2-24 時間とか空間とか操るやつにろくなやつがいない④
大勢としか表現できない異能が向かってくる。
刀を振り上げて驚異的な速度で振り下ろす。おそらくもっとも基本でもっとも威力のある最高の精度を持った斬撃が放たれた。
一撃目を回避、二撃目、三撃目と避け続ける。
そしてほどほど相手が固まったところでこちらからの反撃で斬撃を放った。物理兵装の斬撃を真似、威力だけに特化させた基本的な異能を俺が使う。数人ほどまとめて輪切りにされると復帰することなく霧散していった。
その一撃は御剣理昇を超える威力を持っている。
しかも操作性も向上しているだろう。そこに人がいる、という前提で式を組んでいるために理解しやすく行使しやすいのだ。
適度に避けながら反撃を繰り返す。
しかしリアムが生み出す斬撃は終わりが見えない。
溢れるとしか表現できないほど俺達四人に向かってきた。
ある程度、俺達が身動きを取れないくらいに攻撃密度を濃くするとリアムは正面に向かって衝撃波を放ってきた。
何の防御策も講じることなくその身に受けてしまえば肉体はバラバラに吹き飛ぶだろう。
それだけの威力を秘めている。
空気に圧力がかかり光の爆発としか思えない白い壁が辺りを一気に吹き飛ばしていく。
リアムが使った異能も吹き飛ぶがそれはあくまでも足止めとして使ったものなのだろう。リアムとしてはなんの不合理もない体勢崩しからの一撃だ。
轟音と閃光の後、地面を抉り巨大な穴が川のように流れていた。
そして俺達四人が自分で守った地面の上に立っている。
もちろん、無傷で。
か細い柱状になった足場の上で何事もなかったかのように、少なくとも俺は特に気にすることなく立っていた。
「あー、なんだ。なんといったもんか」
俺は声を出した。
目の前には穴の崖っぷちに立っているリアムが表情を強張らせている。
生きているのは予想の内だっただろうが、さすがに無傷でやる気のなさが現れているところを見て困惑しているらしい。
「あー、リアム。お前では俺達に勝てないんだ。その、なんだ」
俺の言葉を心で理解したのだろう。
絶句している。
目の奥に理知的な光が明滅している。
「たぶん、お前は御剣理昇と比べて自分の威力が大きいことに何か強さのようなものを見出したと思うのだが、実はあまり役に立っていないんだ。その、分解ができる。相手の異能を消去することが可能なんだ。高位の異能者は」
相手の異能を分解するのは一種の錠前と鍵のような性質だ。
錠前に沿った条件を満たし、反対の作用をかけることで消し去ることが出来る。他にも種類はあるが基本的にはこれだ。
しかし攻撃にくる能力というのは早ければ一秒以下で即死級のエネルギー量という、相手の異能を見定めて鍵を作るには少し難しい時間である場合が多い。時間をかければ異能の技術を解体、分解処理をしてひとつひとつ確認し、しっかりとそれに沿った鍵を拵えることができるので一度使った能力は比較的に無効化しやすい性質を持っている。
しかし、式に余計な部分を付け加えることによってこれを索敵、看破、解体、分解、理解を一瞬では行なわせないようにすることが可能だ。もちろんそんなことをしたら機能性に無理がかかったり多少の性能劣化が起こることもある。しかもパスワードのように「末尾を三桁増やす」のような雑なやり方では数百種の鍵を使ったバリエーションアタックの際に高い確率で解除される可能性がある。そのためにこの辺りにはかなりのセンスが要求される。
だが、そんな面倒なことをしなくてもいくつかの方法を重ねることで分解をしづらくすることが可能だ。
純粋に異能の作成から発動、発動から対象に到達するまでの時間を短縮させる。
視覚的に見えづらくする、全方位から攻撃する、錯覚や反射を利用する。
対処できないほど大量に繰り出す。
異能を隠す。
体積、密度を大きくする。
末尾を三桁増やす。
オーソドックスなやつでこの中の三つくらいを重ねると分解しづらい。かなり。
