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旧校舎全体が地震にあっているかのように震えだしたかと思った瞬間、突如崩壊を始めた。
次々に炎をまとった瓦礫が地面に墜落し、衝撃音を轟かせて地響きを起こす。砂埃や灰が炎の中を舞い、ガラスが割れて散らばる甲高い音があちこちで上がる。空では夜の闇よりも濃い煙が際限なく舞い上がっていた。
「嘘だろおい!」
遙一の目の前で悪夢のような光景が広がっていく。
旧校舎は既にほぼ全体が炎に包まれていた。それが半身の女が投げ飛ばされた際に、旧校舎を支えていた重要な柱などを破壊したのか、崩壊のきっかけをつくりだしたらしい。もっとも、炎に飲み込まれた旧校舎を誰が見たとしても、どのみち崩壊は免れなかっただろうと思うだろうが。
唖然とする遙一。
とうとう旧校舎は完全に崩壊してしまった。頼みの綱だった消防隊が来たところでもう遅い。
目の前に広がるのは、たくさんの瓦礫から燃え上がる炎が集まってできた真っ赤に揺らめく海。その上空ではもくもくと毒々しい煙が舞い上がっている。
遙一はほんの数歩だけ炎の海へと歩み寄ると、半身の女が投げ飛ばされた方へ視線をやった。
半身の女はどうなったのだろうか。目を凝らしてみても一帯をオレンジに染め上げる炎に邪魔をされて全くわからない。
遙一は少し考えてみた。半身の女は少女に鷲掴みにされた時のダメージを頭に負ったせいで瞬間移動を使えなかったのではないだろうか。そのために、少女の手によって、旧校舎の方へ投げ飛ばされても回避することができず、壁や柱をいくつも貫いて奥の奥まで飛ばされてしまった。だから旧校舎は完全に崩壊したのだろう。
「もう一度言います。おとなしく一緒に還りませんか?」
瓦礫と炎で激しく埋め尽くされた一帯に向け、少女は淡々と言い放つ。おそらくは埋もれてその中にいるであろう半身の女に向けて。少女にはわかるのかもしれない。半身の女はまだやられてはいないのだと。
半身の女が喋るのかはわからないが、暫く待っても返答らしきサインはなかった。しかし、半身の女が少女の提案に拒否を示しているのは先の行為で明らかだ。
隠れて時間稼ぎし、なんらかの手段を考えているのだろう。だが、これまで見てきてわかる通り、二人の力の差は歴然だった。半身の女は絶対に少女に勝つことはできない。敵わないというなら、残る術は逃げる他ないだろう。
「断るというのなら、強行手段に出ます」
冷然と炎を見つめ、少女は槍を握る手に力を込めた。
その時、炎にのまれた瓦礫の一部分がぴくりと動いた。
炎で霞んでよくは見えないが、何者かが瓦礫の上をつたいながらこちらへと向かってくる。その動きはぎこちなく、ゼンマイの切れそうな玩具のように弱々しい。
やがて炎の中からその姿は消えた。
それとほぼ同じタイミングで、遙一と少女から少し離れた向かい側に半身の女が現れた。
瞬間移動を使って瓦礫の中から一瞬で炎の外側へと脱出し、一気に距離をつめてきたのだ。
もしかすると、半身の女が暫く瓦礫の中に身を潜めていたのは、再び瞬間移動が使えるようになるためのほんの少しの時間稼ぎだったのかもしれない。
半身の女に急に接近されたため、遙一は驚いて尻餅をつきそうになるが、なんとか体勢を保とうとして後退りで持ちこたえる。
あれだけ炎にのまれていたというのに、体は疎か服にも髪にも焼け焦げた部分が見当たらない。だがよく見ると、半身の女は少女に投げ飛ばされた時の衝撃によるものでか左腕を失っていた。ぎこちなく動いていたのは右腕だけで這い進んでいたからだろう。
距離にして約五メートル、半身の女はただ一直線に少女と遙一の方へと、ゆっくりと着実に地面を這って向かってくる。歯を食いしばった鬼のようなその形相からは、まだ刃向かおうとしているような気迫が感じられた。
遙一はその姿がだんだん哀れに思えてきた。そんな思いが、遙一を不可解な行動に突き動かしたのである。
「そうですか。なら、徹底的につぶしてあげます」
鋭い眼光をギラリと不気味に煌めかせ、少女は冷然と一歩を踏み出した。
だが、二歩目を踏み出したところで少女の歩みは止まる。
遙一が少女の前に立ちはだかっていたのだ。




