お兄ちゃん(双子の6歳くらい→10歳くらい)
のんびりと庭でお茶をしてると、ノクスが来て横に座った。
綺麗やらかっこいいと同世代からチヤホヤされている顔はむすっとしてる。
この顔はロッティの小さい頃によく似てるな。
あの頃はディーが他のやつと喋ってるだけで、こんな顔してたっけ。
でもはて?ノクスに好きな子いたっけ?
いやその前に目の前にはディーとロッティとレイラと最近歩き始めたシンシア。
数にいれるなら護衛や侍女がちらほらしかいない
みんなで仲良くシアが歩くところを微笑ましく眺めてたり、転けないように手助けしてたり。
さっきまでノクスもそこに加わっていたのに、何故今は不機嫌なのだろうか。
「可愛いほっぺが膨らんでるよ」
「かわいくない」
頬を突くと不機嫌そうにそっぽを向かれた。
「どうしたんだい、僕の世界一可愛い甥っ子」
そう呼びかけると、ノクスは椅子から降りて足にしがみついてきた。
抱えて膝に乗せる。
世界一可愛い顔が今は鼻水出して泣いていてぐちゃぐちゃになっている。
声を出さないで泣くなんて芸当どこで覚えてきたんだか。
ハンカチでいろんなものを拭いてやる。
だが、涙も鼻水も拭いても拭いてもも出てくる。
なんかちょっとおかしくなってクスッと笑みが溢れると、泣きながら笑わないでと言われた。
頑張ってニヤけないように真顔を作る。
「どうしたんだい、嫌なことあったのかい?」
「だってみんな僕をお兄ちゃんって呼ぶんだ。
僕はノクスなのに、お兄ちゃんじゃない
おかあさまもおとうさまもレイラだって僕のことお兄ちゃんって。
いやだからにげてきたの
おじさまは僕が一番でしょ」
シンシアは今一番手がかかって、一番可愛い時期だ。
ディーもロッティもレイラまでシアに構うから寂しくなったのだろう。
ここで一番だよって言ってあげたいが、僕の一番はミネルバだからな。
嘘はつけないよね。
「甥っ子では一番だよ」
「おいっ子僕しかいないじゃないかー!
おじさま僕が一番好きって言ってよー」
頭の回転速いなーと感心する。
ここで一番だよって言っても嘘だーって泣いて、違うって言うと嫌だーって泣くんだよなー。
どうしたものか。
「ノクスどうせ何言っても泣くんでしょ。
ほらトントンしてあげるから、何が嫌だったのか全部言ってごらん」
服に鼻水つくが仕方ない。可愛い甥っ子の鼻水だ。
甘んじてつけられよう。
ノクスは少し考え僕の胸におでこを引っ付けて顔が見られないように抱っこされるのを選んだ。
背中を一定のリズムで軽くトントンと叩く。
「ううぅ、だってママはだっこしてくれないしパパはたたかいごっこしてくれないし、レイラはシアばっかりだし」
「うんうん」
「おかしもシアばっかりとくべつでママがあーんってするんだよ。ごはんたべるだけでパパにすごいってほめられてずるい。
それにさっきだって、歩いただけですごーいってみんなほめるの。
僕だってはしれるしウマだってのれるもん」
なるほど妹に嫉妬したのか。
ぐずぐず泣きながら、嫌なことを色々話してくれた。
泣き止む頃には少しスッキリした様子だった。
「妹なんていらない」
「ノクス本当にそう思ってるの?」
「おもってるもんほんきだよおじさま」
「じゃあ可愛い甥っ子の願い叶えてあげる」
指を鳴らすと、レイラとシンシアが消え、何事もなかったようにディーとロッティが僕たちの近くの席に座ってた。
「あら、ノクス、お兄様のお膝の上で何泣いているの?」
「ほらノクス泣いてないでこっちで父様と一緒に遊ばないか?」
ノクスが辺りをキョロキョロと不思議そうに、でもだんだんと不安そうに見ていた。
僕の服を掴み、震えながら聞いてくる。
「ねぇおじさま。僕の妹は?」
「何の話だい?
君に妹なんていないだろう」
「いたよ!レイラとシンシアだよ。
ねぇママ!パパ!いたよね」
「かわいいノクスどうしたの?夢でも見てたの?」
「ノクス寝ぼけているのかい?これから妹ができるかもしれないが、今はいないよ」
「うそだ!どこにかくしたのおじさま!ねぇおじさま!
