第39話 同期三人の飲み会
私と相楽君と桜庭湊君で、飲みに行くなんていつぶりだろう。
同期はざっと50人いたけど、そのうちの20人は既にやめてしまった。
やめたと言ってもネガティブな物じゃなく、次のステップへ進むためのキャリア戦略がほとんど。
――――私達にとって、三年目は一つの節目となるからだ。
私達三人は、渋谷の博多地鶏のお店にいくことにした。
湊君が筋トレにハマっていて、鶏肉しか食べたくないと言う。
その代わり、彼がお店を予約してくれていた。
そこは、和モダンの落ち着いた雰囲気の店内で、個室も完備されているから周りを気にせずゆっくり話せる。
テーブルを挟んで、二人の向かいに私は腰を下ろした。
湊君のお薦めは“胸肉の炭火焼き”らしい。
「お前、更に筋肉デカくなってきたな?!」
相楽君が、湊君の二の腕をシャツの上から、羨ましそうに触ってる。
それに彼は、得意顔だ。
「すごいだろ?お前達も、これ飲めよ」
「なんだこれ?」
「今朝ジムでもらったんだ。新しいプロティンの試供品。三つ貰ったから、お前らにもやるよ。前のもめっちゃいいからさ!」
そう言って湊君が、私と相楽君にプロティンの試供品を一個ずつくれた。
「桜庭何頼む?」
そう言って相楽君が、メニューをこっち側に向けた時、隣の湊君が返事をする。
「俺は、地鶏胸肉の炭火焼き」
「お前じゃないって…」
「紛らわしいな。わかりにくいから今日は”花凛、湊様”で行こうぜ」
そう言って鼻を膨らませた湊君。私達は同じ「桜庭」の苗字だ。
「湊様ってなんだよ」
相楽君も呆れて笑ってる。
「あ、俺胸肉は皮なしな」
「お前、こだわるなー」
相楽君、昨日と違って今日はすごい笑顔だ。
「わたし、ポテトサラダ頼んでいい?」
「いいよ…」
「ダメだ!ジャガイモは糖質が高いんだよ!花凛、じゃこサラダにしろよ!」
湊君が、私にダメだし…
「じゃあ、じゃこサラダ…」
「いいなりか」そう言って笑った相楽君は「ポテサラでいいよ」って。
それから三人でメニューを決めて、店員さんに相楽君が注文してくれた。
「えっと…地鶏胸肉の炭火焼きで、皮なし。あと、ポテトサラダ…ブロッコリーのからし和えそれから…炙りレバー串三本と、砂肝串塩で三本…とりあえずそれに生三つで」
「ダメ!俺ノンアル!」
「はぁ??」
「お前知らないのかよ?アルコール飲んだら筋肉が減るんだぞ?!」
「そんなの、知らねーよ!」
「すみません、生二つとノンアルビール」
「じゃあ…それで」
湊君は、ホントに面白い人だ。
相楽君も、話をするたびに笑ってる。
身体も大きくて、今筋トレにハマってるらしく、出勤前に毎日ジムに通ってるらしい。
相楽君とは大学が同じで、アメフト部出身のすっごく元気な人だ。
でも…
「あれ?湊君、今回相楽君とチーム一緒だったよね?」
「あぁ、そうだよ」
「じゃあ、昨日のデーター破損って…」
私がそう言いかけたら彼が、凄く気まずいような顔をして相楽君を見た。
「花凛、それ忘れてくれよ…マジ…俺が悪かった…許してくれ…」
「え?どういう事??」
「あれ、元はと言えば俺なんだよ。相楽が仕上げて、俺が持ってたんだデーター。一応最終確認してたら破損しちゃって!」
「いや、あれは俺も責任あったよ。俺のデーターなんで消えてたんだろ…」
「いや、自分から”任せろ”って言っといてあんなことに…。相楽に泣きついたら、尻拭いしてくれてさ!家で待ってたら…待ってたらさ…更に困った事に…」
「……」
「……」
「俺、爆睡しちゃったんだ!!」
そう言って、お腹を抱えて笑ってる湊君。
何を言うのかと思って、聞き入ってたら…
一人でウケてる。
それにつられて、相楽君も笑ってる。
これなぜか、湊君だと笑えるから不思議だ。
人柄なんだろうな…
明るくて、本当に太陽のような人だ。
「昨日桜庭に連絡した後、”何とかなりそうだ”って、湊に何度も連絡したんだ。だけど、全然連絡つかなくて…焦ったよ…」
「でも俺、夢の中まで仕事してたんだぜ!」
「阿東さんや、品田さんに連絡したりこっちは大変だったんだよ…おかげでヘロヘロだった…」
「相楽、初台の阿東さんちも、行ってくれたんだ」
「えっ⁈初台まで!?」
「桜庭に連絡したの、その後なんだ…資料足りなくて…」
「ごめんな花凛。手伝ってくれたんだろ?!今日ここおごるから俺!」
それに相楽君は、苦笑いしてる。
私には昨日“湊君のせい”だなんて、一言も言わなかった。
まぁ、相楽くんはそう言う人だ。
いちいち言い訳もしないし、他責もしない。
私の失敗も、庇うような人だ…
昨日元気がなかったのは、疲れてたのか。
「ふぅん…じゃあミニもつ鍋も頼んじゃお」
「おう!それならいいぞ!ビタミンB群や、アミノ酸が筋肉の合成…」
「湊、もうわかったから!落ち着け!」
相楽君が、隣の湊君の肩を両手で揉みながら笑ってる。
沢山食べて、沢山話して…
―――その時湊君が、相楽君に思わぬことを言い出す。
「なぁ相楽、お前今度紹介行かね?」
「紹介?」
「今、彼女いないんだろ?」
そう彼が訪ねた時、相楽君がちらっと私を見た。
「え…あぁ…今はな」
「頼むよぉ…俺の彼女の友達なんだけどさ…元アメフトのマネージャーなんだ…」
「ふぅん…」
「東大じゃなきゃ嫌だって言って…うるせーんだよ…」
「他に誰か、いないのかよ」
「俺はお前がいいんだ!うまく行ったらダブルデートしようぜ」
「いや…俺はいいよ。他当たって?」
「なんでだよぉー!!」
湊君は、相楽君に抱きついて懇願してる。
「そんな暇あったら、ちゃんと仕事してくれよな」
「……」
「あ、グラス空いてる…お前ノンアルだろ?花凛は?」
その時、相楽君に「花凛」って呼ばれてちょっとドキッとした。
湊君と一緒の時はたまに「花凛」って呼ぶ相楽君…
そう言えば…凱斗が「桜庭」から「花凛」って呼ぶようになったのはいつからだった?




