02 アタックあるのみ、です
「おはようございます!」
翌朝。
いつものようにギルドの扉が開く。
その瞬間、私は勢いよく立ち上がった。
「アシュレイさん!」
銀髪の青年は一瞬だけこちらを見て――露骨に眉をひそめた。
(今日もか。)
そんな顔だった。
「おはようございます!」
「……。」
「今日もかっこいいですね!」
「……。」
「好きです!」
アシュレイは深いため息をつく。
「……朝から気分が悪い。」
ズキン。
(うっ……。)
少しだけ傷ついた。
でも私はへこたれない。
「依頼ですね!」
笑顔で書類を受け取ろうとすると、彼は私ではなく隣の受付へ向かった。
「……あ。」
「受付を頼む。」
「は、はい!」
先輩受付嬢が慌てて対応する。
私はぽつんと取り残された。
「……。」
隣から小さく笑い声が聞こえる。
「避けられてる。」
「当たり前だろ。」
「毎日あんなこと言われたら嫌になるよな。」
胸がちくりと痛んだ。
それでも。
(嫌われてるだけ。)
(まだ5日目だもん。)
私は自分に言い聞かせた。
◇
昼頃。
アシュレイが討伐から戻ってきた。
私は真っ先に駆け寄る。
「お疲れさまです!」
「……。」
「怪我はありませんか?」
「……受付を呼べ。」
「私です!」
「違う。」
「え?」
「お前以外を呼べ。」
あまりにもきっぱり言われて、思わず固まった。
「……私じゃダメですか?」
「ダメだ。」
「どうして……。」
アシュレイは冷たい目で私を見る。
「見ていて腹が立つ。」
その言葉に、周囲が静まり返る。
「……。」
「……。」
「何度も言うがくだらない嘘はやめろ。優しく言っている今のうちにだ」
そう言い残し、また隣の受付へ。
先輩は困ったように私を見る。
「ご、ごめんね。」
「……いえ。」
笑おうとした。
でもうまく笑えなかった。
◇
仕事終わり。
ギルドを出ると、石畳の道をアシュレイが歩いていた。
(今なら人も少ないし。)
私は小走りで追いかける。
「あの!」
彼は振り返らない。
「アシュレイさん!」
「……。」
「待ってください!」
ようやく立ち止まる。
「……何だ。」
「私、本当に遊びじゃないんです。」
「そうか。」
「本気で好きなんです。」
「そういう設定か。」
「設定じゃありません!」
「今日は随分凝ってるな。」
彼は鼻で笑う。
「なぜ俺にこだわる?」
「え?」
「何が目的だ?人を嘲笑うことか?それとも金か?」
リリアは言葉を失った。
「……違います。」
「いい加減にしろ。」
初めてだった。
彼の声に、怒りが滲んでいた。
「お前みたいな女が1番嫌いだ」
「え……?」
「俺のような醜い男ならすぐ好きになると、本気で勘違いすると思っているんだろう。」
その瞳には、諦めしかなかった。
「今まで何人見てきたと思ってる。」
「……。」
「『好き』だの『結婚して』だの言って、裏では嘲笑いながら金のことしか見ていない。」
リリアは息を呑む。
(そんなこと……。)
「だから。」
アシュレイは一歩近づいた。
冷たい視線が突き刺さる。
「二度と俺に話しかけるな。」
「……。」
「お前の顔を見るだけで、不愉快だ。」
そのまま彼は去っていく。
残された私は、しばらく動けなかった。
◇
「リリア、大丈夫?」
帰り支度を終えた先輩が心配そうに声を掛ける。
「……はい!」
無理やり笑う。
「全然平気です!」
「本当に?」
「だって……。」
私は小さく笑った。
「嫌われてるだけですよね。」
「……。」
「嫌われてるなら、好きになってもらえばいいだけです。…無関心よりかは、マシですから」
先輩は何とも言えない顔をした。
「諦めないの?」
「はい!」
ぐっと静かに拳を握る。
「明日も告白します!」
◇
一方その頃。
ギルドから離れた路地裏を歩きながら、アシュレイは舌打ちした。
「……胸糞悪い。」
また始まった。
どうせまた性格の悪い女の暇つぶし。
自分みたいな"醜男"をからかって楽しんでいるだけだ。
そう思えば腹が立つ。
あの笑顔も。
あの真っ直ぐな目も。
全部、演技だ。
「……次来たら泣かせてやる。」
もう二度と、自分なんかに近づこうと思わないくらいに。
そう決めたはずなのに――。
脳裏に浮かぶのは、傷ついたように揺れた、彼女の青い瞳だった。




