第四十四話:違和感と自己嫌悪
朝食を終え、ぽんずが寝たのを見計らって、こっそりみんなで家を出る。
「柏駅前でいいの?」
運転席でハンドルを握る俺は、助手席の七海に問う。
「いいよー」
七海はスマホの画面をくるくる回している。たぶんトレーナー業にいそしんでいるんだろう。返事を聞いて、俺は柏方面を目指した。
「柏方面、行ったことないです」
出発して少しして、綾香ちゃんがぼーっとしながらつぶやいた。
「俺らもほとんど用事ないし行かないね。下道で行くとマジ混みするからなぁ」
まあ、柏方面ってなんもないじゃん。せいぜい俺と七海の行きつけの釣具屋があるくらいだ。
「あ、幕張行く?」
百貨店なんて幕張の方にもあるんじゃない?
調べてはいないが、都会イメージで補強された幕張なら根拠はなくても楽しめるだろう。もしなくても、なんとかなる。
「いっちゃん。幕張で今日、アイドルのライブやってるよ」
すると横から情報提供があった。
「ごめん、綾香ちゃん。幕張はやばいわ」
わざわざ遠くへ出かけるのに、現地で苦労するのが目に見えてるのはまずい。
「七海さん、アイドル好きなんですか?」
気まずい俺を気遣ってなのかは分からないが、綾香ちゃんが話題を変えてくれた。
「ん? なんで?」
七海は心底びっくりしたみたいに、スマホから顔を上げた。
「たまたまか知らないけど、七海が幕張でやってるアイドルのライブを知ってるから。俺も一瞬、アイドル好きになったのかなって思った」
「あぁ、そういうこと」
七海が吹き出すように笑う。
「そのアイドルのマネージャーが知り合いなんだよね。ほら、いっちゃんに前話した大学時代の友達。卒業してすぐVTuber事務所立ち上げたんだけど、今、副業でアイドルのマネージャーだかプロデューサーもやってるんだよ」
あぁ、通りで七海がライブを把握してるわけだ。
「私もその友達に副業でキャラデザとか、公式Xに載せる記念イラストとか提供してるから、いつものお礼にってチケットもらってたんだよ」
でも、そこで疑問が浮かんだ。
「わぁ……七海さん、やっぱりすごい……」
仕事の付き合いでチケットなんてもらったら、七海は間違いなく行くはずだ。アイドルに興味があるないに関わらず、人脈は大事にする人だから。
もしかして――俺が勝手に綾香ちゃんを連れてきたから……行けなくなった……?
「どうしたの? いっちゃん?」
俺のせいだと思うと、唇を噛んだ。
「いや、お腹痛くて……ごめん、コンビニ寄っていい?」
俺、七海をまた不自由にしてる?
俺、また七海のキャリアを奪ってる?
七海は、もっとずっと――
近くのコンビニに車を止めると、俺はトイレに駆け込んだ。洗い場で顔を洗って、鏡に映る自分の顔を見る。
「そういや、副業……大丈夫なのか? 土日なんて毎週のようにイラスト描いたり、Zoomで打ち合わせしてたはずじゃ」
七海が土日に出かけるなんて、ありえない。今考えればそうだ。
それに気づいた途端、押し寄せる罪悪感と、「また俺はやってしまったのか」という思いで、俺は自分を責めることしかできなかった。




