第四十五話:七海と食のススメ
気持ちを落ち着かせてトイレから出る。すると男子トイレが一つしかなくて、いつの間にか二人並んでいた。申し訳なくて頭を下げ、飲み物のコーナーへ目を向けた。
「スムージーおいしいよ?飲む?」
「い、いえ、その……」
綾香ちゃんは困り顔で、七海の推しに困惑していた。
「あ、お金とかは気にしなくていいよ?」
多分そうじゃないと思うけど。
「七海、まだ十時だぞ?綾香ちゃん、お腹弱いみたいだし、この寒い日にスムージーすすめるのは困るだろ?」
俺の言葉に、綾香ちゃんが小さく頷く。
「あ、そっか。じゃあ私だけか」
七海がわかりやすくへこむ。相当ハマってるんだろうな。
「代わりに俺買うよ」
へこんだ七海を見て、俺もスムージーを手に取った。
「お腹は?大丈夫?」
そう聞く七海に「余裕」と短く答えて、七海の分も持つ。
「綾香ちゃん、ホットの飲み物いらない?」
そう聞けば、綾香ちゃんは急いでホットのコーナーを見て、白湯を選んできた。
「待って、いっちゃん!会計行くなら肉まんとチキン買って!」
よく食うな、うちの七海さんは……とため息をつく。綾香ちゃんもびっくりだ。
会計を済ませてコンビニを出る。車に乗り込めば、「誰か肉まん半分こしよ!」と七海が騒ぎ始める。七海にとって、おいしさをシェアする行為は仲良くなりたい気持ちの表れだから仕方ないことなのだが、相手が悪かった。
「すみません。私はお腹がいっぱいで……」
綾香ちゃんは冗談抜きに小食だ。というか、これが世間でいう普通なんだろう。
「そうだった……」
七海も思い出したようにシュンとし始める。やれやれ、うちの七海さんは世話が焼ける。
「お、なら俺、半分もらっていい?」
決して腹が空いているわけじゃない。むしろスムージーを飲んだら余裕なんてないだろう。
それでも、せっかく七海と出かけられるんだ。綾香ちゃんもいる。俯いてほしくはない。
「ごめんね、綾香ちゃん」
肉まんを持って行くことを軽く謝れば、「いえいえ!」と首を横に振った。少しの嘘で二人が気負わず楽しんでくれたら、それでいい。
俺は肉まんを口に放り込み、スムージーで流し込む。七海がシートベルトを着けたのを確認して、車を走らせた。
「高速乗ってサービスエリア寄っても良かったね……」
七海がチキンにかじりついているのを見て、窓を少し開ける。
「それ、着くのいつになるかわかんないやつ」
だが、綾香ちゃんはずっと下道で車に乗ってるよりは楽だったかもな、と俺も少し後悔する。
「友部のかりんとう饅頭と、宇都宮の餃子ドック食べたい」
なんだ、結局飯か。相変わらず食べ物の話をする七海が、なんともないようで――俺は少し、ほっとしたのだ。




