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お兄様、過保護過ぎるのでは?  作者: 蜂蜜
金貨一枚分の距離

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32/48

を図りかねて

章タイトルとタイトル繋げて読んでいただけると助かります

ニルスは酒場にて大して美味しくもない安酒をゆっくりと呑んでいた。

騒がしい店内はいつも通りで、男の野太い笑い声の合間に女の小さな悲鳴が聞こえる。

ここではよくあることだ。

誰かがまた給仕の女の尻でも触ったんだろう。

隣にいるオーズが昨日の夕食の話から今日の仕事の感想やらを喋っていたが、ニルスは興味が持てず適当に相槌をうつ。

これもいつものことだ。

あとは軽く風呂に入りベッドに潜れば、いつもと同じ毎日を今日も終わる筈だった。


女の小さく短い悲鳴が聞こえた。


いつも通りの筈なのに、妙に耳に残るその声の原因を確かめるため視線を向ける。


ああ、これはまずい。


何故そう思ったのかニルス自身わからなかった。

だが、いつも通り見て見ぬふりができそうにない事に舌打ちをする。

オーズが怪訝そうに眉をひそめたのが視界の端に見えた。

自分でもわかってはいるだけにまた舌打ちが出る。


「な、ねーちゃんいいだろう」


女を近くで見れば違和感と言い知れない苛つきがわく。

そこそこ上等な服を着た女。

顔はマントを深く被りわからないが、体型は普通だ。

これくらいならその辺にいる娼婦の方が後腐れなくて良いに決まってる。

そう自分を納得させるが目線が女から離れない。

これは本当にまずい。


「これくらいなら良いだろう?」


男が女の顔の前に指を五本出した。

王都近くに街だが冒険者の入れる酒場など数えるほどで、新人以外はよく見る顔だ。

名前は知らないが噂で新人喰いで知られるこの男、こうやって指で金額を示してる。

銅貨五枚。

えらく安く見積もったな。

この女はたとえ金貨五枚でも足りないと言うのに。

勝手に苛立ちがつのっていく。

おまえは誰のものに話しかけてる、そう言いたい気持ちをグッと堪える。

自分こそ何様だ。

ああもうこれはまずいどころではない。


女と男の間に入り、男を黙って見ると愚痴愚痴言いながら何処かへ行った。

女に向き直り、声を低くして脅す。


「ここはおまえみたいなのがくる場所じゃない帰れ。

二度とくるな」


まだ大丈夫。

そう自分に言い聞かせる。

一瞬、ただ一瞬交わっただけ、明日には忘れる。

それにこれだけ脅せば泣いて逃げ帰るだろう。

立ち去ろうとすると女に袖を引かれた。

ああもうこれは駄目だ。

女と目が合ってしまった。

きつめの顔をした綺麗な女。

意志の強い紫の目。

泣いたら潤んでさぞ綺麗だろう。

何か言いたげな唇はふっくらとしている。

触り心地が良さそうだ。


「人を探しています」


凛としているのに鈴のように可愛い声。

眉間に皺を寄せる。

俺以外の誰を探す必要がある。

女はそのまま続ける。


「ダンジョン迷宮の最下層を案内して欲しいのです。

オーズとニルスと言う冒険者を知りませんか?」

「そんなところに何のようだ」

「貴方に言う必要はありません。

ご存知ないのでしたら他をあたります。

行きましょうフィーカ」


行かせまいと今度は俺が女の腕を掴む。


「何をするのです」

「俺がニルスだ」


この女、護衛もなしに来たのか。

眉間の皺がより深まる。


「何ーニルス今日はそういう感じー

僕はこっちの娘にするー」


後ろでソワソワしていたオーズが女の後ろにいた女の手を取りはしゃぐ。


「お嬢さんこんばんはー良い夜にするよー

お名前は?僕はね今オーズだよー

コロコロかわるから好きに呼んでいいよー」

「…私、フィーカと申します。

あの今日は依頼できました」

「あーそっちかー残念。

ここで話す感じ?

あれだったら二階行く?

