あなたが産まれた時(四兄妹の話)
夫の愛を疑ったことはない。
でも、私は第一子の髪の色を見た時、瞳の色を見た時、思わず、夫から赤子を隠してしまった。
「泣いてるね。お腹空いたのかな。
生まれたてなのにすごいな。
ありがとう私の女神。本当にお疲れ様」
見えていなかったのか、見えてその反応なのか、嫌な汗が背中を伝う。
隠し通せるものではないので、隠していた赤子を見せる。
夫は嬉しそうに抱いてくれ、その顔を見てホッと胸を撫で下ろした。
良かった受け入れてくれた。
「目の形が君そっくりだ。
口は私に似てると思わないかい?」
この子を普通の子のように扱ってもらえて涙が出る。
そんな私を見て、夫がオロオロし出した。
「どうしたんだい?
やっぱり私似なのが嫌だったのか?」
見当違いのことを言って背中をさすられたので、首を横に振って違うと示す。
先祖返りはあまり歓迎されない。
ある国では信仰されるが、ある国では畏怖の対象とされる。
我が国でも、畏怖の対象だった。
私の世代にもいたが、表立っていじめはないが孤立はしていた。
あの子はそういう子だと言われていたのであまり深く関わってはいない。
でもそんな子はいないと大人になって分かった。
自分と違う少数派というだけで、疎外の対象になっているのだ。
違うから仲間外れにする。
子供の無邪気ゆえの残酷さ。
大人はもっと露骨に狡賢く執拗に、さも自分が正義だと言わんばかりに責めたててくる。
一つでもそうなのに、神の血と竜の血の両方の先祖返りなんて、この子に生まれながらにして業を背をわせてしまった。
不甲斐なくて涙が出る。
私が悪いのだ。
私がこの髪の色に、この眼に生んでしまったから。
後悔の涙が止まらない。
「どうしたんだい?お腹空いたのかい?
気持ち悪いのかい?
良いんだよゆっくり寝て。
この子は私が見てるから、君は大仕事の後だ、遠慮なく何でも言ってくれ」
見当違いの夫にも、泣いてる我が子にも申し訳なさが募る。
「何でも言ってくれと言ったけど、とりあえず、申し訳ないけど赤ちゃん抱っこしてくれるかな。
私ではまだ嫌みたいだ」
言われて、そういえばまだ我が子を抱いてないことに気づく。
そっと小さな命を受け取る。
すると泣き止んで、小さなあくびをした。
「お母さんがいいんだね。
君も泣き止んで良かったよ。
赤ちゃん捕られると思ったのかい?
すまなかったね」
「違う。申し訳なくて、ごめんなさい」
「何がだい?五体満足健康に生んだのにそんな謝ること一つもないんだよ。
むしろもっと褒めろと怒っていいんだよ」
夫が横に座り抱きしめてくれた。
またシクシクと涙が出る。
「この子が先祖返りだから」
「先祖返りなら可愛くないのかい?
僕はとってもかわいいと思ってるよ。
たかだか、髪の毛と眼の色だ。
それにこの色は神様みたいで綺麗じゃないか。
おおっとまて女神の子なんだからむしろ当たり前でもあるね。
私の妻は女神で、その子が神なんて普通だろう。
とやかくいう方がおかしいんだよ。
変なこと因縁つけるやつがいるなら私が言い返してやるから安心して。
ね、私に口で勝てる奴がいると思うかい?
