神の職探し(エピソード後)
「ねー僕思ったんだけどおー様」
美味しい朝食をわいわいみんなで食べていた時、ふとオーズがそう切り出した。
横でせっせとオーズの世話を焼いていたフィーカも止まり、呼ばれた父に至っては顔から汗を吹き出している。
私を膝に乗せ、朝食を食べさせてくるニルスだけ普通だ。
場がシーンとなっているのに、お構いなしにフォークでさしたトマトを口に入れようとするので、ニルスの頬にキスして黙らせる。
「あの、何でしょうか?」
お父様の汗が出過ぎたせいか、顔色悪くなってきた。
「僕達働いてないのにご飯食べてるじゃん。
それはいけないと思ってさ。
なんか僕達でもできる仕事ない?」
「オーズ俺はリズを可愛がる仕事をしている。
断じて無職ではない」
「馬鹿な弟のことは置いといて、タダ飯食はよくないからさ。
何でも良いよー。
犬の散歩でも、厠掃除でも、魔獣狩りでも。
そうそう盗賊出て困ってない?」
一旦止まった汗がまた噴き出ている。
わかりますよお父様。
この国の神にトイレ掃除だの犬の散歩だの雑用も雑用。
しかも汚れ仕事を頼めるはずがないもの。
「あの、あれです。
ダンジョン迷宮をお造りいただいているので、それがお仕事です。
タダ飯食いにはなりません」
落とし所としては上手い。
また執拗にトマトを食べさせてくるので、ニルスの手をにぎにぎする。
それだけで少しおとなしくなる。
「えーあんなのバーってやってガーッとしてバンってしただけだよ。
一日もかかってないよ。
ねーおー様、僕結構すごいんだよ。
大抵のことできるよ。
川でも山でもすぐだよ」
それはそうなのだが、違うんです。
神様に気軽にやっといて〜なんてうちの父が頼めるはずがない。
「オーズ何でそんな仕事に拘るんだ。
ダンジョン迷宮造ったんだ。
その報酬で少し王宮に滞在しても全然少ないと思うぞ」
父が始めて息をしたような何ともいえない顔してる。
心の声が聞こえるなら、よく言った婿殿かな。
ニルスと婚約もしてないのに、父は婿殿呼びしてるので、何だかなとこっちが思ってる。
「だってさーせっかく奥さんもらったのに、無職ってカッコ悪いじゃんかー」
「そんなことございません、ディーン様はいついかなる時もかっこいいのです」
「そう言うことじゃないけど、ありがとね」
オーズがフィーカの頭を撫でる。
お兄さんはしっかりしてるのに、この弟はいかに私といるかを考えてる。
ニルスを見るとキュルンと甘えた顔をした。
くっ絆されると思わないで。
そっぽを向くとまた舌打ちした。
危ない、五回に一回が最近三回に一回許してる気がする。
あの無表情が歳下のお姉ちゃんお願いと甘えっ子の顔するとつい聞いてしまいたくなる。
負けないの私と自分を叱咤する。
「だからおー様せめて居候のタダ飯食いだけは脱却させて」
「あのそもそもですよ、この地はディーン様のですよね。
その上に我々が住んでいるのは貸していただいているからでありまして。
国からディーン様に予算がもともと振り分けてありまして、土地貸し出し料だと思っていただければと思います。
なので居候は我々の方で、食事も貸し出し料です」
父も必死なのだ。
支離滅裂でないだけ許していただきたい。
「んーそう言われてもなー
何もしてないのに変わりは無いしー」
そうなのだ。オーズはお金が欲しいわけでは無い。
仕事している実感が欲しいのだ。
「ディーン様、また神殿で働きになられてはいかがでしょう。
民の話を聞いたり、お願い叶えたり」
「良いねそれ、おー様いい?」
「もちろんです」
フィーカの提案に父の汗がやっと止まった。
若干顔色も良くなってる気がする。
「でもさ、それが嫌でまた地中に行ったりしないよな」
貴方って人は。
せっかくまとまりかけたのにと思う反面、確かにまた地中に引きこもられても困ると思う。
「時間を決められてはいかがです?
