第27話 親友璃子との飲み会
凱斗に何も話せないまま、彼はアメリカに出発してしまった。
スケジュールが送られてきて、それには返事をする。
だけどプレゼン前で深夜まで仕事をしていたため、他のLINEには返信ができなかった。
最後に来たメッセージも、『花凛って、今俺と付き合ってる事どう思ってる?』
って…簡単に返せるものじゃなかったからだ。
…なんでそんな事、聞くんだろ…。
文字にされると意味深で、その一言に込められた次のパターンを想像する。
――お前仕事忙しいし、もう別れようか?
――俺は最近、お前の事ウザいんだよね。
――俺は、なんか他の女といる方が楽しんだよな。
って…
「俺は楽しいよ」っていう自分の望む言葉が、その先に想像できない…
もしそうなら、”私も”ってすぐに言えるのに――――
凱斗が出発した次の日の木曜日の夜。
最強に忙しかったプロジェクトが丁度ひと段落つき、私は親友の神崎璃子と飲みに行くことにした。
そこは渋谷駅から徒歩3分の場所にある、海外の雰囲気が漂うおしゃれなダイニングバー。
ロフト席やテラス席があり、リラックスして過ごせる女子会に人気の店だ。
「花凛!こっちこっち!」
先に来ていた璃子は、店員さんに案内された私を見て笑顔で右手を振った。
「璃子ぉ。久しぶり♡」
一か月ぶりの再会を、まずはお互いハグで喜び合う。
「花凛、何にする?」
「もう、決めたの?」
「うん、私はなみなみスパークリング」
「おっ、行くね」
「花凛は?」
「私は、モヒートかな?」
「よし。先に飲み物頼んじゃお!」
こうして向かい合わせに座った私達は、飲み物を注文し再会を祝して乾杯。
「えっと、エビとアボカドのコブサラダと…ヤンニョムチキンと、アヒージョでいい?」
「あ、ラクレットチーズポテトも」
「わかった、それね」
璃子は私のリクエストに、くすっと笑って店員さんを呼んだ。
相変わらず楽しそうな璃子は、ホント一緒にいて心が和む。
「あれからアオ君と仲直りした?」
「あー、まぁ一応ね…。あいつ掃除もしてくれるし、ご飯とか作ってくれて便利だし」
「そうなの?」
璃子は池尻の3LDKの実家で、一人暮らしをしていた。
ご両親が、海外赴任したからだ。
そこにアオくんが、転がり込んできた。
「男が料理なんて、今時珍しくないでしょ。凱斗だって上手じゃない?料理」
「あぁ…」
「何?その反応…まさか、花凛まだ仲直りしてないの??」
「仲直りも何も…喧嘩もしてないもん…」
「いやぁ…もうさ、何なのあいつ!花凛の事ウザいとか!」
「まぁ…私も悪いとこあるのかも」
「はぁ??花凛は悪くないよ!ラブ~♡」
「璃子ぉ~♡」
「お前もウザいんだ!って言ってなりなよ」
「そんな事言えないよぉ…うざくないもん」
泣きそうになりながら、璃子に答える。
すると璃子は、話題を変えようと鞄からスマホを取り出した。
「そう言えばさ…月曜、ドーム行ったんだ。Vivi-usの~♡」
「あぁ、それで電車混んでたんだ」
Vivi-usというのは、璃子がハマってるK-popのアイドルグループ。
ユジン・ハジュン・リオン・テオ・ミンジュンの5人組で、中でも璃子はリードボーカルのテオ君が大好きだ。
今や、日本でも全国でドーム公演をこなすほど大人気。
「やばいのぉ!インスタ見る?私、声枯れちゃった!」
璃子は嬉しそうにスマホを手に取ると、彼らのSNSを熱心に見せ語っていた。
「テオ君っていくつ?」
「21」
「ふぅん」
私が小さく頷いて、モヒートのグラスに口をつけた時だ―――
「ちょっと待って…」
自分のタイムラインを見ていた璃子が、ふと指先を止める。
そこにはアメリカで、会食をした取引関係の人と、笑顔で肩を並べてる凱斗の写真が載せられていた。
「このおじさん誰?」
「知らない…投資家の人でしょ」
「ふぅん…」
そう言いながら凱斗の画像を見ていた璃子が、小さな声でつぶやいた。
「え…」
「何?」
「ねぇ、この女何…あの秘書?」
「あぁ…星野さんだ…」
「今回の出張あの人も一緒なの??」
「らしいよ」
「らしいよって、なにこれ!このゴールデンゲートブリッジの写真!!」
璃子に騒がれて、スマホの画面を覗いてみる。
その投稿の最後のスライド写真は、広々とした場所で後ろ向きの凱斗が両腕を大きく広げ、そこに星野さんがぴったりと身を寄せ、ぎゅっと抱きついているものだ。
2人の間にある、言葉にならない特別な絆が、最後の1枚にそっと閉じ込められていた。