できなくはないが、相手に異能に分解用の異能をぶつけるのが前提であるため回避マージンを用意するのが防御側の前提であるためにリスキーな動作が取れないのだ。ただでさえ相手の攻撃を受けたら即死する可能性があるのだからかなり慎重にならざるを得ない。
そのため御剣理昇が使ったあの斬撃は数や斬撃現象だけであるために限りなく回避しづらく数重無効化しても意味がなかったためにこちらも真正面から攻撃技を防御として使っていたのだ。
リアムの攻撃はまず剣が感じられるため軌道が読める。
人がいるために人間で可能な範囲を予測できる。
立体的に攻撃が来ることがなく、主に人型を前提に相手にしていればいい。
リアム本人が攻撃を集中しているのがわかったのでそれよりも早く分解用の鍵を準備できた。
残念ながら負ける要素がない。
これが位階の違いだ。
いきなり力を持つと大きなことをしたくなるのはわかる。
だからといってずっと研鑽を積んできた専門家に勝てるほど技術に優れていない。
戦い慣れしていないのだ。
御剣理昇がわざわざ当てるように工夫した攻撃方法を無視して威力と範囲を前提に攻撃したらこうなってしまう。もちろんそれが悪いわけじゃない。他の連中ならそれでも十分に倒せただろう。
ただ偶然にも、俺達がその攻撃への対処ができただけだ。
たぶん、知ってはいたんだと思う。
分解の効果自体は、間違いなく知っていたんだと思う。
だがこんなにも効果があるとは思わなかったんだろう。
だから、ほら、姉に接近を許した。
ウサ耳の少女がリアムの隣に着いた。
手を伸ばせば届く。本当に近い。
姉は困った顔でリアムを見ており、そしてようやく気がついたリアムが姉を見た。
「リアムちゃん、ごめんね……」
姉が軽く手を振った、そんなパンチをリアムに当てた。
リアムは一瞬で燃え尽きるように気化して消えてしまった。
姉のパンチのエネルギー量が膨大すぎて受け止められず、音より早く末端から粉砕されていったのだ。
たむ、と低い音の太鼓を叩いた音が鳴ったような気がした。
一瞬と表現するよりなお短く小さい目に見えない感じられない時間でひとりの人間が消えうせてしまった。昔聞いた話と照らし合わせるのであれば、リアムはもう魂まで粉砕されて流転されることなく消えてしまったのだ。
静かな時間が風と共に流れる。
いつのまにか消えていた灯りに最初に気づいた兄が辺りに大量の光の球を生み出していく。祭りの縁日のように規則性のある並んだ灯りが森を照らしていく。ただし地面よりも上だけなので大きく削られてしまった地面は崖部分に遮られて暗いままだ。穴のまま黒い靄のようなものが溜まっているように見える。その真ん中にひとりだけ立っていることに気づいた。
俺もみんながいるほうへと跳躍する。
異能で支えていた俺の足場が音を立てて崩れた。
なんともいえない気分になる。
「雅弓」
感傷に浸っていたいがそうもいかないらしい。気の利かない兄が話しかけてくる。
「これで終わったのか」
疑問形にもならない、だが断定も出来ない事実を俺に投げかけてくる。
そんなこと知ったことじゃない、と言いたい。
しかし、
「終わったんじゃないかな。なんの意味もなく、終わったんだと思うよ」
俺は締めとして終了を宣言した。
兄よりは、どちらかといえば俺のほうがこの件に近い。だから俺が終わったというのが、やはり筋なのだろう。本当は姉に言わせたいところであるが、一番きついところの責任を取ったのでこれから先は双子の弟である俺が少しくらい持つのが正しい。
死者三人。
二人は当事者、ひとりは恋人未満の後輩で、魔王が出たのに死亡者が破格で少なかったことを考えれば今回は大成功で留めていい案件だ。
ただ魔王は俺達と友達になったばかりの少女で、死者三人は家族として暮らせなくもなかった未来があったということが腹の中にしこりとして残ってしまった。
明るくて綺麗な森の中を歩く。
俺が歩き出すと兄が進行方向に次々と光の球でアーチを作っていく。
もちろんそんなものは必要ない。俺達は暗闇の中でも何の問題もない。
俺の後ろからリキマル、姉、兄が続いてきた。
空が暗かった。