いたとしても、その人は先祖返りなんて気にしないよ」
夫の言葉に妙に納得する。
特に最後の方、口喧嘩で負けたとこ見たことない。
何でもしてくれる私に甘い夫でも、私と意見が違う時、意見を通すために口で言いくるめるのだ。
勝てたためしがない。
何を怖がっていたのだろう。
そうだ私にも子供にもこの口達者な夫がいるじゃないか。
そう思うと無敵になった気がした。
スヤスヤ眠る我が子に申し訳なさよりやっと愛おしいさが出てきた。
私と夫がこの子を守ればいいのだ。
陰口言う者は夫が何倍にして言い返すし、それでも懲りない奴は私が殴り飛ばせばいい。
相手が神だろうと何だろうと、夫と一緒なら大丈夫な気がした。
第二子を産んだ時、例にも漏れず、夫から隠してしまった。
何故かわからないが夫がこの赤子と恋に落ちるのではとおかしなことを思ってしまったからだ。
生まれたてなのにそんなこと思うくらい、それくらい綺麗な子だった。
「どうしたんだい?
赤ちゃん捕らないよ?見せてくれないかい」
「嫌だ」
「嫌って君、またどうしたの?
アドニスも不思議がってるよ」
「おかあさま、いもうとみせて」
アドニスにせがまれしぶしぶ赤ちゃんを見せる。
夫の反応に全神経が集中する。
「これまた綺麗な子だねー、君みたいだ」
「あかちゃんきれーねー」
「そうだね、まぁ僕の奥さんの方が綺麗だけどね」
子どもと張り合ってる夫がおかしくてくすくす笑う。
そうよ、何故夫を捕られると思ったのだろう。
出産後でちょっと変になっていたようだ。
夫が寝てる赤子を抱っこして、一言呟いた。
「神の愛し子かーこの子の旦那は大変だろうね」
神の愛し子?
何それ?
夫に聞くと、ああ君の国にはないのかと言われた。
「簡単に言うと”神に愛されるほど恵まれたものを持っている“人のことを指す言葉だよ。
この子の場合容姿かな。
同性からは意味もなく嫉妬され、異性からはいらない好意をたくさんもらうだろうね」
そんな馬鹿なと言い返せなかった。
今まさに私はこの子に嫉妬したのだから。
ゾッとした、生まれたばかりの子に嫉妬なんてそんなことあっていいはずがない。
私は母親失格だ。
例にも漏れずまた泣いた。
出産後は涙腺がおかしくなっているのかも。
「おかあさまいたいの?」
「どうしたの?
また不安になちゃったのかい?
私が君よりこの子を好きになるとでも思ったのかな
なーんてそんなことあるわけ」
泣きながら夫の裾を引っ張り、コクコクと頷く。
また抱きしめられ、つむじにキスをされた。
「私が君以外に振り向くわけないだろう。
安心できないなら今日いっぱい私の愛を聞かせても良いんだよ」
ちょっと考えてプロポーズの時を思い出し、涙が引っ込んだ。
夫の愛の囁きは重くて長いから遠慮することにした。
「おかあさまいたいいたいのとんでけー」
「ありがとうアドニス。もう大丈夫」
夫には悪いが産後なので愛など聞かずにゆっくり休むことにした。
第三子の時は何も隠さず夫に見せた。
抱っこしても寝かせても揺かごに入れても何しても元気に泣いている。
男の子のアドニスよりも泣く姿に、ディアナが特別大人しい子なのだと思った。
疲労しながら夫に赤子を見せる。
「元気な子だ。
これまでとは違った意味で大変な子になるね」
夫が覗き込むと、見えてないはずなのに、夫の目を見て泣き止んだ。
「緑が好きなのかな?
