第24話 花凛の誤解
「はい。これスケジュール、ほとんど調整したから」
「えっ?早いな」
「まぁ、凱斗が来る前に大体やっておいたの」
「さすがだな。サンキュー!」
星野梓は、創業時からのメンバーの一人だ。
瀬島が引き抜いてきた、本当に優秀な人材だ。
佐田と、瀬島と、小野寺と星野。
俺にとっては、家族みたいな存在だった。
この中で、俺は一番年下だから内輪ではみんな「凱斗」って呼ぶ。
星野梓の事は「梓」って呼んでた。
だけど…俺が他の女呼び捨てにするとか、花凛には内緒だ。
ちょっと前にSNSで見たんだよ。
≪他の女を呼び捨てにする彼氏・彼女からの嫌われ度80%≫って…
でも、俺年下だからさ。「星野」なんて呼べないし。
佐田たちもみんな「梓」って呼んでるのに一人だけ違うとか…
「ねぇ、それよりこれなんなの。秘書室に置かないでよ」
「え?」
「今泉美央の写真集。“カイティへ♡電話してね”ってメモ入ってたよ」
「どこにやったかと思ってたけど…」
「これ…私のとこに忘れてた…」
「…梓のとこにあったのか」
「もうっ。」
「たまたま花凛に知られてさ。ホントうざいあいつ。」
「ふぅん。かわいいのに」
「そうかな??オレはあんまそうは思わないけど」
「売れっ子だけど」
「そんなのどうでもいい」
どうやらそれは、梓のデスクに立てかけてあったらしい。
そう言えばあのテレビの後、用事あって秘書室に直行して忘れて来た気する。
俺はその写真集を、すぐにごみ箱に捨てた。
「凱斗これからどうするの?まだ残る?」
「あー…俺は花凛と待ち合わせ。もうすぐここ来ると思う」
「そうなんだ…じゃあ私は先に帰ろうかな。お疲れ様でした」
梓は丁寧なお辞儀をわざとらしく一つすると、CEO室を後にした。
それからすっかり日が暮れたのに、花凛は全然オフィスに来ない。
LINEの既読さえつかないから、事故にでもあったのかと心配になってくる。
しつこく電話して、何度目かでやっと出た。
『はい…』
「お前、今どこ?」
『え…あ…家』
「え?なんで?もう6時過ぎたよ?」
オフィスに来てって、俺言ったよな??
『あ…私ちょっと具合悪い。ごめん。だから…今日無理…』
「えっ??俺そっち行こうか」
いや、行かなきゃだろ。だって昼間元気だったのに、具合悪いとか…
『あ、いい。明日仕事だし…ほんとすぐ寝ちゃう』
「何、具合悪いってどこ悪いんだよ、頭?おなか?」
心配だ。夕飯とかどうしたんだろ…
俺は腕時計を確認すると、何かを買って持って行こうかって…
『あ…ごめん。また連絡する』
声も全く覇気がなくて、今にも消えそうだ…
「ほんとに大丈夫なのか?」
『うん。またね』
いや、またね。って…
『おい、花凛…』
何でこういう時、頼らないんだって…そう聞こうとしたら切られた。
具合悪いって…
めちゃくちゃ心配だよ!どうすればいい…
やっぱ行った方がいいかな?おかゆとか作りに行くべきか??
でも花凛、寝るって言ってたな…
万年寝不足の花凛が、寝たいって言ってるのに、俺邪魔しに行くとか…
それから俺は、朔に電話を掛けた。
『はい』
「朔?」
『どうしたの?』
「お前もう飯食った?」
『いや…さっきイベント終わって…今家帰ってきたとこ』
「ふうん」
『なに?花凛また忙しいの?』
「あいつ…体調悪いみたいで…」
『え?大丈夫なの?どこが悪いの?』
「あー…頭とか腹とか?寝込んでんだ」
『心配だな…』
「お前は心配しなくていいんだよ」
『はいはい』
そう言って小さく笑った朔。
「ちょっと相談したいことあるんだけど、明日の夜空いてる?」
『あー、明日は中目の寿月堂の社長と会食なんだ』
「あぁ…あの和菓子屋の…」
あの朔のファンのおじさんか。
『木曜なら空いてるよ』
「俺水曜からシリコンバレー行くんだ。じゃあ帰ったらまた連絡する」
『わかった』
「じゃあ、またな」
『うん』
はぁ…朔もダメか…
ちょっと相談したいことあったんだけど、それは来週だな。
今日はおとなしく家帰ろ。
その前にもう一回花凛に電話を掛けてみる。
寝たみたいで出ないから、ちょっと起きたかもなってまたかけてみるけど出ない。
まぁ…朝まで寝るな。これは…
水曜出発するから、明日の夜でも会っとくかな。
花凛会社に迎えに行くとか…
いや…会ってたらまたあいつ、寝不足になるしな…
アメリカ出張終わるまで、そっとしとくか…
そしたら、体調戻るだろ。
俺は単純に、そう考えていた。
「……お土産、何がいいかな…」
そう小さく呟いて、スマホを机に伏せる。
……その時の俺はまだ、
花凛が俺に対して、静かに怒っていることに全く気づいていなかった。




