変な子(先輩目線)
私はしがないギルド受付嬢。最近、変な新人が来た。名前はリリア、仕事もできるしとってもかわいい.愛嬌もある。…少しばかり、いやかなり男の好みが変であること以外は優秀な子である。
リリアが働き始めてからというもの、ギルドには一つ、新しい名物ができた。
毎朝、S級冒険者アシュレイへ告白する受付嬢。
その日も、ギルドの扉が開くなり元気な声が響いた。
「おはようございます、アシュレイさん!」
帳簿をつけていた私は、思わず手を止める。
視線の先では、銀髪の青年が露骨に眉をしかめていた。
彼はリリアを一瞥すると、何も言わず受付を通り過ぎる。
それでもリリアは懲りない。
にこにこと後ろをついて歩き、「今日も好きです!」と満面の笑みを向ける。
対するアシュレイは、煩わしそうに舌打ちを一つ。
そのまま別の受付へ向かっていった。
周囲では、それを見ていた冒険者たちが小さく笑っている。
「また始まったな。」
「今日で四日目か?」
「よく心折れねぇよ。」
誰も止めない。
止める必要もない。
どうせ今日も、リリアが振られて終わるだけなのだから。
私はため息をつきながら、書類へ視線を戻した。
正直、最初は私も罰ゲームか何かだと思っていた。
リリアは由緒ある商会のお嬢様だ。
礼儀正しく、愛想もよく、仕事も覚えが早い。
そんな子が、よりにもよってアシュレイ様に一目惚れするなんて、誰が信じるだろう。
けれど、数日間見ていて分かった。
あの子は本気だ。
本気だからこそ、私は少しだけ心配になる。
相手が、アシュレイ様だから。
この国で彼を知らない者はいない。
二十代という若さでS級に昇格した天才冒険者。
一人で古竜を討伐し、王都を襲った魔物の大群を退けた英雄。
数え切れないほどの功績を持ちながら、人々が彼を語るとき、真っ先に口にするのは実力ではなかった。
――世界一の醜男。
それが、彼につけられた呼び名だ。
この世界では、小柄で華奢な体つきに、一重で重たい瞼、小ぶりな鼻、丸い輪郭に分厚い唇の左右非対称な顔立ちが美しいとされる。
王族貴族も、人気役者も、街の女性たちが黄色い声を上げる男性は皆、どこか丸みを帯びた可愛らしさのある容姿をしていた。
反対に、ぱっちりとした二重に、高い鼻筋、シャープな輪郭に薄い唇、そして左右対称な顔。長身で鍛えられた大きな身体は、威圧的で恐ろしく、醜いものとされる。
アシュレイ様は、その特徴をすべて持って生まれた。
だから子どもの頃から、化け物だ、不吉だと囁かれて育ったという。
本人から聞いた話ではない。
けれど、長くギルドで働いていれば嫌でも耳に入る。
容姿を笑うためだけに近づく者。
好意があるふりをして、本気にさせて笑う者。
そんな悪趣味な人間が、一人や二人ではなかったことも。
だからアシュレイ様は、人を信じない。
とくに、自分へ好意を向ける人間など。
信じられるはずがないのだ。
昼休みになり、私は食堂で向かいに座るリリアを眺めた。
美味しそうにスープを飲む姿は、朝あれだけ振られた人とは思えないほど明るい。
私は思い切って口を開いた。
「ねえ、リリア。」
返事と一緒に、丸い瞳がこちらを向く。
「どうして、アシュレイ様なの?」
しばらく考え込むように視線を泳がせたリリアは、やがて照れくさそうに笑った。
「だって、すごくかっこいいじゃないですか。」
私は思わず苦笑する。
やっぱり、この子だけは違う。
世界中が醜いと言う男を、誰よりも美しいと言う。
世界中が恐れる男へ、真っ直ぐ笑いかける。
そんな人間を、私は今まで一人も見たことがなかった。
だからだろうか。
今朝、アシュレイ様がリリアを睨んだあの一瞬。
あれは怒りだけではなく、どこか怯えているようにも見えた。
……もっとも、本人は絶対に認めないだろうけれど。




