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「ある日」という日常のヒトコマ  作者: みここ・こーぎー
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2-23 時間とか空間とか操るやつにろくなやつがいない③

 御剣理昇の死亡はほぼ確実だ。

 あとは御剣理昇の秘められし力が目覚めてスーパー地球人として蘇るしかないレベルで死亡が確認された。ワンチャンあるといえばないこともないが、そんなものにすがるくらいなら路傍の石ころに神性が宿るほうがまだ可能性が高い。


 リアムは死体になってしまった御剣理昇を噛み続ける。咀嚼する。その能力を取り込むつもりなのか、ぼぅと淡い光が全身に現れている。

 顔、というよりは人間の頭部風の顎をとめどなくこぼれる血液を無視して食べ続けている。まるで俺達がいないと思っているのか、それは落ちつた様子だった。


 明らかな人類敵対行動だ。

 先ほどまでの会話が擬態であるかのような無感情を思わせる笑顔のまま、ただただリアムは食べ続けている。先ほどまでの会話はなんだったのか。目的完遂のために話を合わせていただけなのか、恐怖を感じるほどの喪失感が俺の感情を支配した。リアムのあった場所がぽっかりと欠けている。


 俺は防御行動に移る。

 リキマルに人払いをはじめとした結界を頼むとワークミッツの安全を確保するために動いた。


 数百本の矢が発射された状態で作成される。

 現在の俺の限界であるが問題なく機能する攻撃だ。十万本と比べて大きく劣る数と威力であるが、それでも普通の異能者と比べると限りなく強力な部類だ。もしかしたら俺がそう感じているだけかもしれないが、そう断言できるほどこの能力の強力さを知っている。


 ワークミッツを避けるように、当たらないようにした攻撃であるが途中でワークミッツがそれに割り込んでくる。舌打ちをするとその部分の矢を分解して消去していく。


 ワークミッツがリアムを守るために割り込んだのではない。

 逆だ。

 リアムに攻撃するために一番良い場所を疾走して攻撃しようとしているのだ。


 リアムは俺の対回避行動用の攻撃をなんなく受けず、残ったわずかな全面攻撃を払うように叩き潰す。そして正面からワークミッツにぶつかった。


 いけるかッ!?


 ワークミッツの攻撃が有効打になることを期待したが、ワークミッツは弾き飛ばされて俺の方へと飛ばされてきた。

 やはり無理だったか。

 防御壁を正面に展開する。破壊減衰目的で千鳥組のやつだ。その内側にワークミッツを確保すると勢いを殺して抱きとめる。


 抱きとめたワークミッツの腹部の一部が破壊されている。

 本人の表情に苦いものが見えるが、傷は小さい。運が良かったか。


「ワークミッツ、立てるか? 離れていろ。気持ちはわかるがまともな異能マジックが使えないお前が勝てる相手じゃない」


 俺はワークミッツを立たせる。いや、立てなかった。背中と肩を支えてゆっくりと膝をつかせた。仙人の技は重量加重か重量相殺かわからないが、現在のワークミッツの重量は見た目とかわらない軽いものになっている。おそらく攻撃を仕掛けたときは数十トンであっただろうと思われるが、どこか異能が働いていないようだ。


 ワークミッツは異能者としてはかなり弱い。

 素体としては人間以上の性能を持っているのでこの先はわからないが、現状ではまともな防御もつくれないし姿勢制御や即死にも対応できないだろう。異能の分解や未知の異能に対しての対応策の勘もないため強いとはいえない。現にまともな異能も使っていなかった俺や兄に対して有効な攻撃ができなかった。


「あ、あ……っふ」


 ワークミッツが倒れ込んだ。

 横倒しになり、そしてぴくりとも動かなくなった。

 そしてその体から大量の紙が規則正しく展開して飛び去っていく。吹雪のように視界を覆うほど白の紙片が舞った。

 一枚、手に取ると長方形の紙になにやら印と文字が書かれている。符だろうか。幾重にも積み重ねられた大量の符が高速で解かれていく。

 数秒して、ワークミッツが倒れていた場所には何もいなくなった。

 そしてあれだけ舞っていた符も消えてしまった。


 ワークミッツの、その姿を探すために辺りを見回す。

 いない。


 ……まさか、死んだのか?


