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「すみませんでした! 今回のことは全て僕の責任です!」
突然少年は深々と頭を下げた。それに合わせるように隣の少女も同じように頭を下げる。面識のない二人の思わぬ行動に遙一は思わずたじろいだ。
「な・なんなんだ? 話が全く見えない」
遙一がそう戸惑いを口にすると、二人は同時に顔を上げ、どちらも申し訳なさそうに顔を顰めた。
「君を襲ったのは僕なんです」
は? と、遙一の目が点になる。
「薄々気づいてると思うのですが、私たちはもうこの世の者ではありません」
隣の少女が続けてそう告げた。
遙一は口を開けたまま何も答えない。思考がついていけず、なんと答えたらいいのかてんで思いつかなかったのだ。
「私と彼はとある理由で人体模型に閉じ込められて、あの旧校舎の中で長年を過ごしてきました」
遙一が混乱しているのを察したのか、少女は更にそう付け加えた。だがそれは逆効果で、遙一の頭の中は更に混乱する一方だ。
「もっと色々と話したいことがあるのですが、僕たちには余り時間は残されてません。なのでただ一言謝罪とお礼を言いたかった。ありがとうございます!」
少年はそう言い、また頭を下げた。同時に隣の少女も頭を下げる。
「あ・ああ」
遙一は戸惑った。思い返せば旧校舎の中を逃げ回ってばかりだったので、礼を言われるようなことは何一つしていないのだ。だから少しだけ複雑な気持ちになった。
「最後にあなたのお名前、教えてくれませんか?」
少女に尋ねられたため、遙一は正直に自分の名を告げた。
「私は市崎楓です」
「僕は宮谷裕真。よろしくお願い……そうだった。今更よろしくなんて……時間がないって自分で言ったばかりじゃないか」
少年のうっかりミスに、隣の少女は寂しそうに微笑を浮かべた。が、一瞬で真剣な顔つきに変わる。
「後の詳しいことは、あなたの帰りを待っている槍を持つ女の子に聞いてください」
「それではこれでお別れです。もう二度と会うことはないと思います」
少年がそう言い残して二人は同時に振り返り、旧校舎の入り口へと向かおうとした。
「え? いや! ちょっと待てって!」
遙一は追いかけようとする。が、
「来てはダメです!!」
少年が背を向けたまま怒鳴ったため、意表を突かれて遙一は立ち止まってしまった。少年と少女も歩みを止めていた。
「言ったじゃないですか。あの女の子が帰りを待ってるって。あなたはこれ以上こちら側にきてはダメ。ここでお別れなんです」
振り返った少女は、怒鳴ってから無言のままの少年の心中を代弁するかのように遙一にそう諭した。
「そうでした。あと、あの女の子に伝えて下さい。あなたのおかげでやっと還れます、と」
そう言い置くと、少女はまた背を見せて、少年と手をつなぐと歩くのを再開した。
遙一はその場で立ち止まったまま、二人が旧校舎の中へ入っていくのを見届けた。
「なんなんだよ。一方的に言うだけ言ってさっさと去っていくなんて」
旧校舎の扉が誰の力も借りずにひとりでにばたんと音を立てて閉まる。その直後、全く予期していなかった事態が起きた。
突然旧校舎全体が一瞬にして炎に飲まれたのだ。
「そんな!?」
遙一は慌てて近づこうとするが、旧校舎を覆う炎の勢いがあまりにも強く近寄れない。
目の前で旧校舎は炎にのまれたままどんどん崩壊していく。まるで、遙一のいる場所と彼らの世界を隔てるかのように。
遙一はその光景を茫然と見つめ、立ち尽くすしかなかった。
「なんなんだよ。なんなんだよ一体……」
唇からそう漏らしながら膝から崩れ落ちる。
旧校舎全体を覆う巨大な炎がぼやけていく。
「あれ? なんで俺泣いてんだろ? 言ってたじゃないか。自分らはもうこの世の住人じゃないって」
そう。助けることなんて元からできやしないのだ。
そう思った次の瞬間、ぼやけたオレンジ色の視界が目の前を遮られたかのように真っ暗闇に変わった。




