無実だ!!
わたしは今非常に緊張している。
誰にも見つからないように、誰にも会わないように。
側にいる人物を自分の上着で隠し、殿下の部屋まで急ぐ。
殿下の私室の前にいる騎士に中に入れてくれるよう目配せする。
案の定止められた。
「そちらはどなたですか?」
「答えられない。でも怪しい者ではない。
殿下もよく知ってる人物だ」
「それでは入室の許可は出せません」
お願いだから出してくれ。
こんな姿わたしのルルに見つかったら何と思われるか。
何言っても言い訳しか聞こえない。
「おや?義兄殿ではないか。
余の部屋の前で何かな?」
さっき通った廊下から殿下と殿下にエスコートされながら義妹のスピカが来る。
終わった。
義妹の顔が歪むのがわかる。
違うんだ。本当に違うんだ。
「浮気ですかお義兄様」
「違う!違うんだ!」
「ではその方は?上着までお貸しになって寄り添っているのにどう言うおつもり」
違う寄り添ってない。
自分では立てないから支えてるだけだ。
「違う本当に違うんだ」
「とりあえず、中に入ろうか。
余も流石にここで話を進めるほど無慈悲ではない」
殿下の部屋に入る。
ものすごく睨まれながら。
もう嫌だこれ
促され、椅子に座ると横の人物がもたれてきた。
さらに義妹の目線が険しくなる。
もう終わった。どう言っても何言っても言い訳でしかない。
「で、そっちの者は?」
観念して上着をとる。
銀髪の髪に金の目の綺麗な女が顔を出す。
まぁ綺麗と言ってもルルほどではないけど。
「これまた綺麗な者だな。義兄殿は面食いだな」
「面食いかもだが、これは違うんです。
とりあえず、殿下に診ていただきたくて。
人形のように動かなくて困ってるんです」
「ふむ。そなたの妻の方が余より上手いだろうに」
「ルルには頼れません。
本当は義妹達にも見られたくないというのが本人の希望でした」
「見られて何か不都合でも」
わたしにはないが、もう何度、誤解されればいいのだろうか。
否定しても余計に嘘くさいので、首を横に振るだけにする。
「まぁいい、診てみよう」
殿下が女の手をとる。
少しして首を傾げた。
目配せでやめてと訴える。
気づいたのか小さく頷かれた。
「魔力が絡まっているな、少し時間をくれ、解けば動けるだろう」
その言葉にホッとする。
うっ視線が痛い。
これでもかと睨みながら、何やら指輪の石にボソボソ言っている。
あ、なんかもっとやばい気がしてきた。
終わったみたいだが、背中に嫌な汗が流れる。
「ふむもう少しだな。
茶でも飲んでくつろいでくれ」
くつろげません殿下。
義妹が出された紅茶を飲みながらも睨む力を緩めない。
これならドラゴンと相手にした方がいい。
「この方とはいつからのお知り合いですの?」
底冷えする声にビックとなり答えないでいると舌打ちされる。
もう泣いてもいいだろうか。
「でいつからですの?」
「…幼少の時からの友達だ」
「まぁお姉様より長いとでも?」
「同時くらいだ」
「まぁまぁまぁまあ」
まぁの圧で殺されそうだ。
もうやだ。ルルに膝枕されて慰められたい。
ノックの音が響く。
「お取り込み中申し訳ございません。
リリーフロスト侯爵からお客人が参られています。
どういたしましょう」
「入っていただいて。殿下の許可はいただいております」
「か、かしこまりました」
義妹の冷たすぎる声に伝令が逃げ出す。
嘘だろ、増援とは聞いてない。
一体いつ…あの指輪か!
またアドニスが作ったのだろう!
わたしも欲しいが、今は誰にも渡して欲しくなかった。
蛇に睨まれるカエルの如く縮こまっていると、勢いよくドアが開いた。
燃えるような目をした不機嫌な義妹がツカツカ歩き、スピカの横に腕を組み座った。
後ろからきた義弟がドアを閉め、訝しみながらこちらを見ている。
義弟を見ながら首を振るが、義弟も首を振る。
そんなわたしはやってない無実だ。
「はい、これで動けるはずだが、どうだいお嬢さん」
「これでこちらの方からもお話し聞けますね」
もう何も言うまい。こいつにどうにかしてもらおう。
横を向くと金の目がぱちぱちと何回か瞬きした。
「ありがとうございます殿下。
あとごめんねロッティ、ここまできたら喋って良かったのに。
君は律儀というか何というか」
「まぁ!愛称呼びですの」
「そうだよスー、君が生まれる前から呼んでるからね。
気づかないのかい?
それは悲しいねスー、エリーよく見てごらん」
訝しみながらも二人が女を見る。
魔力を見ているのだろう。
わたしにはよくわからないが。
「「お兄様!!」」
「そう君たちの兄だよ」
「お兄様がなぜお姉様に?