 ぞくり、と背中を気持ちの悪いものが走る。

 わずか十秒足らずで人が二人も死んだ。

 しかも俺の見ている前で。


 俺は諦めてリアムを見直す。

 リアムは俺達に興味がなさそうに御剣理昇の遺体を食べ続けている。


 助けられなかった。

 運が悪い、といえば確かに運が悪い部分もあった。

 しかしこれは単に考えが足りなかったのだろう。


 こうなることだって予測できたはずだ。


 姉は驚いたようにリアムを見ている。

 兄は苦いものを噛んだ様にリアムに対して敵意を向けた。


 まさか御剣理昇が殺されるとは思わなかった。


 悔恨の念か、御剣理昇はリアムによる殺害を受け入れている節があった。

 俺達に聞こえないように何かしら策を弄して御剣理昇に何かを言ったのだろう。御剣理昇はそれを認めて殺されたのだ。

 ここまで心が弱くなっていたとは思わなかった。


 結界を張り終えたリキマルが俺の傍に寄る。

 リキマルはあまり興味がないらしい。二人が死んだことは残念そうに見えるが、それだけだ。そしてこの場に合っている正しい異能者としての姿だ。

 俺達三人はやるべきことに感情を混ぜ込んで苦しんでいる。不出来な心得だ。


 リアムが御剣理昇の最後のひとかけらを飲み込んだ。


 それを確認してから俺は何歩かリアムに近づいて注意を引いた。


「あー、なんというべきか」


 ここに残っている四人は当たり前だが手を抜いていない。掛け値なしの全力状態だ。これで殺されるのであれば単純に俺達の力が足りていないだけなので、そこは死ぬのが筋というものだ。

 しかし先ほどまで上っ面だけでも仲良くしていたものたちとして、話の切り出し方がよくわからない。いきなり殴るかかるのが俺達・・の正しい在り方なのだがそうもいかないのが現実だ。

 もちろん最終的にはひとつに収束する事柄であるが、それでも今は感傷に浸らざるを得ない。


「雅弓さん、ありがとうございます」


 俺の言葉を遮ってリアムが血塗れの笑顔を向けてきた。

 あまりに不釣合いな姿だ。


 だが、その上で小刻みに震えていた。

 御剣理昇が怖かったのだろう。それはわかる。それを乗り越えて御剣理昇に勝利したのだろう。リアムの中では恐怖を乗り越えた、という話になるのだろうか。

 なんと、なんという乗り越え方なのだろうか。


「雅弓さんのおかげで復讐することができました。これでルウちゃんも喜びます!」


 本当に綺麗な笑顔でこちらに感謝を送ってくる。

 その姿だけならまだ受け入れられた。

 だが、もう無理だ。

 過程はひとつ、結果は二つ。

 俺達は戦い、そしてどちらか一方が生き残る。

 そういう俺達の日常に入ってしまったのだ。


 どちらが生き残るにせよ、これが最後のまともな会話だろう。

 あとは戦闘中の意味のある雄たけびが会話のように折り重なるだけだ。


「そうか、それはよかった。ルウはそんなにも心を狂わされていたのか」


「狂わされたっていうか、ルウちゃんにはもう死ぬしか残されていなかったです。訓練に耐えられるだけの精神もなく、私を作り上げるだけの実力もなく、理昇の隣にいて心を刺され、理昇と離れて心を癒され、帰ってきた理昇に会うことで壊されて直されての繰り返しでした」


「そしてある日、私に内緒で、私の目の前で理昇への恨みを吐いて死にました」


「だから、御剣理昇に復讐をした、と?」


「はい!」


 とびきりの笑顔で答えてくれた。


「そしてごめんなさい。私はみんなを殺してでも生き延びます。それが私の願いだから!」


 生ぬるい殺気が飛散する。

 そして攻撃が飛んできた。

 見えないはずの斬撃がまるで形をまとっているかのようにはっきりと繰り出されてきた。

 その精度、威力は御剣理昇の使うものと違わない。

 違わないのだが……


 俺とリキマル、兄と姉はそれを見て・・避ける。斬撃はその背後や地面にぶつかり大きな傷跡を残して消えていく。


 なんとも言えない気分になる。


「私は御剣理昇の力と、そしてワークミッツの五行炉を取り込みました。本気を出さないと勝てませんよ」


 リアムが御剣理昇と同じ力を使っている。

 リアムの周りに百人以上の達人がいるような圧迫感がある。そのひとりひとりが霊刀を携えて今にも斬りかからんと燃えているのがわかる。

 そして腹の真ん中から膨大な純エネルギーが溢れてきている。常人に備わるようなエネルギー量じゃない。おそらく俺達四人の中で一番エネルギー量が多いであろう姉の十倍の出力があった。それは魔力や霊力といった専門化する前の純粋な力だ。電池でいうところの電圧に近い。それだけで俺達にできないような協力過ぎる異能を使えることだろう。普通に瞬間風圧――爆発として全力で攻撃しても凄まじい威力になる。無駄になることはあるまい。


 単純計算でいいならレベルは十倍、攻撃としての出力や異能発動としての精度は第四位階である御剣理昇並みの化け物であるといえる。

 どんな一撃でも直撃したらその衝撃量に肉体は物理崩壊を起こして分子レベルまで分解されてしまうだろう。その霊魂においても転生することなく霧散していくのは間違いない。

 そしてその防御能力も生半可な威力では貫けないほどの異能強度と密度を持っている。単純な異能勝負では傷ひとつつけられない。この中で一番の攻撃力を持っているであろう兄ですらそうだ。


 紛れもない――


 『魔王オーサー』だ。


 魔王オーサーが俺達に戦いを挑んできた。


 魔王の周りにいる不可視の精鋭部隊が隊伍を成して突き進んできた。



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