ママもパパもなんでうそつくの?」
「嘘っていわれても…旦那様どうしましょう」
「どうしたものか」
嘘じゃないもんと泣き出してしまったので、指をまた一つ鳴らす。
近くにいたディーとロッティはいなくなり、かわりに遠くでディーとロッティがシアとレイラと追いかけっこしているのか楽しそうな人影と笑い声も聞こえてくる。
「なんだい、妹なんていらないじゃなかったの」
「いるよ。僕の妹いるもん」
胸をぽかぽかと叩いた後、また顔を埋めてぐずぐず泣き出した。
そんな小さな背中を優しくトントンする。
「神様に願うからだよ。
もう簡単にいらないなんて口に出すもんじゃないよ。
今度は帰ってこないかもしれない。
それは嫌だろう」
「おじさまはいじわるかみさまだ」
「はいはい意地悪神様だよ。
でも本当になったら嫌なのは分かっただろう。
もう言葉にしないでほしい、約束だよ」
そう言うと、小さく頷いた。
「おじさまいらないって言ってごめんなさい。
もう言わない。
あとおしっこしてごめんなさい」
「うんなんか濡れてるなーって思ってた。
しょうがない、怖がらせた僕も悪い」
でも立ったら位置が位置で僕が漏らしたみたいになってるだろうな。
一緒に着替えに行くといらん話題を提供してしまうことになる。
エリーが絶対面白おかしく話盛ってミネルバに手紙書く。絶対嫌だ。
指を鳴らして魔法で二人とも着替える。
証拠は隠滅しよう。
あったことを無かったことにだ。
「まほうすごいね」
「そうでしょー。
ノクスも魔法の勉強すればいい。
勉強嫌だーって言ってないでやってみると案外楽しいかもよ。
まぁ楽しくなくても頑張れば楽しいが増えるかもね。
例えば君がイタズラで描いた絵を消すとか魔法だと一瞬だね」
「ねーなんでまほうでけしてくれないのー。
あんなの下手くそではずかしい」
「はっはーそれは自分で消すんだね。
ダメだって言うのに何回もイタズラした罰なんだから」
「あれでもこすってもきえないもん」
「それは罰だから簡単には消えないよ。
それこそ難しい魔法でしか消せないようにしてるからね」
「おじさまはいじわるでずるこだー」
「はいはい。伯父様は意地悪で狡い子ですよー」
クッキーを手に取り、ノクスの口の前にやると勢いよく噛みついてきた。
危うく噛まれるところだった。
残りのクッキーをノクスに渡す。
「ノクス、お兄ちゃん頑張れなかったら僕のところにおいで。
また話きいてトントンしてあげるから」
「がんばってるときもいい?おじさま」
「いいよ。大きくなってもおいで。いつでも何歳でもおじさんでもお爺さんになっても泣いなくてもトントンしてあげるよ」
「ほんとおじさま!おじいちゃんになってもだよ!ぜったいだよ!」
「うん約束するよ、ノクス。伯父様はいつでも君の味方だからね」
「じゃあいまもっとして!」
「はいはい」
ノクスをトントンしていると、レイラが走ってやってきた。
「ずるい!ずるい!ノクスばっかりずるい!
レイラもレイラもトントンして!」
「ダメ!おじさまは僕のなの」
「ほらレイラ父様が抱っこするから」
後ろからついてきたロッティがレイラを抱っこするが、嫌なのか身をよじって逃げ出そうとしてる。
「パパじゃないの!
今はおじさまがいいの!」
ロッティがわかりやすく落ち込んでいるが僕のせいではないと思うよ。
「しょうがないなー、はんぶんだけかしてあげるんだからね」
ノクスがそう言って片膝に乗り、もう片方にロッティから解放されたレイラが乗った。
僕の体は僕のなんだけどなー。
コソコソ話してる双子の背中をトントンする。
泣いていたのが嘘のように笑ったノクスを見て、クスリと笑いが漏れる。
よちよち歩きのシアを連れて、ディーが微笑みながらきた。
ロッティがディーにキスをし、ディーと手を繋いでいたシアを抱き抱えて頬にキスをした。
その瞬間、シアが思いっきり小さな手でロッティは叩いた。
バチーンとすごくいい音がする。
「シンシアはもう父を拒否するのかい」
抱っこが嫌なのかぶーと唸ってる。
それに気づいたのかロッティが地面に下ろすと、シアは嬉しそうに歩いてこっちにきた。
ロッティごめん。でもそんな顔で見ないで。
僕は悪くないから。
「えーシンシアも来たら僕おりないといけなくなるでしょー。
あっち行って」
「シンシアは赤ちゃんだからしかたないんだよ」
「じゃあレイラがおりてよー」
「いや」
僕の上で喧嘩しないで欲しい。
とりあえず魔法でシアを浮かせ、僕と双子の間に入れる。
重いが、まぁ可愛いものだ。
「僕は両手が忙しいから、お兄ちゃんがトントンしてあげなよ」
「僕が?」
「そうノクスが、優しくトントンってするんだよ」
ノクスが怖々、僕と同じ速さでトントンする。
「そう、上手だね。ノクスは世界一のお兄ちゃんだね」
満更でもない顔で誇らしげにトントンしている。
