2-5 お手伝いだけ
巨大美少女フィギュアの動きは悪い。
おそらくこれだけの大きさのゴーレムを使用したのは初めてではないかと推測できる。
どんな能力に対してもいえるのだが、使い慣れていない能力はどうしても思い通りに動かせない。卓上で遊べるくらいの多さのゴーレムであればなんの問題もない操作力の持ち主なのだろう。しかし重量や体積自体が大きいために全体的な操作感覚がまったく違うのだろう。また能力者が部屋の中にいるようなので、そこからの遠隔操作にしても難が出ている。
錬度不足だ。
だが、これだけの大きさを使用できるのであれば単純に凄いといえる。
そう、背後に指導者がいると思えるくらいには強いのだ。
「しかし大きいな。倒れるだけでも被害が出る」
呟きながら、俺はメタルゴーレムへと近づいた。
距離が五メートルくらいになったところでメタルゴーレムも俺に気がついたのか、こちらを向いた。もっと前に気づいていた可能性もあるが、どちらにせよ反応は悪い。
俺は『物品転送』で鉄食いを呼ぶ。
俺の手に一振りの刀が握られる。
鈍色の鉄鞘に収められた赤い柄拵えの刀だ。中身は波紋のない刀身を持っており、人斬り包丁と揶揄されることもある。すでに位階は霊剣と読んでも差し支えない上昇しているはずだが、人間とは条件が違うので正確なほどはわからない。
「雅弓殿、できれば大技で一気に仕留めてほしい。被害が継続すると少々問題だ」
後方で理昇が俺に声をかけてくる。
それはまあわかっている。わかっているのだが、このままでは状況が認識しづらいのでもう少し情報を集めたいところだ。
特にこいつが出てきた五階の部屋には俺の『眼』が届かない。なんらかの結界が張られているものだと思う。
個人的にはメタルゴーレムを倒しつつ本体も確保したいところだ。そうでなければ逃げられる可能性もあるし、何より複数出されても困る。第二位階であるならさすがにこれだけのメタルゴーレムを複数体と作り上げることは難しいが、だからといってやらないでいるということもどうかと思う。
外側から結界内を覗き込むが、そもそも異能自体を弾いているのか、真っ暗で何も見えない。黒いゼリーのような存在で覆われているように感じる。肉眼で見れば全部見えるのだろうが、さすがに今は覗きにいける状態じゃない。
メタルゴーレムが動く。
俺目掛けて倒れてきた。
おい、有効的過ぎだろう。もうちょっと小手先の技を使えよな。
メタルゴーレムは胸に着けたその二つの金属球で叩き潰すかのように倒れこんでくる。
やはりろくな攻撃手段がないのだろう。まともに操れないゴーレムの攻撃としては十分な攻撃方法だ。判断力と決断力に優れたよい使い手だ。このまま成長したら強い異能者になるのではないだろか。
俺は鉄食いを掲げた。
鉄鞘すら抜いていない。
凄まじい勢いで、その重量を武器に俺に倒れこんでくるメタルゴーレムの胸部に鉄食いの先端が触れた。
ず、お……
空間ごと吸い取るかのような吸引音が鉄食いから聞こえてくる。
メタルゴーレムは丁寧に千切った細長い紙片のように分割されると、ほんの瞬きひとつ以下の時間で鉄食いへと取り込まれた。
勝敗はついた。
というか、そもそも勝負になっていない。
相性差だろう。
「終わったぞ」
俺は理昇たちの方へと振り向いた。
これにはさすがに苦笑いをする理昇。隣にいたワークミッツは呆気に捕らわれた表情をしている。目の前で起きた現象が俄かには信じがたいのだろう。
「これは驚いた。ヒカミの『鉄食い』といえば相手の装甲を食い破る魔剣であるとばかり認識していたが、これほどの力を持っていたのか」
「もちろんだ。対外的には鎧を着ない現代では効果が薄くなったから使わないということになっている。しかし本当は効果が大きすぎて現代では使えない。迂闊に使えば重要鉄柱や鉄筋、地下を通る金属線、線路などが一瞬で消し飛ぶからな。俺くらい精緻な運用ができなければ使用を許されていない」
鉄食いを『物品送還』で仕舞いこみながら俺は簡単に手を振る。
「そんなわけで少なくとも『元素・金属操作』の相手をするのであれば無敵だな。金属製の装備をしているのであればぶつければ一瞬で『分解』も可能だ」
「凄まじい。第四位階に加えてその『呪霊武装』とは。もしかして私はとんでもない借りをつくってしまったかな」
「そうでもない。何かを頼むときにそんなに無茶は言わないよ。そもそも俺はあまり他人にお願いなんかしないからな」
「はは。借りを返せないとなるとずっと君に下手に出ないといけなくなったかな」
「お、それもいいね」
俺はさらりと流しておく。
「ありがとう。まさかこんなにあっさりと終わってしまうとは思わなかった。いつの日か君と戦うことがあるかもしれないからその戦いぶりを少しでも見ておきたかったのだが、そうもいかなかったようだ」
理昇は笑う。
隣でワークミッツが「とんでもないくらい失礼ですよ」と肘で理昇の脇腹を刺すがまったく効果がない。
理昇が言う「いつの日か君と戦うことがあるかもしれない」というのはデビルバスターズでは有名な言い回しだ。簡単に言えば「力におぼれて悪魔と認定されたとき、私は君と戦う」ということだ。あらゆる異能者に当てはまる言葉であり、心しなければならない言葉だ。
いつか俺たちは心変わりをして、人に危害を加えるかもしれない。
リキマルを失ったときの俺のように、人は簡単に人に危害を加えようとする。力の強い者が快楽殺人に走ればその被害は計り知れない。当時の俺が全力で日本に牙を剥けば三日で国力の四割を落とすことが可能だっただろう。
何かが間違えば俺も今ここにおらず、どこかの組織の用心棒をやっていたかもしれない。いや、死んでいる可能性のほうが高いか。
「あ、すみません。勘違いしないでくださいね。今のはうちの独特の言い回しで――」
「ああ、大丈夫。わかってるよ。悪魔になってはいけない、ってことだろう。さすがにそれくらいはわかってるよ」
俺は妙に慌てながら理昇のフォローを入れてくる。その姿はなかなかかわいいといえる。
「とりあえずここにいると責任者にされる可能性があるから俺はそろそろ行くよ」
「ありがとう。何かあれば頼ってくれ」
「期待してる」
俺は軽く手を振った。
そしてまたいつものように高速で移動を行う。
「ヒカミの雅弓、やはり危険だな」
理昇がぽつりと呟いた。
それは明らかに、嫌悪の表情だった。
俺はその姿を見ていた。聞いていた。
理昇が気づかないほどの遠くからひっそりと。




