2st.片翼の天使(1)
前回のあらすじ
盗人、これから生きるために頑張ること決意。
「第17問!デデェン!神聖古代語でフェイムとはなんの意味でしょう!」
「分かった!はい!“フェイさん”!」
「はいぶぶー!フェイムは“信仰”だー!」
「いやぁぁぁぁぁ!」
月の教会、正式には“リリス湖畔跡地・月の協会支部”。
外からは見慣れた教会の2階と3階には、月の教徒の2人と、あと2人位が暮らせる住居スペースになっていた。
ここ2週間ほど、その一室で暮らしていた。
風呂なんてまともに入ったことないから、白い煙が出ている水なんて恐ろしかったが、一度浴びると心地よさにいくらでも浴びていられた。
風呂のあとは尋問室なんてところに連れられて、生きると決めたのに俺は死ぬのか?とガタガタ震えながら二人に聞いたのは、今になってもネタにされる。
月の教徒の2人であるタトとカシは、簡単に事情聴取をしたあとにこれからのことを話してくれた。
いつの間にメフィストと話していたのかわからないが、俺はこの場所で教徒になるための訓練をするらしい。
タトとカシはその訓練の手綱を握ることになると。
具体的にいつまでに教徒にするのかとか、そういうのはまだ決まってないらしい。
これは本部のおエライサンに確認しないといけないとかなんとか。
で、タトとカシはそれはそれは丹念に様々なことを教えてくれている。
最初の自己紹介もなんだか熱が入ってて、思い出すと少し笑ってしまう。
『俺は鑑定のタト、こいつは変音のカシ。ロン毛のカシって呼んでもいい』
『ふざけんな。まあ紹介のとおり俺は変音のカシだ。こいつは坊主のタトって呼んでいいぞ』
『いいだろ、まじで風呂楽。カシも坊主になろうぜ』
『褒めてねぇよ、そんでぜってぇやだ』
タトは勉学知識の方を、カシは戦闘技術を教えてくれている。
見た目の割に知識派と武力派が逆っぽいのがなんかおかしかった。
教徒が戦うの?と思ったけど、最初の方に民を守る力が必要だって言ってた。
宗教を学ぶ事は初めてだから、なんか思ってるよりしっかりしてるなと思った。
タトとカシが、あの事件の前に何回聞いても名前を教えてくれなかったのは、教徒だかららしい。
どうも教徒のうちはまだ民に名前を見せるほどしっかりしてないから…とのこと。
また、教徒は“汚れ仕事”が多いから、常に清潔な手袋をつけなければならない。
手袋にしては立派な模様があるなとは思ってたけど、そんなだいじなものだったとは。
この2週間で知った、神様の“決まりごと”はなんだかおかしくて、でも面白かった。
そして今やっている古語。
なんで昔の言葉をわざわざ調べるのか?と思っていたら、タトは
『そりゃ神様の使う言葉そのものだからな。ジジイ達の言う話によれば、最近こそ現代の言葉で話してくださるらしいけど、古くからおられる方だと古い言葉のほうが好ましい方もおられるんだと。
ぶっちゃけゴキゲン取りだよ。
でも昔の話を読めるようになると、結構面白いぜ。』
と答えた。
昔ネマが言ってたショセージュツってやつだ、と感心してたらカシが
『タトって見た目まじ脳筋そうなのにそういうとこ知的派っぽいとこ見せるよなぁ』
と茶々いれてた。
お前にそっくり反転して返してやるってキレてた。
そんな訳で神聖古代語を勉強中なのだが、はっきりと言えばまじで無理って感じだ。
記憶力は悪くないはずだったのだが、なんせ紛らわしい。
なんだフェイムとフェルって。
おまけにファム。
ちなみにフェルは力、ファムは女性、厶だと男性。
いや、ややこしすぎる。
じゃフェイムはなに?
