05 受付嬢は大変です
受付嬢の仕事は、依頼を受け付けるだけではない。
冒険者同士の揉め事を仲裁したり、報酬に文句を言われたり、ときには酔っ払いの相手までしなければならない。
今日も朝から、私は頭を下げていた。
「だからよぉ! 昨日の依頼書には魔物が三体って書いてあっただろ!」
「申し訳ありません。現地調査の結果、繁殖期だったようで……」
「命張ったのはこっちなんだぞ!」
ドンッ!とカウンターを叩く音に、周囲の視線が集まる。
それでも私は笑顔を崩さなかった。
相手の話を最後まで聞き、追加報酬の申請手続きを説明する。
十分ほどやり取りを続けると、冒険者はようやく納得したように舌打ちをして去っていった。
「ふぅ……」
「お疲れ様。」
先輩が温かいお茶を差し出してくれる。
「ありがとうございます。」
「よく怒鳴られて泣かないわね。」
「慣れました!」
本当はちょっと怖いけれど。
それでも誰かがやらなければならない仕事だ。
そう思うと、不思議と頑張れた。
そんな私を見つめる視線があることには、気づいていなかった。
◻︎
「リリアさん。」
昼を過ぎた頃、一人の青年がカウンターへやって来た。
年齢は二十代前半くらい。
茶色の柔らかな髪に、ぱっちりとした大きな瞳。
華奢な体格で、女性なら誰もが振り返るような整った容姿をしている。
周囲からは「アルトだ」「Cランクに上がったばかりの期待株だぞ」という声が聞こえてきた。
(……あ。苦手な顔。)
もちろん、口には出さない。
「本日はどうされましたか?」
営業用の笑顔を浮かべる。
青年は照れくさそうに頭を掻いた。
「いや、その……依頼じゃなくて。」
「はい。」
「仕事終わったら、食事でもどうかなって。」
一瞬、頭が真っ白になる。
「え?」
「前から可愛いなって思ってたんだ。」
ああ、そういうことか。
私は申し訳なく思いながらも、丁寧に頭を下げた。
「すみません。そういうお誘いはお受けしていないんです。」
青年は少しだけ悔しそうな顔をしたあと、苦笑を浮かべる。
「君があいつのことを好きなのは知ってる」
「はい!そうなんです」
アシュレイさんのことを「あいつ」、と言われ私は少しムッとするが、わかってくれるなら早いと笑顔を浮かべる。
「なんでまた、あんな奴なんだよ。」
その一言で、私の笑顔は消えた。
「あんな奴?」
「世界一の不細工だろ。性格も最悪だし。」
周囲から乾いた笑いが漏れていることに、私はさらにイライラした。
・・・ふざけないで、アシュレイさんのいいところは、顔だけじゃない。功績、そして不器用なやさしさ。何度も人々を救ってきた英雄に対して、こんな、こんなことって・・・!
私は怒りに震えたが、ぐっとこぶしを握って爪を食い込ませて怒りに耐えた。
「俺の方が絶対幸せにできる。」
「……。」
「顔だって俺の方が──」
「失礼ですが。」
私の声に、青年は言葉を止めた。
営業用の笑顔は、もうどこにもなかった。
「アシュレイさんの悪口を言う方とは、お話ししたくありません。」
静かな声だった。
けれど、はっきりと怒っていることは伝わったらしい。
青年は戸惑ったように目を瞬かせる。
「いや、でも事実だろ?」
「私には事実ではありません。」
私は真っ直ぐ彼を見つめた。
「それに、人を貶して自分を良く見せようとする方より、アシュレイさんの方がずっと素敵です。」
青年の表情が強張る。
「……本気で言ってるのか?」
「もちろんです。」
わからなくていい、こんなやつに。アシュレイさんの魅力は、私が知っている。
私は一礼した。
「他のお客様もお待ちですので、ご用件がなければ失礼いたします。」
それ以上話すつもりはなかった。
青年は気まずそうに何かを言いかけたが、結局何も言えず、その場を離れていった。