防音魔法かかってるよ。心配なら目の前で重ねがけするけど」

「お願いします」

「マスター二階一部屋借りるねー」

「はーいまいどありー」


女は度胸があるのかただの馬鹿なのか、オーズの提案を受け入れる。

舌打ちする。


兄貴も兄貴だ。

ただ、むさ苦しい奴らにこの女の声を聴かせてやるのも癪だったので、反論せず従い、女の腕を掴んだまま二階に上がった。


「じゃあ防音魔法かけるねー」


いつもはしない詠唱をオーズが唱える。

いつ見ても兄貴の魔法は綺麗だ。

ぼーと眺めていると、隣から綺麗と囁きよりも小さな声が聞こえた。

見る目あるなと感心する。


「はい、終わり。

じゃあ席に着こうかって言いたいけど椅子二脚しかないんだよね。

お客さんに譲るとして僕は失礼だけどベッドに座るね。

ニルスはお兄ちゃんの横に座るかい?」

「俺はここで良い」


窓際の壁にもたれる。

ドア近くよりいいだろう。


「そう残念。

じゃあまずは自己紹介するね。

改めまして僕はオーズ。

魔法使いだよ。剣とかは苦手かなー

で窓のそばにいるのが僕の弟のニルス。

剣使いだよ。他にも武器なら何でも使えるから武器使いかなー?

でお嬢さんは王族なのにメイド一人でよくきたねー。

紫の瞳ですみれ色の金の髪、エリザベス様かなー?」

「そうです。

私、エリザベス・ポマルム、この国の第一王女です。

こっちが私の侍女のフィーカ」


メイドがスカートの裾を掴み広げ独特な礼をする。


エリザベス。口に出さす呼ぶ。

何とも言えない気持ちになった。


「失礼を承知ですが、お二人は先祖返りですか?」

「そうだよー、僕は金の目でわかるように神の先祖返り、ニクスは白髪でわかる通り竜の先祖返りだよー

竜は毛がないのに髪の毛に出るの不思議だよねー

で、それがどうしたのー?」

「いえ、今回の依頼には不向きかと思いまして」

「ああ、ダンジョン迷宮の最下層、つまり神殿に行きたいって話?

でも僕たちくらいじゃない、神殿に行けるの。

別に君がそうしたいならこの話はこれでお終いでもいいけどー。

君は王族なのにどうして護衛も付けずにきたんだい」


気になっていたことを兄貴が聞く。

外にもそれらしき気配がない。

本物の馬鹿なのか?


「…こうしなければならないと思ったからですわ。

そうとしか言いようがないと申しますか、いつもはこんな無謀なことしません」

「へー、じゃあそれが答えかなー。

ニクスは優しいから引き受けてたかもーだけど、僕は依頼者本人を見て決めるんだー。

例え王族だろうと関係ない。

君の直感は鋭いねー褒めてあげる」

「ありがとうございます」


エリザベスはオーズに褒められても嬉しそうではなかった。


兄貴が褒めることは稀なのだ、素直に喜べば良いものをと言う気持ちと、兄貴に靡かないことで嬉しく思う気持ちが交差しごちゃつく。


「報酬はどうするー?

ケチるならそれなりに、大盤振る舞いなら僕も後始末からフォローまでしっかりやるけど」

「ケチったりしません。

ただ、国のお金は国民の血と汗でできております。

あまり多くは出せません」


そう言って袋を出す。

じゃらと音がなる。

壁から離れ中を確認すると金貨が入っていた。

ざっと見て100枚ほどだろう。

多くはないと言っていたが大金だ。


「それ以外のものでしたら、できるだけ準備します」


「うーんどうしようかなー。

お金あんま興味ないし他のにするニルス?

