かないけど、近くにドンキも薬局もあるし」
俺の中の七海は、大学時代なんてモロすっぴんだった記憶しかない。となると、俺と出会う前の大学時代、七海にも年頃の女の子みたいな時期があったのだろう。
「ま、いっちゃんにデブらされて全部やめたけど」
七海は懐かしむように言う。そういえば、そんな時期もあった。
「え、七海さんが、その、太ってたんですか?」
今じゃ少し痩せた……というより、やつれているように見えるから、太ってた頃のことなんて想像できないんだろう。
「そうだねぇ。いっちゃんってクソ野郎でね?家事折半の約束で同棲したのに、帰ってきたら『俺、仕事で疲れてるんだけど』って言うタイプなの。そのせいで夕飯頼んだ日は、もっぱら外食。食べ放題だったんだよ」
「そりゃ太るわなー」
懐かしむ七海の声に、俺は冷や汗をかく。そういえば、大学時代の七海の両親は同棲に反対だった。両親の反対を押し切って同棲してくれるなら、家賃や食費は全部俺持ちで、家事も折半する――そう約束した。
それなのに……家事に関しては一ヶ月も持たず、俺が約束を破って、ほぼ七海が全部の家事担当になった。同棲してたアパートが大学までめちゃくちゃ遠かったこともあって、七海に毎日のように泣かれた記憶が蘇る。
土地勘もないから外にもほとんど出られず、あの頃の七海は――間違いなく俺が太らせたんだ。
「そ、そんなふうには……」
綾香ちゃんは引き気味に俺を見る。そんなふうには見えない、と言いかけて、七海の前だからやめたのだろう。俺の気まずそうな顔で察したのだった。




