第四十一話:いつかの罪の記憶
「他人と住んでる感覚が抜けない……か」
七海に、昔泣きながら言われた言葉を思い出す。
あの時は、ペットショップでぽんずに一目惚れしたんだ。話を聞けば、暴れん坊で誰彼構わず本気噛みするせいで、抱っこしたら最後、誰も購入まで進まないらしい――そんな話に同情もした。
――「私は世話しないよ? いっちゃんがお父さんだから、自分の子どもは自分で見てね?」
何度も口酸っぱく言われた。
でも就活終わりの七海は、就活うつが抜けなくて心身ともにしんどい生活をしていた。だから少しでも子犬を見て元気になってほしいと思った。
全部俺がどうにかする。大丈夫だ。何度も七海に言って聞かせた。
……でも現実は甘くなかった。
吠えないと思ってたのに、一人になったりケージに入れると、とにかく吠えた。
ペット不可の俺のアパートでは飼えるわけもなく、実家に連れて帰った。でも噛み癖もひどくてよく吠えるから、「自分で面倒見なさい」と母親に怒られ、追い出された。
どこにも行く場所がなくて、結局アパートに連れて帰ろうとした時――
「ブラックリスト入れられたらどうすんの。もう家借りれないからね」
鬼の形相で七海が助けに来てくれた。
その時、俺はぽんずの世話をお願いしたんだ。
七海は自分の実家に連れて帰って世話してくれて、トイレや簡単なしつけもしてくれた。でも、ひどい噛み癖は治らなくて、七海は顔を噛まれたり、毎日眠れない日々を過ごして、どんどん憔悴していった。
――「ぽんずをちっとも可愛いと思えない。他人の犬と住んでて世話して、私は家政婦?」
ほぼ毎日のように電話で泣かれて、キレられて、弱った声で「死にたい」と言われた。
就活うつだったものが、うつ病にシフトしたんじゃないかと思って病院を勧めたら、そこが地雷だった。
――「誰が病院代出すの? 私の内定に影響したらどうするの?」
誰のせいでこうなってるのって、何度も怒られた。
俺も毎日しんどくて――でも全部自分のせいだって分かってるから、ただ怒鳴られ続けた。
それでも、そんなに毎日泣いて怒鳴って苦しい中で、七海は俺の夕飯や昼飯になる冷凍弁当を、毎週のように十食分以上作って渡してくれてた。
「栄養は気にしろ」と青汁まで渡された。
白井を放っておけなかったのは、あの頃の俺の失敗と、七海の姿を見て――罪悪感を消化したかったからなんだろう。
他人の子を押し付けられて壊れていく二人の姿が、そっくりだったんだ……。




