第47話 紳士な朔ちゃん
「本日はお越しいただきありがとうございましたー!」
夜も更け最後に幹事の声が響き、拍手と歓声で二次会はお開きとなった。
みんなが名残惜しそうに、次々とグラスを置く。
大原先輩の幸せそうな笑顔に送り出されて、私も胸がほんわり幸せ気分だ。
――結婚。
その言葉に、自然と凱斗の顔が頭に浮かんだ。
あんな風に祝福されて、みんなに見守られて結婚できたら…幸せなんだろうな。
そんな事をぼんやりと考える。
「花凛、忘れ物ない?」
横にいた朔ちゃんが、声をかけてくれた。
黒のスーツにグレーのシャツ姿も映えていて、端から見たらまるでモデルみたいだ。
だけど気さくに笑うそのかわいい笑顔に、周りの視線が集まるのも無理はない。
今日も何人かの女の子に、連絡先を聞かれてた。
二人で会場の脇で、荷物を確認しあってたら美稀たちが側に来て話しかけて来た。
「おふたりさーん、またねー!」
そう言いながらふらついた美稀の腕を、朔ちゃんが咄嗟に掴む。
「美稀、大丈夫か?ちょっと飲み過ぎじゃない?」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ!」
「気を付けて帰れよ」
心配そうな朔ちゃんの言葉を、彼女は全く聞いてない。
「はぁ…結婚ていいね…」
赤い顔でため息をつく美稀に、朔ちゃんは呆れて笑った。
「聞いてるのかよ…」
「次は、あんたたちの番かなぁーー!?」
美稀が突然大声で叫ぶから、周りの視線が一斉にこっちに注がれる。
「え、ちょっと…あの二人って、もしかして付き合ってる?」
「ほら、やっぱりそうだよな!すごいお似合いだもん」
「前から仲よかったもん…やっぱりねぇ」
後ろで小声が飛び交い、笑い混じりのざわめきが起こる。
私は思わず否定しかけた。
その時朔ちゃんが、さりげなく私の背中に手を添え、にこやかに「じゃあ失礼します」と頭を下げる。
「え?あ…朔ちゃん…」
「花凛行こう」
その立ち振る舞いは余裕があって、大人の男らしいスマートさを感じさせた。
後ろでは、ゼミの仲間が冷やかしながら手を振っている。
大原先輩ご夫妻まで!
心の中では“違うって”弁解しながらも、否定するタイミングを完全に逃してしまった。
私は朔ちゃんと並んで、みんなに誤解されたまま会場を後にした。
夜風が頬を撫で、さっきまでの熱気が少しずつ冷めていく。
朔ちゃんは、そんな私の手荷物をさりげなく自分の手に持ってくれた。
「朔ちゃん…さっきの…」
「え?」
「みんなに勘違いされてない?」
「だろうね」
「えっ?!だろうねって…」
「別に。あんなところで必死で否定したって、照れ隠しだと思われるだけだよ」
「……」
「それに、みんな次いつ会うかわかんないし。勝手に誤解させとけば?」
「…ごめんね…」
「何で花凛、謝るの?」
朔ちゃんは優しく微笑んで、小さく首を傾げた。
それに私も、同じように微笑んで小さく首を傾げる。
「はぁ…大原先輩かわいかったなぁ」
「だね」
「朔ちゃん、先輩の旦那さん知ってるひと?」
「うん。中等部から一緒だったからね。確か大学からアメフト部だったかな」
「アメフト…?あんなに細いのに?」
その時、湊君の顔が浮かんで思わす笑いが込み上げる。
「足が速くて有名だったんだ。それに卒業してからやってないんだと思う」
「ふぅん…」
じゃあ、みんなが筋トレしてるわけじゃないんだ。
「あいつ、いたね」
「あいつ?」
朔ちゃんは、聞き返した私に一瞬言葉を詰まらせた。
なにか言いかけて、それを飲み込み話題を変える。
「花凛ここからタクシー?今日凱斗来る?」
「凱斗、今日VANTHÉORのイベントパーティだって」
「そうだった」
思い出したかのように頷いて、持ってくれていた紙袋を私に手渡した。
朔ちゃんはこういうところが、昔からとても紳士的だ。
荷物はすぐ持ってくれるし、ドアも先に開けてくれる。
まぁ、それは凱斗も同じだけど…
「はいちゃんとこれ持って?気を付けて帰ってね。帰ったらLINEして?」
「なんだか、小さい子みたいだなー」
「花凛はそれっくらいあぶなっかしいから」
そう言って笑った朔ちゃんに、私もつられて笑顔になった。
その時私のスマホが、小さく震える。
「誰だろ?名前無いな…」
「……」
「この番号…」
「きっと詐欺デン!」
朔ちゃんはそう言って、私のスマホの画面を掌で伏せた。
「詐欺?」
「花凛、名前無い番号は出ちゃダメだよ…」
「でも、知ってる人かも?」
「知ってる人は登録してるでしょ」
「でも業者とか…」
「花凛のお給料、タイに送金されちゃうかもね」
「え?!それやだ!」
「じゃ、やっぱり出ない方がいいよ…」
朔ちゃんは、途中真顔になって私にそう言った。
それから車道にタクシーを止めてくれて、私は彼に見送られ自分の家に戻る。
その時また、さっきの番号から着信が来た。
「また詐欺かな?」
そう思ってよく見ればこの番号…
見覚えがある。
末尾…0420って…