小鳥が囀り、暖かな日差しの中、そよ風がふいて木々の葉っぱを揺らす。
ディーが子守唄を歌い始めると、子ども達がウトウトし始める。
最初にシアが次にレイラが最後のノクスは眠るまで頑張ってトントンしていた。
みんなが寝た頃、ディーがこちらを向いて真剣な顔で僕を呼んだ。
「お兄様」
「なんだいディー」
「世界一のお兄ちゃんはお兄様ですよ」
思いっきり大声で笑い出しそうになった。
頑張って耐える。
「子どもと張り合う気はないよ」
「ええもちろんです。
でも、こればかりは譲れませんわ」
あんまり真剣に言うものだからまた笑いを耐える。
その時、優しい風が通り過ぎた。
執務室で庭にいる妹達と姪っ子達がキャキャしてる声を聞き、みんな大きくなったなーと月日の流れを感じながら今日も今日とても仕事する。
いつになったら僕はミネルバと隠居生活できるんだろう。
父も母もまだ現役なので、一足お先にとはできなかった。
そんなに暇ならと、仕事が増える一方だ。
ミネルバはミネルバで僕を放って、妹達とお茶会したり買い物したり楽しんでる。
ディーにまた赤ん坊が産まれるから余計に女達の結束が強くなっているのだ。
おめでたいが、寂しい。
はぁーとため息ついたところで、護衛が剣に手を当てるので、手を挙げて止める。
ノックもなくドアが開き、ノクスが勢いよく飛びついてきた。
肩が少し湿ったのを感じる。
10歳になっても泣き虫なんだから。
背中をトントンと優しく叩く。
「どうしたの」
「レイラがお姉さんぶってずるい。
それに僕だけ男だから仲間外れにされるうう
女じゃないから駄目って言われたあああ」
「そうか、従姉妹も女ばかりだものね」
「次はお母様に弟産んでもらう。
ねぇ伯父様、神様でしょ。赤ちゃん男にしてよ」
「僕にはそんな権限ないからなー」
「けんげん?」
「やっていいよーって言うお許しがないの」
「なんでー神様でしょ」
「神様でも下っ端だからね。怒られて消されちゃうよ」
「伯父様消されちゃうのは困る。
でも弟か男の従兄弟欲しいー」
ガクガク揺らされても仕方ないのだ、こればっかしはねー。
「ねぇノクス、世界一かわいい甥っ子」
ガクガク揺らすのをやめ、こちらをじっと見てる。
「僕はレイラに世界一かわいい姪っ子ってだいぶ前から言わないことに気づいてる?」
「そういえば言わないね、なんで?」
「なんでって世界一が二人も三人もいたらおかしいでしょ。
甥っ子が生まれたらノクスも世界一じゃなくなるよ」
「えーそれは嫌だな。
でも弟も欲しい。
それで弟と秘密基地作るんだ。探検もするの」
「じゃあ伯父様と君のお父様とするかい?
ジリー叔父様も誘っても楽しそうだ。
四人でダンジョン行っても良いよ」
「良いの?いつも駄目って言うのに?
レイラは?シンシアは?絶対行きたいって言うよ」
「今回は伯父様とお父様とジリー叔父様が一緒だから良いの。
で、女の子達が行きたいって言われたらこう言って、男じゃないから駄目って」
「うん!分かった!
ねぇいつ行く?今日行く?」
「行っても良いけど、君準備できてるのかい?
その格好で行くのかな?
僕は冒険に行くんだと思ってたけどなー」
「違うよ!僕も冒険しに行くんだ。
準備する、まずお菓子とお茶と敵と戦うための剣と」
「はいはい。それはお父様と相談しな。
でも君の妹達にバレないようにね。
男だけの秘密だよ。良いね」
「分かった!」
「ではまず、第一指令を言うよ」
ノクスは泣くのをやめて、神妙に頷く。
「ここにお父様とジリー叔父様を他の人にバレないように呼んでおいで。
それからみんなで作戦会議だ。
どこに行って何するかは隊長が決める。
四人がバレずに集まれたらノクスが隊長だよ」
「本当!約束だからね!」
「ああもちろん。
ほら、涙拭いて。よし行っといで」
笑顔のノクスを送り出す。
女達が楽しそうにしてるのだ。
男達だってたまには一緒に楽しんだって良い。
そういえば僕も弟欲しかったなと思い出す。
ノクスみたいに冒険も秘密基地も憧れたものだ。
妹ばっかりで一人男で疎外感がなかったとは言わない。
何となくノクスの気持ちはわかるので提案してみたが、僕が一番したかったのかもしれない。
巻き込まれてばかりだったので、たまには義弟を巻き込むのも良いだろう。
ふふと笑いながら仕事の続きをする。
複数の足音がするのを待ちながら、今日も今日とてペンを走らせるのだ。
ロッティは嫌われてないですよ。
ただおじさまの方が人気なだけ
ノクスは父と叔父を連れてくることに成功し、後日念願のダンジョン行って探検したり魚釣りしたり四人で楽しみました。
なんだかんだ四人とも男兄弟がおらず周りは女性ばっかりで疎外感あったのかも。
この後も結託してたまに遊びに四人で行くようになります。
殿下はほら王族だから、本当にたまによりたまに誘ってもらえるようになったとかなんとか。




