2 ねぇエリー
兄に呼ばれ一人兄の執務室に入る。
相変わらず書類仕事忙しそうだな。
私何かやらかしたかな?
今日はまだ大人しくしていた…気がする。
「ねぇエリー」
こう言う言い方のお兄様はろくな話じゃない。
兄が書類を見てる間にそろりそろりと移動する。
「エレーナどこいくのかな?」
この呼び方はもっとやばいのでおとなしく戻り椅子に座る。
クッキーを重ねてタワーを作りながら続きを待つ。
「エリー…クッキーで遊んではいけないよ」
今回は本題までが長いパターンか。
重ねたクッキーを戻し、大人しい良い子の真似をする。
「エリー、きみは18歳の淑女だよね」
「外では気を抜かないようにしてます」
「そういうことではないのだけど、この際置いとこう。
あげたらキリがないからね」
おお!今日はなんでか短めコースだぞ。やったー。
あとでギルと何して遊ぼうかな。
釣りがいいかな。木登りもいいね。
この前本に出てきたツリーハウスも作りたい。
「あーエリー、楽しい妄想中悪いのだけど、兄の話聞いてくれるかな」
「はい!」
さっさと終わったらギル探して、遊ばないと
「もう顔に出てるのよ」
「ではもう行ってもいいでしょか」
「ダメだよ。
まだ始めてもないのよ」
クッキーを食べながらお兄様を見る。
あいも変わらずタプタプでジャラジャラでキラキラしてる。
タプタプ、ジャラジャラしたいなー
怒られるからしなけど、小さい頃はよくタプタプしていた。
なんだかんだで、甘いお兄様だから許してくれる。
お話し終わったらタプタプしてもいいか聞いてみようかな。
「今日は一段と話を耳が聞きたくないみたいだね」
クッキーを食べながら目を逸らす。
何か嫌な気がするから聞きたくない。
と私が言っても、はいやめますという兄ではない。
どうせ聞かなければいけないのなら、うーんと話を伸ばして困ってしまえばいいって悪いことを思う。
「エリー、僕の世界一わんぱくな妹、それでいて世界一賢い妹。
君は18歳の淑女だね。いい加減子どもではいられない。
今日は君の将来の話をしよう」
クッキーをおき、背筋を伸ばす。
兄の目をいつも以上にじっと見つめ一つ大きく深呼吸した。
「お兄様お願いあります」
声にはだされないが、眼差しが優しくなんだい?と言っている。
「ギルバート、私の半身をどうかよろしくお願いします」
これでもかというくらい頭を下げる。
「…ん?」
「本音を言えばギルを連れて行きたいです。
どこまでだって行けるし、どんなことだって一緒にならできます。
……でもそれは叶わない願いだと思っております。
お相手をギル以上に愛せないですが、お家のためのパートナーと思い頑張ります。
お兄様にはお相手のことでご迷惑おかけしないので」
私の思いは言葉にした。
ギルのこともっと言いたいけど、これ以上は口に出すと涙が出そうになる。
そんなずるいことはしたくない。
涙をこらえ、頭をあげ兄を見る。
なんて言われるだろうかとビクビクしながら待っていると、突然兄が右手で額をおさえ唸り出した。
やはり、難しい…よね。
「いろいろ言いたいけど、まず君たち拗れすぎ!」
机をバンと叩き兄は立ち上がった。
スタスタと机を挟んだ私の目の前に椅子に座り直し、クッキーを頬張った。
私はよくわからなくて目をパチクリさせる。
「まず君の婚約者はギルバートだ。異論はあるかい?」
思ってもない名前に思考が停止し戸惑う返事が出てしまった。
「いいんだよ。ギルバートで。
でというかギルバートじゃないとエリーは無理」
「無理…とは…」
「言葉通りだよ。
エリーを止めるにはジリーしか無理だし。
エリーを動かすのもジリーしか無理だ。
それに君は決めてしまっているもの。
今更他の人が入る隙間なんてないだろう。
エリーは3人の中でも飛び抜けて頑固だからなー」
兄は大きなため息をつきながら、クッキーを手に取り口に運ぶ。
「ジリーを連れてきた日を覚えているかい。
僕が何か言う前に勝手に彼と離れたくないって大泣きして、あげく家を捨てるまで言っただろう。
今もそうだけど、まず君たちは僕の話を聞いてくれるかな。
聞く前から悪者扱いされるのは心外だよ、まったく」
そうか私は、ギルじゃないと無理なのか。
無理という言葉はあまり好きではなかったが、“ギルじゃないと無理”
この言葉は嫌いじゃないし、しっくりくる。
新しい宝物を見つけたような、昔から持っていたような、なんとも言えない気持ちになった。
ああ、でも本当に許されて良いのだろうか。
まだ疑いの気持ちを持ちながら兄を見る。
「お兄様は権力がお好きなのだと思っておりました」
「えーむしろ興味ないんだけど。
なんでそうなったかなー」
「お姉様は辺境伯へ、妹のスピカは王太子の婚約をしているので、お兄様の意向かと」
だったら私だけ好きな人と結ばれるのは不公平だ。
「違うからね!いや違わないけど違うんだよ。
君たち勝手に見つけてくるんだよ」
勝手に?よくわからず首を傾げる。
「君たち恋の話とかしないの?
