01 一目惚れです
私は今日、恋に落ちた。
――それは、異世界に転生して一年。
王都ギルドの受付嬢として働き始めて三か月目のことだった。
「次の方どうぞー!」
朝から冒険者で賑わうギルドは、今日も騒がしい。
依頼を受ける者、報酬を受け取る者、酒場で騒ぐ者。
そんな中、突然ギルド内が静まり返った。
「……来たぞ。」
「うわ、今日は朝から最悪だ。」
「目ぇ合わせるなよ。」
「相変わらずひでぇ顔だな……。」
ざわざわと人々が道を空ける。
私は何事かと顔を上げた。
そして――息を呑んだ。
(えっ。)
(えっ、待って。)
(イケメンいるんだけど!?)
銀色の髪が陽の光を受けて輝く。
切れ長の瞳に、整った鼻筋。
百九十センチ近い長身に鍛え上げられた身体。
無駄な装飾のない黒い装備が、彼の端正な顔立ちをより際立たせている。
まるで絵画から飛び出してきた騎士様だった。
(ちょっと待って、えぐいえぐいえぐい。)
(芸能人どころじゃない。)
(CG?)
(存在していい顔なの!?)
なのに。
「世界一の醜男が来たぞ。」
「近くで見ると吐き気がする。」
「俺だったらあの顔で生きてられない。」
……え?
私は思わず隣の先輩受付嬢を見た。
「先輩。」
「なに?」
「あの人って……。」
「S級冒険者アシュレイ様よ。」
「イケメンですよね?」
先輩は凍りついた。
「……は?」
「え?」
「どこが?」
「全部ですけど?」
「…………。」
数秒の沈黙。
先輩は真顔で私の肩に手を置いた。
「疲れてるのよ。今日は早く帰って休みなさい。」
「違いますって!」
「あの顔が?」
「はい!」
「本気で?」
「めちゃくちゃタイプです!」
先輩は青ざめた。
「えぇ……。」
その反応の方が意味が分からない。
(いやいやいや。)
(あんなイケメン見たことないんだけど!?)
前世でもあんな人はいなかった。
俳優?
モデル?
アイドル?
そんな人たちを全部足して割らないくらい整っている。
なのに世界一の醜男?
(この世界、美醜感覚どうなってるの!?)
そのときだった。
アシュレイが受付へ歩いてきた。
「依頼の報酬だ。」
低く落ち着いた声。
(声までイケボ!?)
私は固まった。
「……おい。」
「は、はい!」
慌てて報酬を確認する。
S級討伐依頼。
魔物を単独討伐。
報酬、金貨百枚。
(強っ……。)
受付処理を終え、私は勢いよく顔を上げた。
「あ、あの!」
アシュレイが眉をひそめる。
「……なんだ。」
「好きです。」
ギルドが静まり返った。
しん。
誰一人として動かない。
私は構わず続けた。
「結婚してください!」
ガシャン!!
誰かがジョッキを落とした。
「……は?」
アシュレイが心底嫌そうな顔をする。
「なんの真似だ?罰ゲームか?」
「違います!」
「じゃあ賭け。」
「違います!」
「……。」
「一目惚れしました!」
「…………。」
アシュレイは私を数秒見つめると、小さく鼻で笑った。
「趣味が悪い。」
「え?」
「そういう遊びはよそでやれ。」
吐き捨てるように言って、そのまま踵を返す。
「ま、待ってください!」
「近寄るな。」
冷たい声だった。
でも。
(かっこいい……。)
歩く姿までかっこいい。
「リリア。」
「はい?」
先輩が肩を掴む。
「あなた……。」
「はい!」
「人生終わったわね。」
「え?」
「アシュレイ様にあんなこと言って、生きて帰れた人初めて見た。」
「そうなんですか?」
「普通は泣かされる。」
「えっ。」
でも本人は何もしてこなかった。
思ったより優しいじゃないか。
私は拳を握る。
「よし。」
「何がよ。」
「明日も頑張ります!」
「は?」
「振り向いてもらえるまで毎日告白します!」
「……。」
先輩は天井を仰いだ。
「神様。」
「はい!」
「この子、本当に頭がおかしいわ。」
翌日。
アシュレイは受付に来るなり、昨日と同じように書類を差し出した。
私は満面の笑みで迎える。
「おはようございます!」
「……。」
「今日も好きです!」
アシュレイは深いため息をついた。
「……まだ続けるのか。本当に気色悪い」
「もちろんです!」
「……面倒な女だ。」
去り際に見えた瞳は、不気味なまでに美しく,そして冷たかった。




