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闇に包まれていたのが、実は自分の瞼が閉じていたせいだということを把握し、遙一はゆっくりと眼を開いた。
意識を失っていたはずだが、倒れていたわけでも寝込んでいたわけでもなく、これまでずっとそうしていたかのように、ただその場でぽつねんと棒立ちしていた。
瞬間、見慣れた景色が視界いっぱいに映った。
「え!?」
いや、その景色は遙一が見慣れていたものとは少しズレが生じていた。だから遙一はあまりの驚きでその場で立ち尽くしてしまったのである。遙一の目の前にあったのは、さっき崩壊したはずの旧校舎だった。
「どうして!?」
死んだはずの人間に再会したかのように、遙一はゆっくりと旧校舎に近づいた。
信じられないといった面持ちで歩みを動かしていたが、踏みとどまることに至る何かを感じ取り、その歩みはピタリと止まった。
「違う……」
すぐ目の前にある旧校舎中央の出入口に向かい合い、眉をひそめて遙一はぽつりと呟いた。
確かに目の前にあるのは旧校舎だ。しかし、遙一の見慣れていた旧校舎とは明らかに相違があった。それこそが、遙一が感じ取ったズレの正体だ。
建物に長年使い古されたような感じはうけない。まだまだ現役を続けているかのように綺麗なのだ。三階までゆっくりと見上げたが、窓ガラス一枚ですら割れたものは見当たらなかった。
「どうなってんだ?」
そしてもう一つおかしな点に気づき、遙一は頭上を仰いだ。
ほんの先ほどまでは真夜中だったのに、今彼の頭の上では雲一つない青空が広がり、太陽までもが浮かんでいた。まるで昼間のように。
遙一は空から視線を下げ、今度は後ろを振り返る。すると、またしてもその先に映った景色が遙一の頭を混乱させた。
目の前に広がったのは、業者の手によって綺麗に整えられたかのような並木道。それが奥の方まで続いていた。
ここにあったはずの、いつも見慣れた雑木林が見当たらない。その代わりに、ずっと使い続けられてきたかのような綺麗な並木道がある。
これらを目の当たりにした遙一は思いもよらない答えにたどり着いた。
「もしかしてここは過去なのか?」
遙一はなすすべもなくその場でじっと立っていた。
自分の身に何が起こってるのか。あの少女がいれば心強いのだが、周りを見渡しても少女の姿が見当たらないのでどうしようもない。
しかし、何がどうなってこのような場所に行きついてしまったのか。
遙一はここにくる直前のことを思い出そうとした。
あの少女は、瓦礫の山から連れ出した半身の女をためらいもなく持っていた槍で貫いた。その時周辺に舞った光る破片。遙一はその破片の一つに触れた。するとどういうわけかここにいた。過去と思われるこの世界に飛ばされていた。
少女は遙一が光る破片に触れようとしたら阻止しようとした。だが間に合わなかった。触れてはならないものに触れてしまった。それがこの異常事態を引き起こしたのだろうか。
元の世界に戻れるのか? 不安に苛まれていたその時、旧校舎の出入口の方からガチャリと物音がした。
遙一は驚いて肩を揺らし、見てはいけないものを覚悟を決めて見るようにスローな動きで出入口を見やった。
中央の扉がゆっくりと動く。ガチャリという音は鍵を開ける時に鳴ったのだろう。
扉にできた隙間がどんどん広がっていく。遙一はその場で身構えた。
鬼が出るか蛇が出るか、それとも先の半身の女が出てくるか。鈍い鉄の音をともなって観音開きの扉は全開にされた。
「ん?」
身構えていた遙一は、ほんの少しだけ肩の力を抜いた。
そこから現れたのは、遙一と同じ年齢くらいの少年と少女だった。
「あんたらはいったい……あ!」
遙一はあることを思い出して恐怖が込み上げてきたために、ごくりと喉を鳴らした。
少年の顔は知らない。しかし、少女には見覚えがあった。少女の顔は人体模型の女によく似ていたのだ。
だがかなり雰囲気が違う。長い黒髪は後ろで綺麗に三つ編みにされている。人体模型の女とは違い、ちゃんと下半身もあった。背丈は遙一と同じくらい。見た目からはおとなしそうな感じが窺えた。
そして次に、隣に立つ見知らぬ少年を見やった。
一見すると地味な印象を受ける。細身で華奢な体つき、肌も色白で影が薄く、少し病弱な感じに受け取れた。
二人とも遙一の着ているようなブレザーではなく、少年は学ラン、少女はセーラー服の恰好だった。
二人は遙一の前にまでやってくると、差向うようにして立ち止まった。