フェイって名前の男性か?と思ったら信仰って意味の一単語。
なんでだよ。
「頭は悪くねぇんだけどなぁ。
作法とかは言ったらすぐ覚えれるしちゃんとやれるのに。」
「そーそー、字はもう結構読めてるし、なんならフェイさんに繋げれんのある意味天才だろ。混乱するとまじで読めなくなってるけど。」
「ぐえー……」
文字を見てたら頭がパンクしてきた。
2週間で詰め込んでる割には頑張ってるけどね、とはタト。
すると助け舟を出すように、困った笑顔をしながらカシが。
「あと3問正解したら飯にするか?」
「飯ィ!頑張る!」
この日々のなかで一番好きなものを提示してくれる。
がばっ!と顔を上げると2人はおかしそうに笑って、問題を出す。
「ほい、出来たぜー」
「「おおおお!」」
カシが食事を持ってくると、歓声が上がる。
ここでの炊事は、いつもカシが担当している。
「いやはや、いつもありがとうごぜいやす」
「ありがとう!」
「なに、良いってことよ。俺の身の安全のためだしな。」
「失敬な」
「事実だろ」
また2人が小競り合いをしている。
曰く、タトが作ると美味しくないとのこと。
それって何くらいまずい?と聞くと「炭」、「石」と返ってきた。
さすがに石は食えない…
「これはチーズと野菜…えーと、レタスとオニオンのサンドイッチ。でこっちが干し肉入りスープな。」
「あ!チーズってあれだ、のびるやつ!」
「残念今日は伸びないぜ、ほらスープが冷めないうちに食え。」
いただきますと宣言したあと、真っ先にさんどいっちにかぶりつく。
「ん!ほんとだ伸びない!……けど、なんかうめぇ!ぐにゃぐにゃ?してる!」
「不味そうな言い方だな?たぶんそれもちもちな、フレッシュチーズだから。」
食事を楽しんでいると、横で大袈裟な身振りをしだすタト。
「んんぅっ!ほんとだウメェっ!もつぃもつぃ?してるぅっ」
「雑ファスティアの真似すんな、それお前が味見して買ってきたチーズだぞ。」
「え、俺こんな感じ?」
「いや全然。15点。」
「あ15点は要素あんだ」
「辛辣だなオイ!」
タトは辛辣さにオイオイと泣き真似をする。
スープを匙ですする。
じんわりと甘じょっぱくて、あったかくて美味しい。
そんな俺の様子を見て満足そうに笑うカシ。
「うめぇか?」
「ん!すげえうめぇ!」
そう言って笑えば、八の字に眉を曲げて頭をワシワシと撫でられた。
室内ですら、室内用の薄手の手袋をつけている。
信徒であるうちは、人と過ごす間もつけなければならないのだそう。
衛生面で炊事や汚れを落とす時、誰とも過ごさないときのみ外せるらしい。
でも室内用に変わったからか、信徒とガキの関係だった時よりも、温もりを感じてくすぐったかった。
「カシがファスティアには優しい…俺にも優しくしろよぉ……」
「タトだってファスティアにこっそり飴玉あげてただろ」
「お前甘いの嫌いじゃん…ファスティアは美味しいって笑うからあげたくなる……」
「そうだけど、わかるけどさぁ。
てかおいお前玉ねぎ嫌いだからってファスティアの皿に乗っけるんじゃねえ。」
スラムの時の瑠璃烏達みたいに、指の感触が心地よくて大人しく撫でられてたら、いつの間にかコンソメスープの皿にサンドイッチの具が入れられていた。
「ファスティア、ここだけの話……スープで浸してもこれ美味いぞ。」
「え?……ほんとだ!しゃきしゃきしてて美味しい!」
「騙されるなファスティア!こいつオニオン嫌いだからって適当言っただけだ!」
「あえ、でも美味しいよ…?」
キョトンとしているとタトが隣から肩に手を乗せて、もう片方の手でごめんのポーズを取った。
「ファスティア、ほんとはお行儀悪いから駄目。俺が悪い。100悪い。それはそれとしてこれも食ってくれ」
「おいごらぁ!サンドイッチのオニオン綺麗に取るなぁ!でファスティアはわぁって喜ぶなぁ!食いたいならまだあるから!」
育ち盛りだろ?と言ってカシがもう一個…さんどいっちを作ってくれた。
タトは苦手らしいオニオンをカシに追加で盛られて、涙目になりながら食べてた。
少し休憩したあとは、戦闘訓練に入る。
…といっても俺は初心者かつ大した筋肉もないので、基本の体力づくりと筋トレが中心。
今日も俺が汗だくで、ひいひい走ってる横で、カシも頑張れ頑張れと応援しながら並走してる。
なんだかんだタトも同じペースで走っていて、神官って何でもできるんだなと思いながら、息を荒げて走っている。
「はいできるだけ鼻で息をして!肺まで目いっぱい呼吸して!」
「そんで問題デデン!4足す3は!」
「ぜぇ、ぜぇ、っ、……うーー、手を見れなぁい……!」
「ファスティア頭回して!はい4足す3!」
「っ、……ななぁっ!」
「おおナイスナイス!正解正解!」
「良いぞぉ、教会まであと少し!はい2足す2!」
「ゔゔゔよんんんっ、」
「すげえすげえ!はいフェイムは!何の略!」
「ゔああああでたあああ」
思わず悲鳴に近い声を上げながら苦しい顔すると、横でカシが爆笑している。
ロングの髪はぎゅうぎゅうにまとめられている。
おだんごヘアーっていうらしい。
「ゔあああああしんこうううう!!」
「おおおおお!!すげえ!良いぞ!」
「この終わりの走りで3連続正解してる!良いぞ良いぞ!はい正しい信仰は正しい力に!神聖古代語に訳すと!」
「ああああそっち苦手ぇぇぇ!!
うううう、りーちぇ、ふぇる、りーちぇ、……ふぇいむ!」
「残念逆逆ぅ!」
「ゔびゃあああぎゃくだったぁああ!」
悔しくて頭をブンブンと降ると、逆にクラッときて酸欠気味になる。
すると横からぱぁん!とカシが背を叩く。
「はい体勢崩さない!も少し!」
ゼェゼェ言いながら、3人でゴールの協会に向かう。
苦しいし汗まみれなのに、なぜか清々しい気持ちになるのが不思議だった。
清々しい雲1つない空色がどこまでも広がっていた。
この話は救われる話です。
いつか、きっと。




