04 避けられてるみたいです
私は最近、一つ気づいたことがある。
アシュレイさんは、私のことが嫌いだ。
……いや、そんなことは最初から分かっていた。
でも、「話しかけるな」と言われても毎日話しかけているし、「近寄るな」と言われても隣まで歩いて行く。
だから正直、そこまで嫌われている実感はなかった。
けれど今日、それは勘違いだったのだと知る。
「おはようございます!」
いつものように笑いかけると、アシュレイさんは私の顔を見るなり舌打ちをした。
そして、そのまま踵を返して別の受付へ向かってしまう。
……ではなく。
ギルドの出口へ向かって歩き出した。
「あれ?」
討伐依頼を受けに来たんじゃないの?
不思議に思って見ていると、隣の受付にいた先輩が小さくため息をつく。
「またね。」
「また?」
「リリア、あなたが受付にいる日は、アシュレイ様は時間をずらして来るようになったの。」
「…………え?」
思わず聞き返してしまう。
「え?」
「だから、あなたと顔を合わせたくないのよ。」
頭の中が真っ白になった。
そんな……。
そこまで?
「前までは朝一番に来てたのにね。」
別の受付嬢も苦笑する。
「最近は昼だったり夕方だったり。」
「完全に避けられてるわ。」
私は思わず入口を見る。
そこにはもう、アシュレイさんの姿はなかった。
胸が少し痛む。
(そんなに嫌だったんだ。)
さすがに落ち込む。
毎日嫌だと言われても、どこかで「照れ隠しかも」なんて都合よく考えていた自分が恥ずかしい。
あれは全部、本気だった。
本当に私を見たくなかったのだ。
「……ごめんなさい。」
ぽつりと呟くと、先輩が慌てて首を振る。
「リリアが謝ることじゃないわ。」
「でも……。」
仕事の邪魔までしていたなんて。
知らなかった。
知らなかったから。
だから。
その日から私は、毎朝ギルドの入口を見るようになった。
アシュレイさんが来たら、受付から出ない。
目が合っても手を振らない。
話しかけない。
せめて仕事だけでも、邪魔をしないように。
――そのつもりだった。
「……。」
翌朝。
ギルドの扉が開く。
銀髪が見えた瞬間、私は反射的にカウンターの下へしゃがみこんだ。
「リリア?」
「しーっ!」
先輩が呆れた顔をする。
「見つかったら帰っちゃいますから……。」
こそこそと様子を窺う。
その姿はどう見ても不審者だった。
アシュレイは何事もなく受付を済ませ、依頼書を受け取る。
そのままギルドを出て行くまで、一度もこちらを見ることはなかった。
「……行った。」
私はほっと息をつく。
よかった。
今日はちゃんと依頼を受けられた。
これなら迷惑をかけずに済む。
そう思っていた。
その日の夕方。
討伐を終えたアシュレイさんが戻ってくる。
私はまた慌てて裏に隠れた。
◇
無事に別の受付で精算を終えたアシュレイは、そのまま出口へ向かう。
……ふと。
ほんの一瞬だけ。
アシュレイは何かを探すように、受付の方へ視線を向けた。
「?」
すぐに何事もなかったように歩き去っていく。
リリアは気が付かなかった。
カウンターの裏の休憩室で、小さくガッツポーズをしていたからだ。
(よしっ!)
(今日は一度も迷惑をかけなかった!)
一方その頃。
ギルドを出たアシュレイは、ようやっと訪れた安寧にほっとした。
「……静かだな。」
ようやく諦めたか。これで平穏に戻れる。
そう思った、その時だった。
「なんだ、今日は例の姉ちゃんいねぇのか?」
「振られすぎて心折れたんじゃねぇ?」
「いや、アシュレイに嫌われて泣いたんだろぉ。がはは!」
背後から聞こえてくる冒険者たちの笑い声に、眉間へ深い皺が寄る。
(……うるさい。)
人のことなど放っておけばいいものを。
毎日毎日、好き勝手に騒ぎ立てて。
誰が誰を好きだろうと、自分たちには関係ないだろう。
苛立ちを振り払うように歩みを速める。
それでも耳障りな笑い声は、しばらく背中を追いかけてきた




