第35話 許せない出来事
「え?いや‥‥ちょっと待って、俺?」
「私なら、そんな風に凱斗の事悩ませたりしない…仕事の事だって寄り添える絶対的な自信があるの」
「あ…別に俺、自分の女に“仕事に寄り添って欲しい”なんて、思ってないから…」
「でも他も何にも寄り添えていない…花凛ちゃん凄く自分勝手だと思わない?」
「他もって、梓何にも知らないだろ…」
「だって、この間も約束すっぽかされたんでしょ?」
「あれは…花凛が体調が悪くなったから…」
「ほんとにそうなのかしら」
「……」
「見てたらわかるのよ!追いかけてるのは凱斗ばっかりじゃん!」
「…そんな事!!言われなくてもわかってんだよ!!」
私の最後の言葉に、凱斗は咄嗟に声を荒げた。
グラスを勢いよくテーブルに置くと、感情を抑え込むように大きく息を吐き出し、苛立たしげに前髪をかき上げる。
そして私から視線を外し、怒りを堪えているかのような低い声で彼は言った。
「お前は優秀だし、俺だって頼りにしてる。それは認めるよ」
「……」
「だから…もうこれ以上は言うな」
「でも…」
「梓とは、いい仕事仲間の関係でいたいんだ」
「……」
「それに…花凛の事は俺が悪い。お前に話したのが間違いだったわ。悩んでたからってそんなの会社のやつに言う事じゃないよな…」
「……」
「俺帰ったら、ちゃんと自分で解決するし。花凛に聞けば済む話だから…」
「でも…もし花凛ちゃんが、もう凱斗に気が無かったら…?」
「それでもいい。俺が追いかけるから」ーーーー
そう言うと、彼は立ち上がって自分の部屋へ帰っていった。
私は、その後ろ姿を呆然と見つめる。
「何よ…」
ふざけないで…!!
二言目には花凛花凛って…
もっと、他に言い方があるでしょ?!
男の人に、あんな酷い言い方されたの初めてだ…
いつもは優しく笑ってくれて…
年下だけど、頼りになって…
彼女の事が揺らげば、きっと私に靡くほど、気持ちが近くにあると思ってた。
なのに…馬鹿にしてるわ!胡蝶凱斗!!
その時ふと、彼がスマホをテーブルに忘れている事に気づく。
すぐに取りに来るだろうと思っていたが、10分経っても取りに来ない。
私はそれを手に取り、ベッドへもぐりこんだ。
そのスマホはロックがかけてあり、中を見る事は出来ない。
それから私は凱斗のスマホを眺めながら、時差とワインで眠りに堕ちてしまった。
――――朝の5時過ぎ…
耳元で鳴る”LINE電話呼び出し”に起こされ、無意識にそれに出た。
すぐに切れたけど、私はそれで目が覚めてしまう。
よく見れば、それは凱斗のスマホだ。
「え……どうしよう…これ私のじゃない…」
誰からの電話だろう…なんで昨日、すぐ持って行かなかったんだろう。
画面に出ているのは、着信アリの表示だけ。
相手が気になってスマホを眺めながら、思い浮かぶIDを何度か押してみる。
凱斗の誕生日の配列…
何度か試したけど違うようだ。
創業日…
それも違う。
どうしよう…会社からの緊急だったら…
出国前、“何かトラブルがあれば時差関係なく連絡して来い”って、凱斗社員に話してた。
その時、以前凱斗が佐田さんと話してたことを思い出す。
≪花凛の誕生日、にゃんにゃんにゃんなんだ≫
≪なんだそれ。猫の日かなんか?≫
≪そう。2月22日でにゃんにゃんにゃん。誕生日もかわいいだろ≫
≪呆れるな…≫
って…222の配列…0222.2202.2022…
生まれ年下二桁と誕生日で開いた!
LINE通話…桜庭花凛…から……
私は急いで履歴を消して、そのままテーブルの上に置きに行った。
凱斗が忘れたスマホを、気が付いてなかったかのように装ってベッドに戻る。
心がざわついて、落ち着かない…
どうしよう…
花凛ちゃんが、朝女が出たって…凱斗に話したら…
私は、ドキドキしながらベッドの中で考えを巡らせた。
…でも…よく考えたら、それで揉めたらいいんだわ…
私にあんな態度取っておいて…二人も別れればいいのよ。
凱斗…私、絶対ゆるさないから!!




