第92話 父王との再会 ― 静かな涙
扉を押し開けた瞬間、
冷たい空気がロザリンの頬を撫でた。
部屋は薄暗く、
窓のカーテンは半分閉じられたまま。
静寂。
まるで時間が止まっているようだった。
ロザリンは一歩、また一歩と部屋に足を踏み入れた。
(……お父様……)
ベッドの上に横たわる父王は、以前の威厳ある姿とはまるで違っていた。
痩せ細った腕。浅い呼吸。
額には冷たい汗。
そして──
胸のあたりには、淡く揺らぐ“魔力の乱れ”が漂っていた。
ロザリンは息を呑んだ。
(……これが……禁忌の魔術の……)
足が震えた。
後ろでロウが静かに囁く。
「……姫様。
私は外で見張っています。」
ロザリンは振り返らずに頷いた。
ロウは扉を閉め、気配を消した。
部屋にはロザリンと父王だけ。
ロザリンはベッドのそばに膝をつき、震える手で父王の手を取った。
冷たい。
けれど──
確かに、そこにある。
「……お父様……
ロザリンです……来ました……」
父王の指が、ほんのわずかに動いた。
ロザリンは息を呑む。
「……お父様……?」
父王の瞼が、ゆっくりと震えた。
そして──
かすれた声が漏れた。
「……ロ……ザ……リン……」
ロザリンの胸が崩れ落ちた。
涙が一気に溢れ、頬を伝う。
「……お父様……ごめんなさい……
私……何も知らなくて……
何もできなくて……」
父王は言葉を続けようとしたが、
喉が震え、声にならない。
ロザリンは慌てて手を握りしめた。
「無理に話さないで……
大丈夫……私はここにいます……
ずっと……」
父王の指が、弱々しくロザリンの手を握り返した。
その力は、
今にも消えてしまいそうなほど弱い。
でも──
確かに“伝えよう”としていた。
ロザリンは涙を拭い、父王の顔を見つめた。
「……お父様。
私……真実を知りたい。
お父様に何が起きたのか……
誰が……お父様をこんなにしたのか……」
父王の瞳がわずかに揺れた。
その揺れは、
恐れでも怒りでもなく──
娘への願い だった。
「……き……を……つ……け……」
ロザリンは息を呑んだ。
「……気をつけろ……
そう言っているの……?」
父王は微かに頷いた。
ロザリンの胸が締めつけられる。
(……お父様は……分かっている……
ヴァルガのことを……
でも……言えない……)
ロザリンは父王の手を両手で包み込み、
涙を落とした。
「……大丈夫。私……
あなたの娘として……真実を見ます。」
父王の瞼がゆっくり閉じた。
眠りに戻ったのだ。
ロザリンはしばらくその手を握り続け、
静かに涙を流した。
扉の前でロウは、気配を殺したまま立っていた。
中から聞こえる微かな嗚咽に、胸が痛む。
ロウは拳を握りしめた。
(……ヴァルガ……
あなたは……許されない……)




