第44話 嬉しすぎるヤキモチ
「私…凱斗の世界は、それが普通なんだろうと理解しようとしてた」
「……」
「詮索することで、めんどくさい女って思われそうで怖かったの。だから言えなかった…」
「花凛…」
「でも…もう無理。ずっと見て見ぬふりなんてできない…。私、凱斗とはもう別れようと思う…」
「…別れる?」
「結局…自分の気持ちを偽るなんて無理なの。苦しい気持ちを隠してそばに居るなんてできない…」
「……」
「もう凱斗の中のその他大勢に、私を含めないで…」
花凛の目は真剣だ―――
大きな目に、今にも零れ落ちそうな涙がみるみる溢れて行く。
きゅっと結んだ唇が、彼女の決意を物語っていた。
「いや…でもお前なんか誤解…」
「…私ホントは、凱斗が思ってるような都合のいい子じゃない。めんどくさいやつなの」
「……」
「凱斗が他の人と噂になれば、すっごく嫌な気持ちにもなるし、これ誰?って聞きたくもなる。星野さんの事は、私ほんとやだった!」
「…えっ……」
「でも、そんなの好きなら当たり前だよね?名前聞くだけでウザい事なの?」
いや…なんだこれ…
神崎、花凛落ち込んでるって言ってたけど…
今、俺の事めっちゃ怒ってない??
こんな事…今まで一回もなかったよな??
「俺…別にウザがってないけど…」
「嘘!私の事ウザいって言ってた…」
「いつ!?」
「それに、凱斗に怪しいメッセージ来てるのも知ってるんだから…」
「……」
「画面に着信メッセージが見えたもん…ビキニの女の人が、また会いたいって!」
「そんなの…いつの話だよ??」
ビキニの女…??
「三か月くらい前…」
「……」
「凱斗の香水の匂いがなんとかって…」
「……」
それって…まさか…
「あれ見てから、私、ずっと凱斗に不信感なの!!」
「…もしかして、それで…」
「言いたくなかったけど…もうやなんだもん!凱斗のスマホに朝、星野さんが寝起きででて…」
なんか…ごめん花凛…真剣なのに悪いんだけど…
俺もう何にも耳に入ってこない…
これって…
もしかしてそれって、梓に嫉妬してる?
嘘だろ…
梓の事、めっちゃ怒ってる!!
思わず目の前にいる花凛を、俺は勢いよく抱きしめた。
「花凛!!」
「ちょっ…何っ!」
あぁ…めっちゃ機嫌悪いけど、これって…
「やばっ…」
「まだ話し終わってないんだけど!?」
めっちゃうれしい!!
「はぁーー・・・」
「やだ!離して!大嫌いっ!!」
「大嫌いって、大好きって事だよな!?この嘘つきめ!」
「えっ…」
「なんだよー。早く言ってくれよー。はぁ…心配して損した俺!」
「……」
「花凛が言ってるビキニの女って、もしかしてこれだろ??」
俺は「高橋誠二」のメッセージを見せる。
いつもこんな口調でメッセージ送ってくる経済紙の編集長だ。
―――ったく…
いつかはこんな事が起きるんじゃないかと、思ってたんだよ!
毎回毎回♡の絵文字でさ…絶対あの編集長そっち系だろ。
アイコンもよく見たら、女のビキニ姿って言うけど髭つけてんじゃん!
「これ、男なんだよ」
花凛それ見て、絶句してるし!
「それから…香水はこっちの40代の男の編集長な」
あっちもこっちもややこしい奴らばっかだよ!!
「なんだ…なんか…なんて言っていいの私…凱斗の事疑って…」
「何で?俺、花凛のヤキモチめっちゃうれしいんだけど?!花凛~♡」
俺は思わず、目の前の花凛をもう一度抱きしめる。
あぁーーー!!マジで良かった!!
「ヤキモチが…嬉しい?」
「はー。俺に何にも言わないから、ずっと関心ないんだと思ってた」
「聞かれるの…嫌じゃないの?」
「…そんなの言ったら、俺どうなるんだよ!」
「……」
「俺、お前に文句言われるより、男が寄ってくる方がやだし!全部これから無視しろよ!」
「……」
「でもマジごめんな…俺気を付けてはいるんだけど、SNSとかで…ずっと誤解してないか気にしてたんだ…」
「凱斗……」
「なんか俺、想像の斜め上行くくらいモテるんだよなー。やっぱみんな金目当てなのかな?」
そう冗談で言ったら、花凛は俺をじっと見つめた。
「私…なんか凱斗の事よくわかってなかったかも…」
「今わかったらつまんないじゃん。これからもっと知らなきゃいけないのに」
「……」
「俺も花凛の事、全然わかってなかったし…おあいこだな。な?」
そう言って、花凛の顔を覗き込んだら、彼女は俯いてぽろぽろと涙をこぼした。
「花凛?」
「ごめんなさい…」
なんか…ホント悪かったな…
ずっと浮かない顔をしてたのは知ってた。
だけど俺の事で、そんなに悩ませてたなんて…
「…お前が誤解して当然だよ…ニュースにもなってるし…」
「……」
「SNSの事も、少し控えてくれって広報にも頼んだんだ。俺も気になるから…」
「……」
「それと俺、今回アメリカで梓に告られたんだ…」
これは、言わなきゃいけないって…
俺はこの時そう思った。