それともニルスは金貨がいいー?」


オーズの言葉に喉がなる。

緊張からか舌がかわくのがわかった。

うまく言葉にできるだろうか。


「それは、おまえでも良いのか?」


ぽつりとした俺の言葉に場がより静まる。

兄貴の方を向いていた紫の目がこちらを訝しむように見ている。


「ええ、まぁ可能ですが、私は長くないのでおすすめはしませんよ」


エリザベスが皮肉な笑みを浮かべる。

顔色もいいし、肉付きも良さそうで病気ではなさそうだ。


「ああ、王族と言っても大した権力はありません。

私を手に入れても王にはなれませんよ」


またしても自嘲するの口を手で塞ぐ。


「その笑みをやめろ、不快だ」

「まぁまぁ、ニルスはお姫様がいいんだねー。

じゃあ僕はどうしようかなー。

あ!城で一番美味しいワインにしよー

それでフィーカちゃんが注いでくれるなら更に美味しいだろうねー」


エリザベスがメイドと目配せで会話する。

メイドが頷いたのを見て、大きな深呼吸をした。


「では報酬はその二つでよろしいでしょうか」

「僕はいいよー。ニルスはー?」

「ああ、俺も異論はない」


エリザベスから離れ、また窓際の壁に寄りかかる。

腕を組んで気を静めるように呼吸を整える。

あの女が俺のものになる。

今、自分の顔が見れたなら、瞳孔は開き、口角をあげた凶暴な男が見れただろう。

腕に爪を立て、深呼吸をする。

兄貴もエリザベスもまだ話している最中だ。

まだだ。まだあの女に触ってはいけない。


「いつ行きたい?すぐ?一瞬で行けるよー

あ、でも女性は準備がいるよねーごめんごめん」

「一週間後、数十人の騎士とともにお願いしたいですわ」

「?護衛ならいらないよー?

むしろ数十人もいたら邪魔になるねー。

あーお城に絵を描いてもいい床ある?

大きいといいなー」

「ありますが」

「じゃあそこに前準備に一週間滞在して魔法陣描くねー

フィーカちゃんに案内してもらうから手紙書いてくれる?」

「それはどう言うことでしょうか?」

「ん?

だってニルス、先祖返りだよ。一週間じゃ短いけどないよりマシでしょ」

「よくわからないのですが」


本当にわからないのか、俺と兄貴を見比べて困った顔をしている。

そうか、グレーリーナじゃないと知らないのか。


「監禁と言って、一ヶ月ほど二人っきりで家に籠るんだ。

今回は一週間と短いが、それでもないよりはマシだな」

「終わったらまた篭ればいいんじゃなーい」

「なるほど、それはいいな」


心に余裕が出てくる。


「あのそれは必須なのでしょうか?

準備などまだやり残したことがあるのですが」

「うん諦めて。君もうニクス報酬だからねー前払い。

じゃ、始めようか。

ニクスは家使うだろう。

必要なものだけ取らせてくれたら出ていくから一週間後、城に来て」

「ああわかった」

「一日ください。

わがままを申しているのはわかっております。

ですが、家族に別れの挨拶をさせてください」


エリザベスが頭を下げてきた。

願いを叶えてやりたいのと、そのまま連れて帰って閉じ込めたい気持ちとせめぎ合う。


「んー、どうしよっか。

気持ちはわからなくもないから、全員城に行く?

ニルス、お姫様の部屋で監禁できる?

他の人の気配がしても殺しちゃダメだよ。

ニルスが我慢できるなら僕はなんでもいいやー」

「私専用の離れがあります。

小さな小屋で周りは木々に生い茂っておりますので、人払いすれば大丈夫かと。

ただ食事は保存食になりますが」

「それでいい」


むしろそれの方が良い気がする。

家の中でも街の様子が気になる。

木々が生い茂っている小屋の方が気にせず穏やかにこもれるだろう。


「一回僕たちの家に必要なものをとってからお城行こうー。

いやーワイン楽しみだなー。

ニルスがお姫様見つけてくれてー幸運だねー」


呑むぞーと歌い出しそうなオーズの後に続き四人で部屋を出る。

ニヤける顔を抑えて、エリザベスが逃げないように手を握る。

まだ夢でも見ているみたいだ。

この女が俺のものになった。

諦めていたのに、自ら落ちてきた。

兄貴にも感謝する。

やろうと思えば今日すぐにでもできたのだ。

それを一週間も時間を稼いでくれた。


夜は長い。ゆっくり丁寧に暴き俺のものだとわからせよう。


繋いだ手が振り解かれることはなかった。


育ちはあんまり良くないけど腕は確かな二人組

白髪赤目の無口な方のダウナー系剣士ニルス

黒髪金目の喋る方のダウナー系魔法使いのオーズ

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