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半身の女の瞬間移動がどのようにして行われているのかは、遙一には当然理解できない。
これまで少女は半身の女の瞬間移動先を読み、即座に反応して槍で応戦していた。だが今度は槍を使わずに素手のみで、飛んできたボールを受け止めるがごとく安易にやってのけたのである。武器なんか必要ない。お前は素手だけでいつでも仕留めることができると言わんばかりに。
半身の女の片目が大きく見開いている。遙一にはそこから微かに怯えの色が垣間見えたような気がした。そして、これまで瞬間移動されていたためによく見ることができなかった半身の女の全容を、ようやく目の当たりにすることができた。
顔の半分は骸骨だったが、少女が先ほど言っていたように、よくよく見ると確かに人体模型だった。首から下は、元は白いワンピースのような恰好だったと思われるが、以前失ったらしい下半身とともにワンピースの下半分は破れてしまっていた。また、長い年月を思わせるようにところどころが泥や埃で薄汚れていた。
半身の女は少女に頭部を鷲掴みにされているが、下半身がないのでぶら下がる形になっている。その光景は、怪力の大男からアイアンクローを受けて地に足がついてない小男の状態を彷彿とさせた。
「じゃあ、還りましょうか」
少女がぽつりと呟いた。
(かえる? いったいどこへ?)
頭の中で疑問符を浮かべたところで、山積みになっている疑問符がまた一つ増えるだけだ。遙一ができることといえば、ただおとなしく事の成り行きを見届けるだけ。
少女と鷲掴みにされた半身の女をその場で呆然と見上げているしかなかった。が、突如事態が動いた。
少女の問いかけに対して拒否を示すように、半身の女は両腕を少女に向けて伸ばす。まるで蛇が巻きつこうとするかのように伸ばされた左右の手が、少女の首に絡みついた。同時にぐっと力が込められ、十本全ての指が少女の白くか細い喉にめり込んだ。
(マズい!)
少女が優勢の展開かと思われていたが、一転して危機に陥った。
助けなければ! と、立ち上がろうとしたところで動きが止まる。
先ほど旧校舎で足を掴まれた時の怪力を考えれば、遙一が手を出したところでどうしようもないのではないか。加勢したところで赤子が綱引きに助勢するようなものなのだ。
少女を窮地から脱出させることなんてとても不可能。手も出せずにただ見ていることしかできない。
(それでも!)
遙一は立ち上がり、二人の間に割って入るようにして、半身の女の両の手を少女の首から引きはがそうとした。だが、やはりピクリとも動かせない。
「ちくしょうっ!!」
少女の首からは今にも骨の軋むような音が聞こえてきそうだった。
か細い首に絡みついた半身の女の手首を、なす術もなく掴んでいた遙一の顔が悔しさで歪む。
だが、当の少女の顔は痛さも何も感じてないかのように無表情だった。誰が見ても違和感を抱かせる程にだ。それ故、遙一は半身の女の手首から自然と手を放してしまった。
(ちょっと待て! どうして持ってる槍を使わないんだ!?)
少女の左手には今もしっかりと槍が握られている。この近距離から槍を使えば危機を脱出できるどころか、留めを刺すことだって容易であるはず。
何か理由があって使えないのだろうか、と疑問を抱いたその瞬間、少女の頭が音もなく傾いた。
それを間近で目の当たりにした遙一は恐ろしさから顔を伏せてしまった。
首の骨を折られて白目を剥いている少女を脳裏に思い浮かべてしまい、遙一は怖くて顔を上げられない。しかし、もし少女がやられてしまったとなると、今度は自分が危うくなる。じっとしてはいられない。ここから離れなければ自分もやられる。
遙一は逃げる覚悟を決めて顔を上げた。そして愕然とした。
「え!?」
少女の頭の向きは半身の女の両手に首を抑えられているせいで傾いてはいる。だが、その顔はやはり無表情だ。まるでロボットのように、やせ我慢とは程遠い無表情。
やられてしまったのかと思った瞬間、傾いて明後日の方向を見ていた少女の頭が、突如半身の女の方を向く。
まるで標的を定めた殺人マシンのように、射抜くような鋭い眼光が半身の女の顔へと向けられた。
「その程度ですか?」
何事もなかったかのように半身の女を睨みつけ、少女の右手に力が込められる。
半身の女の顔面に少女の右手の五本指がメキメキと音を立ててめり込み、それぞれの指を中心にして顔中にヒビが入っていく。そのダメージが影響してか、彼女の首に巻きついていた半身の女の両手があっさりと放れ、ぶらんと垂れ下がった。
「不毛な時間ですね」
つまらないようにぽつりとこぼすと、少女は右腕だけで半身の女を後ろへ振りかぶり、炎に包まれた旧校舎にめがけて軽々とぶん投げた。
その速度は先ほどの槍とまではいかないが、それでも人間が投げて出せるスピードではない。
いくつもの障害物を貫いたかのように立て続けに、だんっ、ばりばりっ、どんっ、という雷鳴のような音が何度も響き渡る。
だが、それがとんでもない事態を引き起こすことになったのである。