四六時中誰も彼もがくるからお嫌になったのでしょう。
なのでお兄様がお時間決められるのもそうですが、嫌な民は扉が開かないか神殿の外に追い出せば良いのですよ」
私の提案にオーズがにっこりとする。
「ああーなるほどね。
そしたら僕もまったりできるしねー。
良いねそれ。
じゃあおー様神殿の周り池にして簡単にこれ無くしても良ーい?」
「もちろんです。もともと池でしたので何もかわりありません」
「やったー、小舟を漕いでしか来れないくらい広さあるからちょうど良いね。
泳いでくるやつがいたらちょっと面白いけどなー
その根性に免じて願い聞いてあげても良いねー」
「それは俺でも叶えてくれるのか?」
「叶えるわけないでしょ馬鹿だなー。
君は叶える方だよ。何仕事しない気でいるのさ。
僕と一緒に仕事するか、王宮で騎士団にでも入るか、一人で冒険者するか選びなさーい」
世間知らずで考えはぶっ飛んでいるけど、弟より常識人で本当お兄様ありがとうございます。
「だから俺はリズの「無職を夫に持つつもりはありません」俺はリズのためだったら何でもするさ」
良い心がけです。
まぁお兄様大好きニルスが選ぶなら神殿だろうけど。
「で、どうするのさ」
「騎士団に入る」
意外な答えにオーズと私の目が丸くなる。
「また何で」
「リズと結婚するには貴族にならないとだろう。
騎士なら頑張れば男爵ぐらいなら貰えるって聞いたから」
嬉しい考えてくれてたんですね。
いかに私を膝に乗せるかだけでなくちゃんと考えてくれたことが嬉しい。
「でも男爵じゃお姉様と結婚できないよ」
弟が言った真実に、顔に出ないけど絶望しているニクスをヨシヨシする。
事実なので慰めようがない。
「肩書きなんて神の弟とか僕の仕事手伝って神の代理人でいいじゃん。
そこらの貴族より地位は高いんだから」
「そうなのか?」
えーとどうなのだろう。
200年前はそうかもだけど、今は名誉職という扱いだ。
「おー様駄目?」
「いえ、むしろ婿殿と娘が結婚しやすくなってありがたいです。
神の代理人、公爵くらいの位置付けでいかがでしょう」
今日一番のお父様の笑顔だ。
私よりニルスが好きなのではと思う。
ニルス大好きすぎてどうやって爵位あげようか悩んでたくらいだもんね。
にしても公爵はあげすぎだと思う。
実質まだ何の功績もあげてない。
いや神の弟ってことが功績なのかも、これに文句言う貴族がいたら自殺志願者だと思っていいくらいだ。
「いいねー、ありがとうおー様。
じゃあ早速仕事に行こうかニルス」
「はぁ?今からか?」
「善は急げって言うだろう。
それに結構神殿放置してたから中荒らされてたら嫌じゃんかー」
「それはご心配いりません。
騎士を配置し何人も通さないようにしてます」
「えー本当ーおー様ありがとーねー。
嬉しいからなんかお願い叶えるよー
腰痛治そうかー?」
「それは是非にお願いしたい」
よっぽどのことらしく、目の色変えてオーズにお願いしてた。
オーズが指を鳴らすと、父が立ち上がりキラキラした目で母と踊り出した。
「うん、うん。嬉しそうです何よりだ」
それを見たオーズが嬉しそうに微笑む。
嬉しいから嬉しいこと返して。それが嬉しいから世話焼かれて、なんだかんだ言いつつそれも嬉しいから嬉しいを返してって嬉しいの連鎖を作ってる。
この神様はこうやって人たらししているんだなっと思った。
「フィーカもご飯食べなーって朝から言ってるけど、いいの一緒に食べないで?
食べないなら置いてくよー」
「それは意地悪ですディーン様」
「じゃあ一緒に食べようよ。君は僕のお世話係じゃなくて奥さんだろう」
「はい」
フィーカから音が出るなら今ボンってなっただろう。
それくらい一気に全身真っ赤になってる。
新妻かわいい。
と見ていたらニルスがまだトマトを押し付けてくる。
今度は食べて、かわりにニルスの口にパンを突っ込む。
咀嚼してる間ぐらいは大人しい。
「ねえさま、ずっとおもってたけどなんでニルスのひざのうえでごはんたべてるの?
なぜ、ニルスにごはんあーんされてるの?
ひとりでごはんたべれなくなったの?
ごびょうき?」
下の弟の言葉でやっと気づく。
私ニルスに毒されすぎた!
人前で何故ニルスの膝の上に乗っているのか!
何故ご飯を食べさせてもらっているのか!
あまつさえ、黙らすのに、頬にキスまでしてた!
ニルスの膝の上から降り立ち上がり、一目散で逃げる。
穴があったら入りたい。
むしろ穴掘って埋まりたい。
誰か誰でもいいから私のしたことみんなの記憶から消して!!
自分の離れまで走ったけどダメでベッドの上でどったんバッタン跳ねたり転がったりするが息が上がるだけで羞恥心は消えない。
神様、オーズ様どうかこの記憶消してくれないだろうが。
笑顔でいいよーと言うオーズの横で、根源が待ったをかけてる。
想像の中だけでも消してくれていいじゃないか。
ニルスの馬鹿!!
ノックが聞こえ、馬鹿野郎の声が聞こえる。
唸り声で返事をすると、楽しそうに入ってきた。
もっと申し訳ない顔して欲しい。
「今顔見たくありません!」
「そう言うな、リズ。
リズから膝に乗ってきた時はあれ?って思ったんだぞ。
珍しいなって考えたし」
「その時止めてくださればよかったのに」
「そんな恥ずかしがると思わなかったんだ。
今度はたぶん止めるからな、機嫌なおせ」
「多分ではありません、絶対止めてくださいませ!
機嫌は今日はなおりません!」
笑いながらキスしてくる。
今この羞恥心と戦っているのだからやめて欲しい。
今日中に決着つけたいのだ。
たぶん無理だけど、これ時々思い出して悶えるやつだもの。
手強いに決まってる。
ベッドに寝そべる私の上にキスをしながらのしかかってきた。
重いから退いて欲しい。私は今それどころではないのだ。
「わかった。もっと恥ずかしいことをしよう」
ニルスの提案にビックとなり嫌な汗が流れた。
「大丈夫、今度は見ているのが俺だけだ」
とてもいい笑顔が逆に怖い。
「あのでもあなた仕事は?」
「オーズはなんだかんだで俺に甘い。
この顔でお願いすれば一発だ」
あの弟顔、わかってやってるんだ。
服を脱ぎ始めたので、必死に逃げようとするが、腰を掴まれ戻される。
「大丈夫、痛くない」
知ってる。
でも私が怖がってるのはそこではないのだ。
いい笑顔でキスされるから私もどうしていいかわからなくなる。
本当にやるのだから怖いのだ、その日一日の記憶を私は無事に封印した。
二度と思い出したくもない最悪の一日だったとそれだけ記憶に残して。
神のお兄様でさえ職探ししてるのに、ニルスはもう




