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brillante

夢にまで見た輝かしい新学期、のはずが…

今日から二年生。始業式、そしてクラス替えがあるのに、俺たちはいつも通り朝七時半から朝練に行く。

いつも朝練ギリギリの俺は、駅から学校までの徒歩二十分の道のりを今日も全力でダッシュしていた。校舎の入口付近には、クラス替えの発表の紙が掲示されていて、気になりすぎて早く登校してきたっぽい生徒たちで人だかりができているのが見える。

やばい。いつものことながら、もう時間がない。なんで今日くらい早く起きれなかったんだよ。昨晩だらだら夜更かししていた自分を今さら責める。でも、時間はなくても、クラスだけは絶対確認したい。

「悪りぃ、ちょっとどいて!!」

人を押しのけるようにして掲示板の前に入り込み、自分の名前を探す。たしか、真ん中寄りの少し後ろの方――

はしもと、はしもと……あった。F組。え、やった!また畠山と同じじゃん。長谷川ってやつが間にいるから、席が前後で続くわけではなさそうだけど、それでもなんか安心する。

……で、川瀬は?川瀬はどこだ?視線を走らせた次の瞬間、思わず二度見した。……?!え、川瀬もF組?ま、まじで?俺たち同じクラス?本当なら最高すぎるんだけど?!?!

しかもその少し上に、もうひとつ見覚えのある名前を見つける。加藤。……かおりんもF組?え、ちょっと待って。フルート、めっちゃ固まってないか?それだけ確認して、俺は四階の音楽室まで全力で階段を駆け上がった。いや、でもほんとに見間違えじゃないよな……?


「はーっ、……はーっ……」

ギリギリで音楽室に滑り込む。なんとか間に合った。音楽室は、もうクラス替えの話題で持ちきりだった。その中で、いきなり洸太先輩に声をかけられる。

「陽翔! お前、川瀬と同じクラスらしいじゃん! よかったな!」

「え、あっ、そうなんすよ! まじでびっくりですよね」

やっぱり見間違えじゃなかったんだ。周りもなぜか、

「え? まじ? 橋本と川瀬が同じクラスってすごくね?」

「しかも畠山もだろ?」

「かおりんもらしいよ?」

みたいな反応をしている。

……そうだ。その二人も同じだ。例の川瀬はというと、いつも通り何を考えているのかわからない顔。その平然とした顔が逆にちょっと腹立つ。こっちはこんなにテンション上がってるのに。

「川瀬ー! 俺ら同じクラスってすごくね?? まじで最高すぎるんだけど!!!」

思わず勢いのまま肩を組んで言うと、川瀬は少しだけ迷惑そうな顔をしたあと、いつもの調子で返した。

「……朝、送ったよ。同じクラスだって」

え、そうなの?慌ててスマホを開く。たしかに来てた。

『橋本、俺たちF組だって』

あ、ほんとだ。ちょうど俺が駅から全力でダッシュしてた頃に送ってきたらしい。全然気づかなかった。でも、いち早くそれを送ってきたってことは、川瀬も少なくとも“俺に伝えよう”とは思ったわけで。それだけで、ちょっと嬉しくなる。川瀬はそのまま、少しだけ視線を横にやって続けた。

「……それに、畠山も加藤も同じだから」

ああ、そうか。俺と川瀬だけじゃなくて、畠山とかおりんも一緒なんだ。しかも今の言い方、なんとなく川瀬が畠山のことにも少し気を使ったみたいに聞こえた。俺と川瀬だけが同じクラスで浮かれてるみたいにならないように、ちゃんと他の同期の名前も入れる感じ。そういうところ、ほんと川瀬らしい。そのタイミングで、後ろの方から元気な声が飛んできた。

「え、待って待って、やばくない?フルート二年、六人中四人F組だよね?!」

かおりんだ。すでに楽しそうに目を輝かせている。

「畠山ー!また同じクラスじゃん!」

「うん!よろしく。」

気づけば俺は、かおりんにも畠山にも、川瀬にもまとめて話しかけていた。同じクラスにこんなにフルートの同期がいるなんて、なんだかそれだけで心強い。二年生の始まりとしては、これだけでもかなりいいスタートを切れた気がする。

二年から三年に上がる時はクラス替えがない。ってことは、卒業までこいつらと同じクラスってことだ。……こんなの、絶対楽しいに決まってる。


朝練と始業式が終わって、いよいよ新しいクラスで初めてのホームルーム。俺たちF組の担任は、去年教師一年目でこの学校に赴任してきて、A組の担任をしていた国語の竹内華音だった。小柄で、若くて、ちょっと可愛い感じの先生。男子の一部からは、勝手に“のんちゃん”とか呼ばれていて、そこそこ人気があるイメージだ。

まあ、俺は去年まで国語は別の先生だったから、正直あんまりよく知らない。でも、ぱっと見はハキハキしてるし、変に厳しくて面倒そうな感じもしない。そう考えると、わりと当たりなのかもしれない。

