06 休日の過ごし方
ギルドで働き始めて数か月。
今日は久しぶりの休日だった。
朝早く目を覚ました私は、大きく伸びをする。
「よーし!」
仕事の日は制服に着替えて慌ただしく家を飛び出すけれど、今日は違う。
お気に入りのワンピースに袖を通し、髪をゆるくまとめる。
鏡の前でくるりと一回転すると、自然と頬が緩んだ。
「今日は何を食べようかな。」
休日の楽しみは、美味しいものを探して街を歩くことだ。
王都には、毎日のように新しいお店ができる。
甘い焼き菓子の店に、流行りの紅茶専門店。
気になっていた雑貨屋も、今日はゆっくり見て回れる。
商会の娘として育ったからか、私は買い物が好きだった。
人が何を求め、どんなものに価値を感じるのか。
店先を眺めているだけでも飽きない。
焼きたてのアップルパイを買い、小さな公園のベンチへ腰掛ける。
温かな香りが鼻をくすぐった。
「んー!」
一口頬張るだけで幸せになる。
やっぱり甘いものは世界を救う。
そんなことを考えながらぼんやりしていると、ふと向かいのベンチへ若い女性が座った。
「ねぇねぇ、昨日アシュレイ様見た?」
「見た見た。相変わらず怖かったよね。」
私はぴくりと肩を震わせる。
「でもあの例の受付嬢の子、まだ諦めてないんでしょ?」
「変わってるよねぇ。」
思わず耳がそちらへ向いてしまう。街にまで噂が広がってるなんて…最近は自粛してるのに。
「まあ、あんな顔じゃ仕方ないよ。」
「私だったら絶対無理。」
二人は悪気なく笑い合う。
私はアップルパイを包み紙に戻した。
(……。)
もう聞き慣れた言葉だった。
でも、慣れたくはない。
あんなにかっこいい人を、どうしてそんなふうに言えるんだろう。
少しだけ胸が苦しくなる。
気分を変えようと立ち上がった私は、その足で服屋へ向かった。
「いらっしゃいませ!」
店内には男性物のマフラーや手袋が並んでいる。
冬も近い。
ふと、一枚の深い紺色のマフラーが目に留まった。
(これ……。)
絶対似合う。
銀色の髪に、きっとよく映える。
思わず手に取ってしまう。
「恋人への贈り物ですか?」
店員さんがにこりと笑う。
「えっ。」
「素敵なお色ですよ。」
私は慌てて首を振った。
「まだ恋人じゃありません!」
言ってから、自分で顔が熱くなる。
(いつか、恋人になってくれる日が……。来るわけないか…)
店員さんはくすりと笑った。
「では、好きな方へ?」
「……はい。」
小さく頷く。
「でも、たぶん受け取ってもらえません。」
「そんなことありませんよ。」
店員は優しく微笑む。
「想いは、案外伝わるものです。」
私は曖昧に笑い返した。
(……伝わるかな。)
たぶん、無理だ。
アシュレイさんは、私のことが嫌いだから。
それでも。
少しでも笑ってくれたらいい。
そんな気持ちで、私はそのマフラーを買った。
◇
一方その頃。
ギルドでは珍しい光景に、冒険者たちがざわついていた。
「今日、リリア嬢いないな。」
「ああ、休みらしい。」
「静かだなぁ。」
そんな声を聞き流しながら、アシュレイは依頼書を受け取る。
いつもなら聞こえてくる、騒がしい声はない。
"おはようございます!"
"今日も好きです!"
……最近は、一度も。
(せいせいする。このままずっと、俺の前に現れないままでいてくれれば…)
……くれれば、平穏でいられる。




