大失敗
休日はあっという間に終わった。
いつもの制服に袖を通し、鏡の前で身だしなみを整える。
そして机の上に置かれた、小さな紙袋へ視線を向けた。
昨日買った、紺色のマフラー。
銀色の髪に絶対似合うと思って選んだ、自信作だ。
「……よし。」
私は紙袋を抱えて家を出た。
◇
ギルドへ着くと、朝からいつも通りの忙しさだった。
依頼書を整理し、冒険者の受付をしているうちに、あっという間に昼が近づく。
そして。
ギルドの扉が開いた。
銀色の髪が目に入った瞬間、胸が高鳴る。
(来た……!)
アシュレイさんだ。
今日はいつもより少しだけ機嫌が良さそう……に見える。
いや、眉間に皺は寄っているし、相変わらず怖い顔だけど。
昨日会えなかったせいか、それだけで少し嬉しくなってしまう。
依頼を受け取り、踵を返したところで、私は慌てて受付を飛び出した。
「アシュレイさん!」
その一声だけで、周囲の冒険者たちが一斉にこちらを見る。
「また始まった。」
「今日は何だ?」
そんな囁きも、今は耳に入らない。
私は紙袋をぎゅっと抱きしめる。
「これ、よかったら……!」
差し出した瞬間だった。
アシュレイの視線が紙袋へ落ちる。
そして、心底うんざりしたように目を細めた。
「……何だ。」
「寒くなってきたので、マフラーです!」
「いらん。」
即答だった。
それでも私は諦めない。
「似合うと思って選んだんです!」
「そうか。」
「だから──」
「受け取る理由がない。」
冷たい声だった。
それでも、昨日までとは少し違う。
アシュレイは紙袋から目を逸らさない。
私はもう一歩だけ近づいた。
「お願いです!」
その瞬間。
アシュレイは紙袋をひったくるように手に取った。
(やった……!)
一瞬だけ胸が躍る。
けれど。
次の瞬間には、その紙袋は地面に叩きつけられていた。
ぐしゃり。柔らかい紙袋が、衝撃で歪む。
「ほんとに馬鹿だなお前は」
ギルドが静まり返る。
「……え?」
「こんなものを渡せば、俺が喜ぶと思ったのか。」
吐き捨てるような声だった。
「何度言えばわかる?迷惑だ。」
そう言い残し、アシュレイは去っていく。
私はしばらく、その場から動けなかった。
紙袋を抱えたまま、立ち尽くす。
「リリア……。」
先輩が心配そうに近づいてくる。
私は慌てて笑顔を作った。
「だ、大丈夫です!」
……少しだけ。
本当に少しだけ、泣きそうだった。
◇
一方、その頃。
ギルドを出たアシュレイは、人気のない路地へ入ると足を止めた。
拳を強く握り締める。
(……何なんだ。)
思い出すのは、紙袋を差し出すあの笑顔。
あれが演技だというなら、大した役者だ。
もし本気だったとしても。
(そんなわけがない。)
過去にもいた。
「プレゼントをあげる」と笑いながら、箱の中に虫を詰めてきた女。
「似合うよ」と服を渡し、人前で笑い者にした男。
期待した分だけ、最後に笑われる。
そんなことは嫌というほど知っている。
だから受け取らなかった。
それでいい。
……それで、いいはずなのに。
ふと脳裏に浮かぶのは、あの紙袋を抱きしめたまま俯いていた少女の姿だった。
舌打ちを一つ。
「……くだらん。」
誰に言い聞かせるでもなく呟き、アシュレイは足早に歩き出した。