女の子って好きでしょ。姉妹ならとくにさー
いや、うんしなさそうー。
ディーは自分から言わなそうだし、エリーはジリーと駆け回ってるし、スーは今まで興味なかったか。
そうか、そうやって勘違いして拗れていくのか」
兄は一人納得し、新しいクッキーを食べた。
「えっとまずね簡単に説明すると、ディーは5歳のお茶会でロッティに一目惚れして相手も一目惚れで大恋愛のすえ結婚してる。
無理矢理結婚させたわけじゃないから」
「でも結婚式も挙げてはおられないし、年に何ヶ月しか一緒におられませんよね」
「それも僕のせいじゃないからね。
ロッティがディーのそばにいるとドキドキしすぎて死ぬっていうし、実際、一緒にいたときに脈が速くなりすぎて倒れたことあるだよ。
それに、ディーの側から離れないで仕事にならないんだ。
あれ引き剥がすの毎回大変なんだよね。
だから断じて、僕が命令してるとか無理矢理だとかではない!
総じてロッティが悪い」
「はあ。ではスピカはどうなのでしょう。
あの子は愛だの恋だのは鼻で笑ってましたし」
「権力に興味あるのはスーだよ。
王太子を攻略してゆくゆくは国を影から操ってやるなんて謀反スレスレのこと言ってるからね。
兄としては好きにさせたいけど流石に国家転覆は止めるかな」
「…そう…なんです…ね」
「信じてないなー。そこはもう当人たちに聞いて。
まぁ何が言いたいかというとエレーナは誰を好きになっても良いんだ。僕は何があっても君の味方だよ」
姉と妹のことはにわかに信じられないが、兄が味方なのは揺るぎなく信じられる。
なので大きく頷いた。
「じゃあ次は婚約パーティーの話をしようか」
「パーティーはいいのでは」
姉のように綺麗でもなく妹のように可愛いわけではないのでパーティーはいつも気後れする。
「大事だよ。いいかい、僕は興味ないと言ったけど、他がそうとは限らないだろう。
エリーが婚約者不在だと思われて、釣書送られても困るだろう。
ましてやジリーは後ろ盾がないんだよ。
難癖つけられるのは目に見えてる。
そうなる前に周知しとけば弱みになりにくいだろ」
一呼吸おいて兄は悪い顔をした。
「エレーナ、ギルバートを誰のか知らしめたくないのかい?」
うう、その言い方はずるい。
流石お兄様私のことわかっている。
釣書とか他がなんと言おうが興味ないが周知するのは違う。
知らしめたい。ギルは私のって高らかに言いたい。
べったりがっつりひっついて誰のか言ってまわりたい。
確かに婚約パーティーなら許される。許されないわけがない!
「乗り気になってくれて良かったよ。
大まかなことは決めて細かいのは二人で決めたらいい。
二人のパーティーなんだし」
「はい、お兄様ありがとうございます」
ギルとどんなパーティーにしようかな、楽しみだ。
直感男子小学生と見せかけて思考型のエレーナ
世話焼きオカンと見せかけて情緒不安定ギルバート




