第四十二話:胸につっかえた想い
2月1日の更新がなく申し訳ありません。
今後の更新は月・水・金を基本にしていきます。無理なく続けるためのペース調整です。引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。
白井との電話が切れてから、妙な胸のつっかえに不快感を覚えた。通話を終えたスマホが手のひらでまだ少し温かい。
「ぽんず、ごめんな」
気づけばもう七歳。ぽんずも暴れん坊将軍から、落ち着きのない子くらいまで角が取れて丸くなった。それでもテンションが上がりすぎると、たまに噛んでしまう。
俺の言葉に、寝ていたぽんずはのっそりと体を起こして首を傾げた。黒い鼻がひくひく動いて、眠そうな目でこっちを見る。
「俺、頑張るね」
ずっと別れを告げるタイミングを探してた。だって、七海と俺じゃ不釣り合いだから。みんな、俺を見て肩を叩くんだ。玉の輿じゃんって。
七海だって、もう俺に気持ちはなくて、ぽんずがいるから別れられないだけかもしれない。
それでも、やっぱり俺には別れるなんてできなくて、言えなかった。
俺が気づかないうちに、ずっと俺に尽くしてくれた七海がいた。今更でも、七海を本気で支えたいと思った。特にこの数日は、七海の知見に触れる機会が多かったから。
七海は、身も心もボロボロにしながら側にいたのに、真っ直ぐ自分の夢もやりたいことも、意思も曲げなかった。
今まで気づけなかったけど、七海は天才じゃないんだよ。
沢山調べて、失敗して、それでもまだだって真っ直ぐ先を見据えて努力する努力家だった。
本当は、パートナーとか、安定とか……家庭を持つのとは縁遠い人で、仕事ややりがいに人生を捧げる人種なんだ。でも、なぜか七海は俺を選んだ。
気まぐれか、それとも七海のことだから何か意図があるのか。
未だ、俺は七海と築く家庭の姿が見えなかった。
ただ見えるのは、残業ばかりで帰ってこない七海の姿と、いつもぽんずと二人で飯を食って寝る俺の姿。
「絶対に七海じゃないとだめなんだ」
でも、そんな生活に俺が耐えられるかと言われれば、うなずけなかった。
一緒に飯を食べたいし、たまには昔みたいに映画を見ながら笑い合いたい。
そう思う度に、俺と七海の違いが浮き彫りになって、俺が足かせになっているような気がしていた。世間的に見れば、別れた方がいいレベルなんだろう。
体を仰向けにして寝っ転がって天井を見る。視界の端で、ぽんずが布団の中に潜り込んでいくのが見えた。俺はただ、それを穏やかじゃない気持ちで見ていた。
いつかのSNSで見た女性の投稿が頭を行き来する。
世の中の男性が求めるような、精神が安定していて自立しており、フルタイムで働いていて男と同じだけ稼いでる女性がいたとして、男側は何を差し出せるのか――という疑問を投げかけていた人がいた。大半、それだけできる女性は男がいなくても自分で生きていける強い女性であり、そんな強い女性を求めるのなら、男はいったい何をもってそんな女性の気を引けるか。
見当もつかなかった。俺にはそんな女性と付き合いたいだとかって願望はなかったが、結果的に付き合った相手が、そんな人だった。
何も提供できるわけない。
実際、付き合ってみての感想だった。むしろ俺が七海に対して与えたのは、俺が逃げ出したことへの尻拭いと、「愛してるから」を理由にした理不尽の強要だった。
七海じゃないとだめなのは、俺だけなのかもしれない。
この状況で、大学に行くのが本当にいいのか。俺はただ何も答えを出せないまま、その日は気づいたときには寝落ちしていた。




