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「ある日」という日常のヒトコマ  作者: みここ・こーぎー
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2-4 みんな善い人

 割と極端な話をしよう。


 異能者と悪魔の違いは「人に危害を加えるか否か」である。


 それだけだ。

 それだけなのだが、人はいろいろと分けようとする。


 それは「うちの子は違う。うちの子は悪魔に取り憑かれてる!」とか「おお、私には悪魔が取り憑いていたのだ……」みたいなどうでもいいことを、社会が少しは肯定しなければならないという事実にある。

 アメリカなんかすげーもんで、「なるほど確かにお前は悪魔に取り憑かれていた。それはそれとしてお前が出した被害は懲役三百年だ」という自国の医療費並に血も涙もない判決が下る。


 俺はこれを肯定したい。


 が、「日本は功罪相殺情状酌量メートルとグラムを採用しました」ということは現実から読み取れる。これも別に否定するつもりはない。

 ただ単に日本とアメリカで懲罰の基準が違うだけだ。どっちも一長一短がある。

 それだけなのだ。



 何が言いたいのかというと、



「いやあ、見事な事後対応ですね。日本の警察機構って」


「ああ、そうだな。目の前で夫婦喧嘩が行われており、女の方が室内品の投擲で男を攻撃にしているにも関わらず民事不介入を貫いて、結果的に警察の目の前で男が刃物刺されて死んだという悲しいエピソードもあるくらいだ。迂闊な防衛を行って被害を最小限にとどめているのは実はオススメできない」


 十三号棟から生えてきた巨大美少女フィギュアは硬いコンクリートの壁を破壊しながら地面に着地する。コンクリートよりは硬いらしく傷らしきものは見受けられない。


 そりゃそうだ。

 なんてったって全身金属製なのだから。


 常に笑顔で変化しない表情が少し怖い。


 ちなみに格好は全裸だ。

 胸部前面に巨大な球体をぶらさげている以外に特徴はない。ただその球体の大きさは自分の顔ほどもあるので装甲としては役に立つだろう。

 そして針金のようだが、よく揺れる紫のポニーテールはきっと武器として使えるだろう。


「全長二十メートルほどか。ふむ、そこそこ大きいな。第二位階異能者は確定だな」


「まあ、そんなもんですかね」


「二人ともなんでそんなに落ち着いているんですか! 早く何とかしないと!!」


 俺と理昇の会話にワークミッツが割り込んでくる。

 どうやら被害が大きくなる前になんとかするべきであるという考えなのだろう。


 まあ、無理なんだけどね。


「雅弓さんも善人なら早く何とかしくださいよ!」


「いや、善人というのとあれをなんとかするということに関連性はないよ。往々にして善人というのは「役立たず」の別称でね。善い人ではあるが薄味ということだ。ここで急いでなんとかできることはあまりないんだよね」


「そんなことは聞いていません!」


「大丈夫。わかってる」


「わかってるならなんとかしてくださいよ!」


「落ち着け、ワークミッツ。雅弓殿も困っているじゃないか」


「班長、落ち着きすぎですよ! 被害が出ますって!!」


 ワークミッツは早口でまくし立てているが俺たち二人の行動は遅い。


「そう言われてもな。人的被害はゼロだから急いで動く必要はない」


「え、って言っても『人払い』の結界とか行っていませんよね?」


「室内でよく反響する気づかない程度の不快な高周波を出し続けている。現在、あの十三号棟には対象以外の人間は存在しない」


「え、聞いてませんけど」


「俺の独断で勝手に行っている迷惑行為だからな。貧乏ゆすりのようなものにお前の許可はいらないだろう」


「え、いつ?」


「対象の部屋に行きながら板チョコみたいなやつを適度に壁に貼り付けただろう。あれだ。対象者の部屋は防音加工されているので効果がない。ついでにただの機械だから異能反応ゼロの優れものだ。便利だぞ」


 理昇との会話で混乱しているワークミッツ。

 自分の知らないところで何かが進行していたのがショックなのか、曖昧な連続した表情を行っていた。感情がコントロールできないやつにありがちな表情筋の細動だ。爆発するんじゃないのか、この娘。


 しかし恐ろしい機械が売られているものだ。

 不快音波を出す板チョコ状の機械か。

 俺もあとで探して買っておこう。


「人払いの許可なんて下りてないからな。上に気づかれない範囲で自己判断だ。今回は運よく全員いなくなったが、何人か残る場合もあるからな。確実性がない。お前も使う場合は注意するように」


 結果的にあきれた顔になったワークミッツの背後で地響きを立てて巨大美少女フィギュアメタルゴーレムが動き出した。


 メタルゴーレムが出現して一分ほどだ。

 その間に周りにいた一般人はみんな逃げ出している。さすがに別棟にいる人員の非難にはまだ時間はかかるだろうが、メタルゴーレムのそばには誰もいない。


「俺たちはあれに近寄らなくてもいいのか?」


「いや、まだ待っていてくれ。現場指揮官は私ではないのだ。だからこの辺りに知り合いの子を探していた。こうなるのがわかっていたからできるだけ自分で確保したかったのだ。おっと、噂をすれば」


 何かのコール音か、微細な音が理昇から聞こえてくる。

 理昇は二重外套の内側に手を入れて小さなマイクを取り出すと口元へと近づけた。


「はい、こちら御剣理昇です」


『御剣か! 早くアレをなんとかしろ!!』


「あれ、とは?」


『あのゴーレムだ! 今すぐに被害が出る前になんとかしろ!』


「藤堂課長補佐官殿、この無線機にはしっかりと録音機能がついていますので、あまり雑な言い方であると上の方々も困惑されると思います。私は戦闘員でありあまり頭も良くない新人でありますので、子供でも理解できるくらい簡単に命令を出していただけると助かります」


『なっ!? それが上官に対する口の聞き方か!!』


「課長補佐官殿、命令を」


『くっ……』


 最後にそれだけを言って、通信が途絶えた。


「理昇、すまないが聞こえていた。なぜか破壊命令がでていないようなんだが」


「ああ、あれか。命令を出した人間が被害の責任を負うことになっているんだ。だからあそこで課長補佐官殿が命令を出したら、現在の被害も含めて全部自分が背負わなくてはいけないので命令を出さなかったのだ」


 言葉が出ない。

 そんな無責任でも警察のお偉いさんになれるという事実にちょっと好ましいものを感じるが、さすがにこの場においてそんなことで人生設計を立てるほど現実におぼれているわけでもないので、さっさと思考を払拭する。


「ふむ、ということはこの俺のお手伝いというのは」


「ヒカミと責任を半分にするという意味で取ってもらってもかまわない」


 理昇は不適な笑みを浮かべて俺を見た。

 

 俺は考える。

 実はこの申し出はそんなに悪いものじゃない。

 まず、勝手に手出しをしたからといってこちらに請求書が回ってくることはない。あくまでも善意の協力者であるからだ。それは理昇が証明してくれるだろう。逆に言えば俺に報酬が支払われることもない。なぜなら善意の協力者であるからだ。


 じゃあ何が悪くないのか。


 単純なことだ。


 デビルバスターズに恩を売れる。

 ただそれだけだ。


「あのゴーレム、俺に任せてもらおう」


 まだ動きの鈍いゴーレムに視線を向けて、俺は言い切った。


「いや、実はそのつもりだった」


 理昇が薄らと笑いがならそう言った。



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