第23話 日曜日の憂鬱
日曜日。
二人で代官山でランチに行った後、花凛が美容院に行くって言う。
「じゃあその後俺が迎えに行くよ」って、話していた時だ。
秘書の星野梓から、緊急の電話がかかって来た。
『シリコンバレーで面談予定の、クリストファー・レイノルズ、直前に極秘情報が入ったの。
彼、最近競合他社と秘密裏に接触しているらしいわ。
メールや電話では伝えられない機密性の高い情報なのよ。
凱斗の出張戦略に致命的な影響を及ぼしそうなの。
直接顔を合わせて協議する必要があるから、今からオフィスに来られないかな?』
「わかった。佐田呼んだ?」
『もちろん。すぐ来るって』
俺は腕時計を見て、オフィスまでの時間を頭で計算する。
「この時間なら、かかって30分かな。今代官山なんだ」
『わかった。待ってる』
こうして俺は日曜の午後、急遽オフィスに行かなきゃいけなくなる。
「花凛…」
「なぁに?」
「ごめん。オレ今からオフィスに行かないと。ちょっと緊急事態なんだ」
「そっか」
「美容院2時間くらいだよな?代官山だろ?」
「うん」
「終わったらタクシーで来いよ。待ってるから」
「はぁい」
デザートを食べかけの花凛を残し、俺は急いで車に戻ると麻布台ヒルズに向かった。
日曜のオフィスは人気も少なく、午前中“仕事があった“ってやつらも帰ろうとしている。
それに軽く挨拶をしながら、俺はCEO室に向かった。
部屋に入ろうとした時、秘書の梓が声を掛けて来る。
「ごめんね。急に」
「いや、仕方ないよ。佐田は?」
「部屋にいるわ」
「じゃあ、そっち行くよ俺」
こうして佐田の部屋に行き、俺達は話し合いをすることに。
「シリコンバレーで面談予定のクリストファー・レイノルズなんだけど、先週極秘で当社の競合『イノベーション・リンク』社のCEOと会食をしていたという情報が入ったの」
梓は声を潜めるようにして、俺と佐田に話し始める。
…最悪だ。
レイノルズは、うちの新技術への出資を検討している最重要人物だ。その彼が、水面下で競合と接触していたとか…。
「なんで、もっと早く報告しなかったんだよ」
俺の言葉に、梓はさらに声を潜めた。
「情報元が限られてて、真偽を確かめるのに時間を要したの。でも、複数の信頼できる筋から確認が取れて、今朝ようやく確証を得たわ」
梓は、一枚の写真を俺達の前に差し出した。
そこには、レストランで談笑するレイノルズと、競合CEOの姿が写っていた。
それは紛れもない証拠だ。
俺は、目の前のデスクに両手をついて深く項垂れた。
この出張の目的は、レイノルズとの信頼関係を築いて、投資を引き出すことだった。
だが、彼がすでに競合と通じているなら、これまでの戦略はすべて無駄になる。
それどころか、こっち側の情報が筒抜けになっている可能性すらあった。
「どうしようか…」
俺がそう呟くと、佐田が静かに口を開いた。
「…出張戦略を、根本から見直す必要があるな。
梓を通じて、現地で面識のある別のVCや投資家に緊急で連絡を取ろう。
週末で難しいかもしれないが、レイノルズとの面談が不調に終わった場合に備えて、新たなアポイントメントを打診するしかないだろうな」
「梓、レイノルズとの面談が終わり次第、すぐに次の行動に移れるよう、俺の空き時間や移動時間を再確認して、無駄のないスケジュールに組み直してくれる?頼めるかな」
「わかった。すぐにやるわ」
俺達は彼から投資を引き出す事よりも、真意を突き止め、“同時に別の投資家との接触を図ること”へと変更することにした。
投資を引き出すこと自体は、最終目標だ。
だけど、レイノルズに依存しない複数の選択肢を持つことが重要になるだろう。
面談はやめない。だけど彼が何を狙っているのかを見極める。
梓が秘書室に戻った後も、俺と佐田は協議を続けた。
それは二時間以上だ――
「凱斗。CEOとして冷静に情報を分析しろよ。こうなったら、次の手を打ち続ける必要があるからな…」
「わかってる」
「まぁ、ここからはお前次第だ」
そう言って俺の肩に手を置いた佐田に、小さく頷くと俺は大きなため息をついてCEO室に戻る。
すっかり空は、夕方の色だ。
花凛、もうそろそろ美容院終わったかな。
この週末は。久しぶりに二人でゆっくり過ごせると思ってたけど…
やっぱりこうやって、俺たちの時間はつぶれて行くんだな…
ふと腕時計で、俺は時間を確認する。
時刻は4時48分
その時ドアをノックする音が聞こえて、花凛かと思って返事をした。
でも扉を開けたのは、スケジュール調整を終えた星野梓だった。




