あの女騎士の事情
ミネルバの思いがけない一言で場の空気が固まったまま、幾ばくか時が過ぎた。
二人してグラス片手に突っ立っているだけ。
体は騎士として動かない訓練をしているので平気だが、心がそれどころではない。
あちらはどうだろうと横目で見れば、あちらもこちらの様子伺いをしているところで目線がかち合う。
一斉に逸らした。
いつもなら互いに言い合いになるのに?!
なんだこれ、くすぐったくて恥ずかしいのは。
「その…なんだ…俺はこれで」
「待て」
セドリックが逃げようとしたので引き留める。
今を逃すとこの感情の整理ができない気がしたからだ。
そんなのは嫌だ。モヤモヤしたまま過ごしたくない。
「なんだよ」
「ミネルバが言っていたのは本当か?」
「……」
ゴニョゴニョと何か言っているが聞き取れず聞き返す。
「なんと言った?」
「だったらって言ったんだよ。
お前はそれ聞いてどう思った?」
(セドリックいい加減好きな子ぐらい私を挟まなくても話せるようになりなさい)
「私は子どもという歳ではないのだけどな」
「茶化すな」
その言葉にムッとする。
「では私から言っていいのだな。
どちらを言っても君は何も言わないのだろう。
卑怯じゃないか」
いつもの調子で思わず言ってしまう。
やり返してこないところ見ると、結構なダメージが入ったみたいだ。
黙り込んだまま時が過ぎる。
気まずいがそろそろ時間なので、帰ろうと踵を返す。
後ろで動く気配があり腕を掴まれた。
「…俺はお前が好きだ。迷惑ならそういってくれ」
「…迷惑ではないが、いつから?」
「…初めて会った時から」
初めて会ったのはミネルバの家のお茶会だった気がする。
10歳になってない時だ。
セドリックは私に10年も片思いしていたのか?
「そんなそぶりなかっただろう。
いい笑顔でカエルやら虫やらよこして楽しんでいたくせに」
「違う!
…あれは宝物をやったつもりだったんだ」
その言葉を考える。
お護りしている7歳の殿下にも確かにカエルだの虫だのもらう。
宝物見せてあげると言われても、箱いっぱいにミミズが詰まっていた時は叫び声を上げなかっただけよしとした。
そうか、あの年代の男の宝物はみなああなのかと納得した。
「ミネルバは褒めて私を貶すだろう」
「それは、悪いと思ってる。
ただミネルバを褒めてお前も褒めても、お前はいい顔しないだろう」
何気にわかられているのが痛い。
そう、セドリックの言う通りだ。
ミネルバを褒め私を褒めてもミネルバをダシにしたといい顔しなかっただろう。
私の関心を引くにはミネルバを褒め私を揶揄う材料にする。
何より一番有効的だ。
戦術的にはあってるが長年積み重なるとなかなか苦になる。
少し意識して可愛いアクセサリーを買ったりした自分がいた事を思い出す。
まんまとセドリックの手のひらの上だったわけだ。
ほうとセドリックを見直す。
「お前はどうなんだ。俺をどう思っている?」
そう言われて考える。
友人の幼馴染。
それ以外だと軽口言い合える仲。
あとはふとした時に見える熱い視線に気恥ずかしくて逸らすくらいには気になっている。
「よくわからない」
素直な気持ちをそのまま出す。
セドリックは私の手を掴みおもむろにキスをした。
キスされた指先から熱が走り全身赤くなるのを感じる。
「真っ赤だな」
嬉しそうに笑うセドリックを見てさらに赤くなるのを感じた。
「し、仕事だから」
「ああ知ってる。明日の昼会いに行っていいか?」
「ダメだ」
「昼前にお前の寮に行くよ。デートしよう」
「ダメだって言っているだろう」
「今度はちゃんとカエルじゃなくて花を贈るよ」
「だから!」
「ジア、君の名前の花を贈ると言いたいが友情だと逃げる君が想像つく」
考えがまとまったのか、セドリックがいい笑顔をこちらによこした。
「意外と君、こういうこと無頓着だからな。
ストレートに薔薇にするよ。待ってて」
両手を掴まれた、またキスを贈られる。
振り解き、一目散に逃げた。
相手も私もどんな顔してるかなんてわかるわけがない。
明日のことで頭がいっぱいになる。
何を着ればいい?
さすがに騎士の制服はない。
訓練服?
髪は?
アクセサリーは?
引き出しの奥にしまったあの可愛らしいアクセサリーを思い出す。
ああ仕事できるだろうか。
この後あまりに顔が赤いのを体調不良と勘違いされ休みをもらった。
有給が有り余っていたのでちょうどいいと強制的に帰らされる。
結局帰っても寝るに寝れず、ソワソワと服を出しては胸にあて放り投げていた。
翌朝ようやく服や小物が決まったときセドリックがやってきた。
私の顔に負けない真っ赤な薔薇を四本もらう。
何故四本?
首を稼げると、セドリックがそっと教えてくれた。
薔薇四本で「死ぬまで気持ちは変わらない」らしい