自分に似た色がわかるなんて賢い子だね」
たぶん偶然だろうけどそう言ってくれて悪い気はしない。
夫の反応も変わらずで安心したが、アドニスの様子がおかしかった。
じっと赤子を見ると、首に手をやり始めた。
思わず止めようとする前に、ディアナがアドニスに声をかけた。
「おにいちゃま、あかたん」
アドニスは先ほどの異様な雰囲気はなく、ディアナを抱っこして愛おしそうに妹を見ていた。
「ディー妹のエレーナだよ。かわいいねー」
その言葉に内心ホッとする。
夫も気づいたのだろう、私に目配せしてきた。
小さく頷く。
「ほらお前たち、お母様と赤ちゃんは寝る時間だ。
また後でおいで」
「はーい」
「あーい」
「ネチネチおじさんがくるから、ディー行こう。
あっちでえほんよんだあげる」
アドニスはさっきのことなどないようにディアナを連れて部屋を出て行った。
私の見間違えかと思ったが、夫も見てるしと考えこむ。
「竜の血だろうね。
アドニス最近自分の髪や眼の色気にし出しただろう。
それでこの子が私達の色、両方持っていたから嫉妬したんだろうね。
私達は血を甘くみていたみたいだ」
夫の言葉に頷く。
どうしたら良いのだろう。
やはりあの色に生んでしまったから。
また涙が出そうになったが、夫が先に目元にキスしてきた。
「泣かないよ。
君もアドニスもエレーナだって悪くない。
強いて言うなら、アドニスに変なこと吹き込んだ奴が悪いんだ。
君がそれに申し訳ないと思うのは違うだろう。
大丈夫。アドニスは優しくて賢い子だ。
さっきも笑顔の裏に動揺が見えた。
自分でも怖かったんだろうね。
私達は気づかないふりしておこう。
またなんてことはないよ。
あの子は私達以上に、血との付き合い方を分かってる。
心配ならこれまで以上にアドニスと一緒にいれば良い。
良い子してるけど、まだお母さんが恋しい年だ。
神の血もあって余計に孤独で寂しさを感じているのかもね。
私も今まで以上に子ども達を構うことにするよ。
たとえネチネチおじさんと言われてもね」
最後は私怨じゃないだろうか。
くすくすと笑いが漏れる。
ネチネチおじさん言い得て妙だ。
第四子の時はなかなかするっと産まれず、危うく死産かと思われたが何とか生きて産まれてくれた。
生まれる前も悪阻も酷く、生まれるまでずっと悪阻と戦っていた。
陣痛も重く、過去経験したことのない痛みだった。
生んでいる時も痛すぎて気絶し、何度も叩き起こされたことか。
なんとも生まれる前から手のかかる子だったので、産まれてからはひとしきり感動した。
夫もその様子を見ていたからか、何ともいえない顔で泣いている。
「あかたん」
「そうだよ赤ちゃんだよ。賢いねエリー」
アドニスはあの後何事もなくディアナとエレーナを平等に可愛がっていた。
お兄ちゃんっ子の妹達に囲まれて大変そうだけど、幸せそうだ。
時折寂しそうな目をするので夫と抱きしめるが、最近は嫌がられることが多くなった。
恥ずかしい年頃になったきたのだろう。
赤子を見てもアドニスは愛おしそうにするだけでエレーナなの時のような暗い表情もなく、赤ちゃんを愛でている。
「スピカ」
「アドニス、赤ちゃんに名前つけたの?」
「目がお星様みたいにキラキラしてるから」
「良い名前だね。、君の名前は今日からスピカだよ。
お兄様がつけたお名前だよ羨ましいね」
「スピカだけいいなー」
「ディーはディーって愛称、僕ががつけたよ。
それじゃだめかい?」
「ディーのおなまえディーってお兄さまがつけたの?
うれしいわ」
二人はきゃっきゃと手を繋いでくるくる回る。
「エーもエーも」
今度はエレーナも入れて三人で回り出した。
何も心配しなくても良かったんのだ。
こんなに子どもたちは大きくなったじゃないか。
嬉しくて涙が出る。
やっぱり産後は涙腺が弱いみたいだ。
「ふふ、今度は嬉し泣きみたいだから止めないでおくよ」
夫の言葉に頷く。
何でもお見通しの夫に今更ながら改めてすごいのか怖いのか考えてしまった。
「スピカはどんな子になるだろうね」
「何となく一番手がかかりそう」
私の答えに夫が笑う。
「先祖返りよりも神の愛し子よりもあのやんちゃのきかん坊よりもかい。
これまた大物、生んだね」
それはそうだと私も笑った。
母の予言通り、手が一番かかる甘えっ子駄々っ子スピカたん