何故私達黙っているのです!」
「そうです余計に話が拗れるではありませんか!」
「君達、先に知らせたら絶対面白がって着せ替え人形にして僕のこと遊んでいただろう」
二人が目線を逸らす。
なるほど、もしわたしがなっていたらそれはわたしも嫌だ。
わたしもアドニスか殿下に頼もう。
「この方が本当にお兄様かわかりませんわ声が違いますもの」
「そうね、ドレスなんてお兄様きませんものね」
いやさっきお兄様って叫んだくせに。
「いいんだよ、信じないなら。
僕は君たちの恥ずかしい過去をいくらでも喋れるんだよ」
「いえお兄様でした。私達の勘違いでした」
「そうねお姉様。
ところでお兄様どうしてお姉様に?」
「双子のイタズラだよ。
箱を開けたら男女入れ替わる魔法を作ったらしい。
髪色はレイナのだろうね。
ただ途中の術式が悪くて徐々に人形みたいになっていたんだ。
あと少しで呼吸も止まるとこだったよ。
本当に殿下には感謝しかありません」
そうかそんなに危なかったのか、一目散に殿下のところに来て良かった。
「あー!」
「どうしたのスー」
「ごめんなさいエレーナお姉様だけに伝えたつもりがディアナお姉様にもさっきの石話、つながっていたみたいでその多分お姉様も聞いてたかも」
嘘だろ?!
うっかりさんですまないのだが!
ノック音が響く。
「リリーフロスト侯爵よりディアナ・ドラコニス様がご到着です」
殿下が入ってもらうように許可を出した。
死んだ、もうわたしは終わりだ。
ディアナが綺麗なカーテシーを見せる。
美しい君を見て死ねるならいいのかもしれない。
「ご無沙汰だな義姉上」
「申し訳ございませんご無沙汰しております上に、ご迷惑おかけしております。
何やら妹がはしゃいでいるようで」
笑顔だがルルが喋るだけでピリピリする。
とても怒ってる。嫉妬は嬉しいが恐怖でしかない。
「これには理由があってだな」
「わかりました」
「わかってくれるか」
「はい、こちらの方兄ですわね。
魔力の捻れがございますね、殿下が診てくださったのですね。
ありがとうございます。
この魔力痕、原因は双子ですわね」
さすがわたしのルル完璧だ。
「ルル、わたしは浮気などしていない!無実だ!」
「大丈夫ですよ旦那様。見ればわかりました。
最初怒ってごめんなさい」
「いいんだよ、紛らわしいことをしたのはわたしだから」
良かった、浮気疑惑がはれた。
ことの原因の双子は後でしっかり怒っておこう。
「お姉様、お義兄様も今回勘違いで騒いでごめんなさい」
「ごめんなさいご心配をおかけしました。お義兄様も疑って申し訳ございません」
「大丈夫よ、勘違いでよかったわ」
「ああ、わたしも紛らわしいてすまなかった。わたしはルル以外女性と見てないから浮気はしない信じてくれて大丈夫だ」
姉妹の仲の良さに改めて恐怖を感じた。
悪いことするつもりはないが、今回みたいな勘違いされないよう気をつけよう。
「なぁ義姉上、もし義兄殿が浮気してたらどうする?」
やめてくれ殿下やっと話がまとまったのに、蒸し返さないでくれ。
「決まってますわ、旦那様を殺して私も死にます」
「ルルわたしの愛しいルル。
なんて素敵なんだ!」
椅子から立ち上がりルルを抱きしめてつむじにキスをする。
「待って!どこに今素敵な要素があった!」
アドニスが騒いでいるがあっただろうが。
「滅多に怒らないルルがわたしのために殺意まで出すのだぞ。
素敵以外に何ものでもないだろう
浮気なんて馬鹿なことはしないが、その殺意で一回刺されてみたいな」
「おおーっとその扉は開くなロッティ。
閉じろ速やかに閉じるんだ」
「何馬鹿言ってるんだ。そんなことわたしのルルにさせるわけないだろう。
ただ死ぬ時はルルの手で殺されたい」
ルルの手を掴んで自分の首にやる。
柔らかな感触に胸が熱くなった。
「だから閉じろってば。
妹を変なことに巻き込むな」
「あらあら、困った方」
なんでもないようにルルが笑うから、余計にわたしの胸を熱くする。
手に力を入れると、義弟が頭を叩いてきた。
「いった」
「うちのエレーナに変なこと教えないでいただきたい」
「まったくだよ。よくやったジリー。
もっと体が動けてたら僕が顔面殴ってでも止めたのに」
「余は面白かったが、そろそろ皆出て行ってくれないか。
スピカとお茶会の時間だ」
そう言ってスピカ以外、使用人も護衛も全員追い出された。
残念だ。
続きはまた二人っきりになってからにしよう。
帰る途中、殿下の部屋から殿下の悲鳴が聞こえたが、殿下だったのでそのままみんな帰ることにした。
アドニスもしばらく歩くと元の姿に戻った。
服装も元の男のものだ。
「服まで変わるなんてなかなか興味深かったよ。
術式が完璧ならもっと面白かったんだけどね
惜しいな双子センスはあるよ」
そう言われると双子怒りづらくなるな。
でもまぁアドニス死にかけたので、そこはしっかりと伝えてしかろうと心に誓った。
ロッティ、めっ。
下の子が真似しちゃうでしょう




