長時間の提案は頭が痛い
四度目のお茶会に向かう最中、
「殿下」
呼ばれて振り向くといつも以上に眉間に皺を寄せたゲルハルトがいた。
「そう睨むなゲルハルト。許容範囲だと思ったんだ」
前を向き直し、息を吐くついでに小さなため息をもらす。
またしてもバレているらしく大きな咳払いが二度、後ろでしたが振り返らず無視をする。
日に日に増えていく禁止事項にため息ぐらい吐かせてほしい。
今日は今サンルームの花が見頃らしいので誘った。
先に来ていたシアンに挨拶をする。
見事なカーテシーを返される。
一回目の茶会の際、抱擁したら禁止になったので今は離れて挨拶をしている。
別々の椅子に向き合って座る。
二回目の茶会で膝に乗せたら禁止になった。
手を行儀良く膝に乗せる。
三回目の茶会でシアンの手に触れキスしたり舐めたりしたら禁止になった。
手は基本膝上とのこと。
まぁでも久しぶりにシアンと話せるのは楽しい。
たとえ触れられなくても…。
もどかしい。
嫁入り前でも嫁だ。
今手を出そうが、後に出そうがかわらない。
ほんの半年ぐらいだ。
それに仲良い方がいいに決まってる。
「シアン、手を握るだけでもダメか?」
「…そ、それはその。ダメではないですが、そのこの前みたいなことやめてくださいませ」
「この前?どんなこと?」
「そのゆびを…あの…舐めたり…」
「ああ、しない」
シアンはおずおずと手を差し出してきたので掴み恭しく持ち上げる。
指先にキスを贈る。
先ほど食べてたお菓子の匂いがする。
言ったらまた禁止事項が増えそうなのでやめた。
少しして口を離すが手は握ったままシアンと取り止めのない話をする。
「今日はなにしてたんだい?」
「刺繍を刺しておりました。
お…アレックス様はいかがお過ごしでした?」
「私は君ほど面白くないよ。そこのゲルハルトにせっつかれながら仕事してただけ。
それよりもどんな図案で刺していたんだい?」
「わ、私もその面白くはないと思います。
ただその今日は白鳥を刺しておりました」
「我が国のシンボルだね。
卑しいお願いだが、それを私にくれたりできないか?」
「アレックス様がお望みなら是非受け取ってください」
「ありがとう。楽しみだ」
感謝の意を込めて手の甲にキスをする。
あんまり長いとまた怒られるので軽く触れるだけにした。
「あの…お兄様、その触り方が少々その」
「なんだい?」
「殿下とぼけるなら禁止にしますよ」
ゲルハルトは厳しすぎる。
少し撫でただけじゃないか。
撫でるのをやめ、軽く添えるだけにした。
何かこいつを引き剥がす案はないだろうか。
ふとシアンの後ろにいる女騎士に目が留まる。
名前はなんだったか、女神じゃ無くてルイーゼ嬢だ。
「ルイーゼ嬢」
「お言葉ですがルイーズです殿下。女神の名前ですよ。間違えないで頂きたい」
「すまないルイーズ嬢。君ここにきて休みがないだろう。
働きすぎは良くないと思う。
きつくても上司が働いていたら休むに休めない。
そんな部下は可哀想じゃないかい」
「はぁ」
「五日いや三日ほど休みを取ったらどうだろう」
「ですが私には姫を「大丈夫。私も私の近衛もいる」
「ええルイーズ私は大丈夫よ。アレックス様が近くにいらっしゃれば安全だわ」
そいつが一番危ないんだよって顔で見られたが知らない。
「では二日ほど休みをいただきます。
ちょうど剣の手入れもしなければと思っておりました」
「あ、ルイーズ嬢はシアンの輿入れしてもそのままシアンの護衛を続けるのだろう?」
「はいそのように伺っております。」
「じゃあ、この街に詳しくならないとだね。
ちょうどゲルハルトも休みだ。
案内させよう」
「で殿下!?」
ゲルハルトお前そんな大きな声出せたんだな。
「なんだ不服か?では別の「いえご一緒させてください」
ゲルハルトはルイーズ嬢の元に行き、体を直角に折り曲げ地面と水平に手を出した。
ルイーズ嬢は気圧されながらもゲルハルトの手を掴み握手した。
「よろしく頼む」
「はい!明日の朝の金が九つなった頃馳せ参じます」
「はぁどうも…あの手を」
ゲルハルトお前だって手を握ったまま離さないじゃないか、その後も泣きながら離さないのでこっちが怖くなり無理矢理引き剥がした。
とりあえず二人とも邪魔者はいなくなった。
お茶会後、ゲルハルトに泣いて感謝され抱擁までしてきた。
スキップし仕事を片付けていた。
あの調子で毎回来られるルイーズ嬢に同情した。
そして待ちに待った次の日。
何故私たちはあいつらを眺めなければいけない?