教室の空気はまだ少しそわそわしていて、みんな新しい席やメンバーをなんとなく気にしている。そんな中で、俺はとりあえず休み時間に母さんへメッセージを送っておいた。

『F組だったー。川瀬と一緒!』

送った瞬間、すぐ既読がつく。相変わらず早い。

『あら、仲良い子いてよかったじゃない! 担任の先生は?』

やっぱりそこも気になるのか。俺は短く返す。

『去年A組だった国語の竹内』

すぐにまた返ってくる。

『あの一年目だった若い先生ね。来年も先生一緒でしょ? 進路のこととか、大丈夫なのかしら。少し心配』

その後に、「しんぱい……」って書かれたキャラクターのスタンプまで送られてきた。……進路ねぇ。思わず小さくため息をつく。ほんと母さんは心配性だ。まだ二年の最初だし、そんなのこれからだろ、と思う。まあ、気にしてくれてるのはわかるけど。

『まだ先の話だから大丈夫』

そう返してスマホをしまう。

教室を見渡す。新しい担任。新しいクラス。でもその中に好きなやつや、見慣れた顔がいる。それだけで、なんかもう、これからの二年間が保障されたようなもんだろ。


クラスの座席は出席番号順だった。川瀬は廊下から二列目の、前から二番目。俺は窓側から二列目の、後ろから三番目。ちなみに、俺のふたつ後ろが畠山だ。……川瀬とは、全然近くない。まあ、それはしょうがない。出席番号順なんだからどうしようもないし、同じクラスになれただけでも十分ありがたい。……とは思うけど、やっぱりちょっとだけ残念だ。

しかも二年からは文系と理系で授業が分かれることも多い。そうなると席替えもほとんどないらしい。洸太先輩が言っていた。ちょっとつまらない。いや、かなりつまらない。でもまあ、同じ空間にいるだけでもいいか、と無理やり納得する。ホームルームが終わると、クラス替え直後のふわふわした祭りみたいな空気は強制的に終わって、いきなり現代文の授業が始まった。

へー。竹内の授業、意外と面白いかもしれない。もともと現代文はそんなに嫌いじゃないけど、思ったよりテンポがいいし、説明もわかりやすい。でも、授業が始まってしばらくすると、どうしても視線が川瀬の方へ向いてしまう。右斜め後ろから見る形になるから、距離は遠い。でも、そのぶん変に目立たずに見られる。たぶん。川瀬は今日も朝練一番乗りで来てるくせに、全然眠そうな素振りを見せない。あいつ、ほんとどういう体力してるんだろう。俺なんて今すでにちょっと眠いのに。その時、竹内が名前を呼んだ。

「問五。今日は七日だからー、……七番、川瀬!」

川瀬が顔を上げる。

「……③」

いや、声ちっさーーーー。思わず斜め後ろの席でニヤけそうになる。可愛すぎんだろ。

「川瀬、合ってるからもう少し自信持って大きい声出して!」

「……はい」

その返事もやっぱり小さい。……あー、正直俺も同じことは思ったけど、こういうふうにみんなの前で言われるのは川瀬、あんまり好きじゃなさそうだなと思う。そんなことを考えながら、ついまたぼんやり川瀬を見てしまう。真面目な顔で板書を写してるだけなのに、なんであんなに見てしまうんだろう。


ぼーっとしている間に授業は進んでいく。

「じゃあ、隣近所の人と話し合ってください!」

教室の空気が少しだけ緩む。俺もとりあえず、隣と前の席のやつらと適当に話し始める。でも、どうしても気になって川瀬の方に目をやる。

川瀬の後ろの席――たしか、菊池妃茉莉。だったか。そいつが川瀬の肩を軽くトントンと叩いて、川瀬が振り向く。

……いや、隣のやつと話せばよくね?なんでわざわざ前向いてる川瀬に話しかけるんだよ、と一瞬思う。でも、まあ、話し合いの時間なんだから当たり前だ。クラスメイトなんだし、普通に話すだろ。そんなの。……そんなの、わかってる。わかってるけど。思っていたより、川瀬はその女と柔らかい表情で話していた。しかも、なんか普通に笑い合っている。

……ふーん。ちょっと、つまらない。なんかやだ。


休み時間。菊池が席を立ったタイミングを見計らって、俺はできるだけさりげない感じを装って川瀬に話しかけた。

「授業中、すげぇ盛り上がってたな。お前らのとこ」

川瀬がこっちを見る。

「……なんの話?」

とぼけんなよ、と思う。でもそのまま言うのも悔しくて、少し遠回しに続ける。

「いや、なんか後ろのやつと仲良さそーだったじゃん」

川瀬は少しだけ間を置いてから、

「……あー、前も同じクラスだったから」

と、あっさり言った。へーーー。あっ、そう。

そうなのか。なるほど、それであんな感じなのか。……って、一応納得はできる。できるけど、なんかモヤモヤする。それを悟られないように、できるだけ軽い感じで返す。

「なるほどねー。だからそんな感じなのか」

すると川瀬が、少しだけ怪訝そうな顔をした。

「……なにそれ」

「なんでもねぇよ」

そう言ってごまかす。でも、内心は全然“なんでも”じゃない。あー、なんか腹立つ。俺にだって、あんな笑顔、滅多に見せねぇくせに。

……いや、別に。笑顔を独占したいとか、そういうのじゃない。いや、たぶん、半分くらいはそうだけど。なんか少しだけ、妬ける。本当に、少しだけ。

……いや、少しじゃないかもしれない。


同じクラスになれたってあんなに浮かれてたのに、こういうのを見ただけで簡単に気分が揺れる自分が、ちょっと面倒くさい。面倒くさいし、正直、かっこ悪い。

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