第6話 月明かりの森で重なる時間
森の夜は静かだった。
月明かりが木々の隙間からこぼれ、淡い光が地面に模様を描いている。
ロザリンは、いつもの場所へ向かって歩いていた。
ロウと再会してから、
ふたりはこうして森で何度か会うようになっていた。
最初はぎこちなく、次は少しだけ言葉が増え、
少しづつロウの表情がほんのわずかに柔らかくなった。
そして今夜──
ロウはすでにそこにいた。
月明かりの下で、静かに立っている。
ロザリンが近づくと、
ロウは気づいて振り向いた。
「……姫様。今夜も来てくださったんですね」
その声は、初めて会ったときよりもずっと柔らかかった。
ロザリンは微笑む。
「ロウがいると思ったから」
ロウはわずかに目を伏せる。
「……僕も、姫様が来ると思っていました」
その言葉に、ロザリンの胸が温かくなる。
「ねえ、ロウ」
ロザリンはそっと隣に立った。
「こうして会うの、自然になったね。」
ロウは小さく頷いた。
「はい。……不思議です。
姫様と話すのが、こんなに自然になるなんて」
ロザリンはロウの横顔を見つめる。
「自然になったのは、ロウが心を開いてくれてるからだよ」
ロウは驚いたように目を見開いた。
「……僕が、心を……?」
「うん。前よりずっと話してくれるし、
表情も変わるようになった」
ロウはしばらく黙っていた。
けれど、その沈黙は拒絶ではなく、
“自分の変化を確かめている”沈黙だった。
「……姫様」
ロウはゆっくりと言葉を紡ぐ。
「僕は……誰かとこうして何度も会うなんて、
これまでありませんでした」
ロザリンは静かに聞いていた。
「でも……姫様とは……また会いたいと思ってしまう。
理由は……まだ分かりませんが」
ロザリンは微笑む。
「理由なんて、今はなくていいよ。
また会いたいって思ってくれるだけで、十分」
ロウはその言葉に、ほんのわずかに表情を緩めた。
「……姫様と話すと、胸が少し……軽くなります」
「それはね」
ロザリンはそっとロウの袖をつまむ。
「ロウが、私にだけ心を開き始めてるからだよ」
ロウはその手を見つめ、
ゆっくりと息を吸った。
「……姫様。
僕は……あなたと話す時間が、好きです」
ロザリンの心臓が跳ねた。
「私もだよ。ロウと話すの、好き」
月明かりがふたりを照らす。
森の静けさの中で、ふたりの距離はまたひとつ近づいた。
そしてロウは、“姫にだけ”心を開き始めていることを、
自分でもうっすらと自覚し始めていた。