鐘は一日に二十四回なる。
九つ目の鐘が鳴った時時間ぴったりにゲルハルトはきた。
その前からドアの前でウロウロしてるのは知っていた。
何故知ってるかって?
シアンがついていきたいと言ったのだ。
しかもルイーズ嬢の前で。
ルイーズ嬢はあきらかにホッとした顔をしていた。
まぁ確かにあの勢いで来られたら怖い以外何もない。
ゲルハルトが何か言うかと思ったが、またしても感謝された。
ゲルハルトいわく、二人きりはまだ荷が重かったそうだ。
私は二人きりになりたいのだが。
朝武器屋を回ったあと12回目の鐘が鳴り、昼食をとる。
そこまでは良かった。
問題はそこからである。
そこから三回鐘が鳴ったが、ゲルハルトは喋る喋る。
自分と結婚するとどんないいことがあるか、ずっと喋ってる。
資料付きで。
個室をとって本当に良かった。
うんもう長いよ。
シアンの肩を叩きドアを指す。
シアンもこくりと頷いた。
そろーとルイーズ嬢以外出る。
ルイーズ嬢が涙目でこちらを見ていたが、すまないと思いながらドアを閉じた。
二人きりではないがほのぼのと馬車街をまわる。
急遽だったので護衛も最低限しか配置ができず、馬車からおりれない。
それでもゲルハルトの長い長い話の後だとなんでも楽しく思えた。
シアンも楽しそうに窓の外を見てる。
「この国は皆笑顔ですね」
「一部はな。裏側はまだまだだ。
そこをどうにかしないととは思うのだが、思うだけで進んではいない。
情けないよ」
それでも彼らは私が殿下というだけで好意的な笑顔を向ける。
この人は暮らしをよくしてくれると言う根拠のない重い期待とともに。
「我が国も同じです。
どの国にも裏表はございます」
「ありがとう」
情けない男を励ましてくれて。
まずは隣国との強化と貿易。
特産物のワインの種類を増やすために、葡萄の品種も今改良中。
ただ今更感はある。
ワインは目新しく無く、他にも独創的な物をと求めるが、あるなら衰退していない。
「あの、お考えの中すみませんお兄様」
「ああすまない。なんだいシアン」
「果物があの価格で大丈夫ですか?」
馬車を停めてもらい市場の果物を見る。
どこまでも何種類もあるのでどれを指しているのだろうか?
「どれのことだい?」
「いえ全体的にです」
「?これでも少し高くなってるよ。
今年は取れづらくてな、嫌な事だ」
「これでですか?
果物が豊富なのですね」
「ポマルム国は違うのか?」
「基本貴族が食べるくらいです。
朝食に出たモモ、初めて食べましたが甘くてびっくりしました」
隣国の国ではこれが普通ではない?
いやだが、果物は痛むのがはやく輸出には向いていない。
加工するにしても何がいい?
「…菓子などに練り込むか?」
「まぁ美味しそうですね。
グレーリーナ国はお菓子の種類も豊富で羨ましいです」
「そうか?」
「ええそうですよ。
我が国でもお茶は飲みますが喉の渇きを潤すのが目的ですわ。
お茶を楽しむ文化もお茶会を毎日する文化はうちにはないです。
それに菓子もお茶も毎回かわることもないので、この国にきて一つ毎日の楽しみが増えました」
そんなものか。
あまり考えたことがなかった。
「肉なんて贅沢なものはない菓子を食え」と平民の親でもよく言うくらい菓子は身近なものだ。
パンより菓子の方が安い。
何故か、それは砂糖が安価で作れるからだ。
果物の砂糖漬け…庶民のおやつだが…
「果物を砂糖でつけたものなどどうだ?」
「食べた事ございませんが、美味しそうでございますね。
ポマルム国は甘いものが少ないので貴族の婦女子がこぞって買いそうです」
「そうか」
砂糖漬けは生より保存がきく。
うーん庶民のおやつのイメージが強い。
貴族向けなら瓶詰めジャムの方が高級感がでるだろうか。
もう少し皆で案を煮詰めよう。
思っていないところから案が出て、今日は出かけて良かった。
ルイーズ嬢には本当に申し訳ないがありがとう。
「シアンありがとう。
君は視野が広いな」
「いえお役に立てて良かったです」
はにかみ顔が可愛らしい。
「抱きしめてもいいだろうか」
「…もう、変なことしないならいいですよ」
はて変なこととは?
やめとこう、禁止事項がまた増えそうなので大人しく抱きしめるだけにした。
神様の影響下だから季節関係なく(地域差で獲れるのが違う)めっちゃなっているイメージ
ある貴族が「パンがないなら果物を食べればいいじゃない」と言ったとか言わなかったとか




