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第84話 相楽君の決意


月曜日の昼休み、私は会社にいなかった相楽(さがら)君にLINEを送った。

彼は今日、クライアントに出向いているから直帰するはずだ。


≪今日って、夜時間作れたりしますか≫


すぐに既読がつき、返信が来る。


≪いいよ≫


どうしても今日、私は彼に伝えなければならないことがあった。




≪場所だけど…任せてもらっていい?後で住所送る≫

≪了解≫


仕事が終わった後、静かで、会社の人には絶対見つからない場所。

相楽君が直帰だって考えたら渋谷か、それとも家の近くがいいかな……。


私はすぐにお店を予約して、その地図を相楽君に送った。



現場でのヒアリングをしている相楽君とは、お店で待ち合わせだ。


彼の自宅にほど近い、目黒にある落ち着いて話ができそうな隠れ家的バル。

私はそこへ、タクシーで向かった。


都会の喧騒から一歩足を踏み入れた、地下へと続く階段。


その先にある小さな扉を開けると、そこはまるで別世界。

店内を優しく包む暖色系の照明。


壁一面に並べられたワインボトルが、鈍い光を反射してきらめいている。

肩肘張らないカジュアルな雰囲気でありながら、洗練された大人の空間だ。


「いらっしゃいませ!」


元気で明るい声が迎えてくれる。

テーブル席に案内されて座ると、目の前に置かれた黒板にはその日の前菜や肉料理がずらりと書かれていた。


どれもこれも、その日に仕入れた新鮮な食材を使った、こだわりの一品ばかり。


シェフが腕を振るうオープンキッチンからは、美味しそうな匂いが漂ってくる。


待っていると、相楽君はすぐにやって来た。


「ごめん…待った?」


「ううん。今来たところ」


グラスに注がれた赤ワインを傾けながら、まずは今日の仕事のこと、他愛もない日常のことを語り合う。


他のお客さんの話し声やキッチンの活気ある音が、かえって二人の会話を邪魔しない。

周りを気にせず、会話が続けられる。


食事が終盤に差し掛かった頃、私はグラスを両手で包み込むようにして静かに口を開いた。


「…あのね、今日、相楽君に話したいことがあるって、伝えてたでしょ?」


凱斗(かいと)と約束したんだ。

なんとなくだけど、必要以上に凱斗が相楽君を気にしているのがわかる。


だから…ちゃんと気持ちを伝えて、はっきりさせないと…


相楽君は、真剣な私の目を見て小さく頷いた。


「あ…あのね…この間の…返事なんだけど…」


「うん」


「私…」


「わかってる」


「え?」


胡蝶(こちょう)さんの事が、好きだって言うんだろ…」


「……」


「俺は、ずっと桜庭(さくらば)を見て来たんだから…お前が誰を好きでいるかぐらい、ちゃんとわかってるよ」


「……」


「俺はそんな事が聞きたくて、気持ちを伝えたわけじゃないから…」


「えっ…」


「…諦めたくないだけなんだ」


「相楽君…」


「カッコ悪いだろ。俺もそう思うよ。だけど…好きな気持ちは理屈なんかじゃないし」


「……」


「お前の事、好きでいても…いいかなって事が聞きたい」


相楽君の目が、真っ直ぐに私を捕らえた。

胸の奥に、痛いほど真剣な想いが流れ込んでくる。


どうしよう…なんて答えればいいんだろう。


ずっとそばで支えてきてくれて、私が辛い時ずっと励ましてくれた相楽君。

≪好きでいないでください≫なんて、言えるはずないし…



凱斗…私なんて言えばいいの…


「あ…え?」


「もし不安な事や、困ったことがあったら…俺にいつでも相談して?」


「あ…ありがとう…」


じゃないし!

どうしよう…こんな言い方されたら、返事が思い浮かばないよ…


≪何言ってんだよ花凛(かりん)!ちゃんとはっきり言えよ!≫


あぁ…凱斗が頭の中で、私に怒ってる…


「あ…相楽君…」


「ん?」


「私ね…凱斗とやり直すんだよ?」


「うん」


「それにロンドンにも行くの」


「わかってるよ」


「でも…それって…」


「だから…待つって事」


「待つ?」


「俺は、桜庭がただ好きなだけ」


「……」


「困ってたら助けてやりたいし、不安だったら支えてやりたい。ただそれだけ…」


「……」


「気が変わったら。いつでも、俺の所においで…」


「……」


だ…ダメだ…

嫌いじゃないから、余計に強く突っぱねられない。


相楽君、急にどうしちゃったんだろ…


「もしかして、俺が迷惑?」


「えっ?!あ、いや!そんな事ない」


しまった…まただ…

これが嫌いだったり、迷惑だったりしたら簡単なのかもだけど…

頼れる同期で大切な仲間なんだもん。


≪は?何言ってんだよ!!迷惑だって言えよ!≫


凱斗…それは人として、無理。

泣いちゃいそうだ…


「俺…おかしいかな?」


「……」


「でも今は…自分の気持ちうやむやにするとか、出来そうにないんだ…」


「……」


「胡蝶さんに言っておいて。桜庭の事、諦めないからって」


「……」


い…言えるはずない…



ど…どうしよう…


凱斗の事は、ちゃんと好きだって伝えた。

凱斗と、よりを戻すことも伝えた。


それに…相楽君は二年もアメリカに行くんだもん。

付き合ってもないし…二年も離れてたら気も変わるわよね??


ううん、この一年の間にも…いや、一か月の間にでも変わるかもしれない。


「あ…それから…俺、阿東さんににロンドンに行くつもりないかって打診されてて」


「えっ??」


「なんか…アサインメントでロンドンオフィスに期間限定で赴任しないかって。プロジェクトベースでの海外勤務だから、半年の短期なんだけど…」


「…でも…相楽君ハーバード…」


「日本企業のロンドン進出を支援するプロジェクトなんだ。

だから阿東さんも、俺がいいならその後一年LSEでもいいかなって…」


「……」


「まぁ、IELTS受け直さなきゃなんだけど…あれ結果すぐ出るし」


「……い…いつから…ロンドンへ…」


「俺は、決まれば、半年後かな?」



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